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特集

2020年6月29日(月)掲載

情報提供迫られる 在日ウイグル

「新冷戦」とも呼ばれるほど激しく対立するアメリカと中国。双方は、ウイグル族の人権問題でも対立を深めている。今月(6月)17日、アメリカ議会の上下両院で超党派の賛成で可決された「ウイグル人権法」が、トランプ大統領の署名によって成立した。
今、ウイグル族の人たちに何が起きているのか。新たな映像や証言で迫る。



そもそも…ウイグル族とは

  • 中国の西部、新彊ウイグル自治区を中心に暮らす、イスラム教を信仰する少数民族。自治区には1000万人以上が住む。
  • ウイグル族の間には、中国政府の宗教政策や漢族との経済格差に対して根強い不満がある。2009年には、中心都市ウルムチで大規模な抗議デモが発生し、暴動へと発展した。
  • 以降、中国政府は「テロ対策」としてウイグル族への締めつけをさらに強めてきた。近年、アメリカや国際的な人権団体は、当局がウイグル族などを不当に拘束していると批判。その数は「100万人を超える」という指摘も。

米中対立 ウイグル族の人権問題とは

新疆ウイグル自治区 収容施設と見られる建物

アメリカで成立した「ウイグル人権法」。この法律では、新疆ウイグル自治区で100万人以上のウイグル族などの少数民族が収容施設に入れられ、思想教育の強制や虐待などが行われていると指摘。その上で、人権侵害に関わった中国の当局者に対し、入国禁止や資産凍結の制裁を科すようアメリカ政府に求めている。

一方の中国政府は、施設では過激な思想の影響を受けた人などに職業訓練を行っていると説明してきた。さらに、新疆ウイグル自治区では3年以上テロ事件が起きていないとして、対策の成果を強調している。「ウイグル人権法」の成立については、内政干渉だと激しく反発し、対抗措置を取ることも辞さない構えを示している。

趙立堅(ちょうりつけん)中国外務省報道官(北京 6月18日)

「このいわゆる法案は中国新彊ウイグル自治区の人権状況をおとしめるもので、中国政府の政策に悪質な攻撃をしている。この地域の問題は、人権や民族、宗教ではなく、反テロや反国家分裂に関わる問題だ」


中国国外にも及ぶ“当局の影”

今回の「ウイグル人権法」では、海外で永住権や市民権を得たウイグルの人々までも、中国当局者による脅迫やいやがらせを受けていると指摘されている。

そうした事例は、2000人から3000人のウイグルの人たちが暮らすと言われる日本も無関係ではない。1人の男性が、NHKの取材に応じた。

ハリマト・ローズさん

新彊ウイグル自治区出身のハリマト・ローズさん(46)。15年前、大学院留学のために来日した。日本で建設関連の仕事をした後、3年前から千葉県でウイグル料理店を営んでいる。

おととし、平穏な暮らしが一変した。妻の親族3人が、次々と当局の収容施設に入れられたという情報が入ったのだ。故郷の家族からも連絡をしないよう求められ、現地の状況は分からなくなってしまった。ローズさんの周りにも、故郷の家族や親族が収容施設に入れられたり、連絡がとれなくなったりした人が多くいるという。

仕事のかたわら、ローズさんは在日ウイグルの人たちで作る団体の幹部も務めている。去年からは名前や顔も出し、中国の人権状況の改善を訴えている。

先月(5月)、故郷の兄からビデオ電話がかかってきた。兄は、見覚えの無い場所に座っていて、中国政府を批判するデモ活動に参加したかどうかを繰り返し尋ねてきた。不審に思ったローズさんは、兄に内緒で、別の携帯電話を使ってやりとりを撮影していた。

携帯電話の画面越しの兄

ローズ:「今、どこにいますか。周りを見せてください」
兄:「私は大丈夫だ。心配ない」
ローズ:「隣に誰かいるの?」
兄:「いや、誰もいない。(携帯電話のカメラで周囲を見せる)ほら、心配しないで」

しかし、会話を終えようとしたその時、画面に見ず知らずの男が突然現れ、話しかけてきた。


「中国は永遠に君の祖国だ。私はあなたと友達になり、いろいろな話をしたい」

男は、政府組織の所属とだけ名乗り、在日ウイグルの団体の活動情報を求めた後、「再び連絡する」と伝えて電話を切った。

左:ハリマト・ローズさん 右:携帯電話の画面越しの兄

2度目のビデオ電話は、4週間後だった。ローズさんから事前に連絡を受けたNHKの取材班が、その様子を撮影した。

兄:「国家安全局の人がお前と話したいと言っている」
ローズ:「本当に国家安全局の人ですか」

兄との短いやりとりの後、情報機関である国家安全局の所属だとして、前回と同じ男が画面に現れた。ローズさんが証拠を示すよう求めると、「一般の人に見せてはいけないものだ」と前置きをして、黒っぽいものを一瞬だけ示した。撮影した映像からは、「国安」という文字が読み取れた。

携帯電話の画面に示された「国安」の文字

男は、強い口調で協力を迫ってきた。さらに、ローズさんが協力すれば、見返りに日本国籍の取得に手を貸すと持ちかけてきた。

政府組織の所属と名乗る男とのやりとりの一部は、こちらの動画でご覧になれます。

ローズさんは、「考えさせてほしい」とだけ答え、この日の会話を終えた。深いため息をついた後、絞り出すような声で言った。

ハリマト・ローズさん
「兄にもいろいろと圧力をかけているかもしれない。すごく辛い気持ちで、どう言えばよいか分からない。当局に協力したらスパイみたいになってしまう。なぜウイグル人はこんな目にあうのだろう」


情報提供求める狙いは

収容施設の閉鎖を求めるデモ(イスタンブール 2018年11月)

ローズさんと同じような問題に直面しているウイグルの人々が世界各地にいると、国際的な人権団体は指摘している。

ことし2月、アムネスティ・インターナショナルが発表した報告書では、22か国に住む、およそ400人に行った聞き取り調査の結果、少なくとも26人が「情報提供者になるよう求められた」と回答した。

なぜ国外のウイグルの人たちが情報提供を求められるのか。

人権団体などは、ウイグル族の人権問題に国際的な関心が集まることを、中国当局が強く警戒していることが背景にあると指摘している。このため、国外で中国政府を批判する活動の動向を探っているというのだ。在日ウイグルの人が情報提供を求められたと話すケースは、NHKの取材でも複数確認している。

さらに、中国国外では、みずからの住所や職場、 IDカードの番号といった個人情報を当局に提供するよう求められたという報告も多数ある。これまでにNHKが話を聞いたウイグルの人の中には、当局からの接触を恐れ、中国とのチャットや通話で使用されるアプリを携帯電話から削除したという人もいた。


ローズさん:「日本も声を」

ローズさんは、悩んだ末に情報提供を拒否することを決めた。
そして、今月18日、仲間たちと一緒に永田町の衆議院議員会館を訪ねた。国会議員に直接陳情書を手渡し、厳しい状況に置かれたウイグルの人たちへの支援を求めようと考えたのだ。陳情書では、アメリカの「ウイグル人権法」と同じような法律の制定に向けた議論を始めることや、ウイグルの問題を黙認しないという明確なメッセージを出すことを要請している。

ハリマト・ローズさん(東京 6月18日)

「私は、自分の身に起きているいろいろな状況を説明した。議員もとても関心を持って聞いてくれた。日本政府として、私たちの親戚の安全を守ってほしい、少しでも力を貸してほしい。外交やいろいろなルートを考えて、助ける道を作ってほしい」

ローズさんは、沈黙を続けても、状況が改善する可能性は低いと感じている。むしろ、自分の身に起きている問題が国際的に広く知られれば、中国当局への圧力にもなり、故郷の家族や親族の安全を守ることにつながるかもしれないと考えたという。

アメリカ トランプ大統領 

一方で、今回成立した「ウイグル人権法」によって、中国におけるウイグル族の状況が大きく変わるという見方は少ない。
アメリカは、中国の当局者に対する制裁というカードを持ったが、制裁の中には、すでに実施されている内容もあるといわれている。また、今月(6月)出版されたばかりのボルトン前大統領補佐官の著書では、トランプ大統領が中国の習近平国家主席と会談した際、収容施設の建設を容認した疑いがあると記されている。今後、トランプ政権がどこまで踏み込んだ対応をするかは不透明だ。

それだけに、海外で暮らす多くのウイグルの人たちは、日本も含めた国際社会が足並みをそろえ、中国に対してより強いメッセージを発してほしいと願っている。

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