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特集

2020年6月22日(月)掲載

スウェーデン 揺れる“緩いコロナ対策”

北欧のスウェーデンは、世界から注目される独自の新型コロナウイルス対策をとってきた。50人以上の集会を禁止するなど一定の規制は行っているが、多くの国でみられた厳しい外出制限などは実施していない。その背景には「経済活動などを止めなくても国民ひとりひとりが責任ある行動をとれば、感染拡大のぺースを遅らせることができる」という考えがある。政府と国民との間の信頼が前提となるが、その信頼がいま、揺らぎはじめている。

感染拡大 “命の選別”疑うケースも

ストックホルム2020年6月上旬

新型コロナウイルスに感染して亡くなった人が5000人を超えているスウェーデン。検査件数を増やしたこともあり、新たに感染が確認される人は1日に1000人を上回ることもある。また人口100万人あたりの死者は約500人(6月21日 Our World in Data)と隣国のデンマークやノルウェーと比べると、際だって多くなっている。

高齢者施設(ストックホルム2020年6月10日)

なかでも感染拡大が深刻なのが高齢者施設だ。亡くなった人の実に半数近くが施設の入所者だった。クラスターと呼ばれる集団での感染が発生した施設も多いという。背景には、施設で働くスタッフに感染を防ぐための防護服が不足していたことや、感染の予防のための知識が不十分だったことなどがあるとみられている。

父親の写真を見せるヘレン・グルックマンさん

高齢者施設に入所している人がウイルスに感染しながらも、十分な治療を受けることが出来ず、死に至るケースが出ている。ヘレン・グルックマンさん(55)の父親ヤン・グルックマンさん(83)は、認知症のため高齢者施設に入所していた。そんなヤンさんに発熱などの症状がでたのは4月。その後、新型コロナウイルスに感染していることがわかったが、83歳という年齢や食事や排せつなどで介護が必要な状態であることを理由に、病院での治療が受けられず施設にとどまることを余儀なくされた。

故ヤン・グルックマンさん

その後、ヤンさんは容態が悪化。しかし、施設では痛みをやわらげる程度の処置しか受けられず、感染が確認されてから約2週間後に亡くなった。娘のヘレンさんは、いまも納得がいかないという。

ヘレン・グルックマンさん

「父は生きたかったと思います。適切な治療があれば生き延びていたと思います。父は闘う人でしたから」(ヘレン・グルックマンさん)

ウメオ大学 イングヴェ・グスタフソン教授

高齢者が満足な治療を受けられず亡くなる事態に、病院が医療崩壊を防ぐため、受け入れる患者を年齢などによって選別したのではないかという批判もあがっている。高齢者医療が専門のイングヴェ・グスタフソン教授はこう指摘する。「高齢者を差別するなんてとんでもない話です。診察もしないで患者の生死を決めるということですからね。 “死なずにすんだ数百の命”が、誤った判断によって失われたのです」(ウメオ大学 イングヴェ・グスタフソン教授)


“緩い制限”も経済は大打撃

ストックホルム2020年6月10日

社会への影響を最小限におさえたいという思惑もあったスウェーデンだが、経済への深刻な影響は避けられない事態となっている。中央銀行は、感染拡大の影響がさらに広がれば、GDPが前年比で10%近く減少することもあり得るという見方を示している。EU域内などからの入国は制限していないが、航空便が大きく減少したことなどもあって観光客は激減し、その影響はサービス業を中心に広がっている。

レストラン「ストートリスシェラレン」(2020年6月10日)

通常であれば、大勢の観光客でにぎわうレストラン。しかし、店は閑散としコロナの影響で売り上げは激減したという。「ことしの夏は太陽の下で食事をすることはないでしょう。コロナの影響で売り上げは90%以上減りました」(レストランのマネージャー)

雑貨店「ヒルダ・ヒルダ」(2020年6月10日)

素朴で大胆なデザインが観光客に人気の雑貨店でも、店を訪れる客はほとんどおらず、店主は今後の見通しも立たないという。「すべてのお客を失いました。夏も観光客が来るとは思えません」(店主)


スウェーデン 今後の対応は?

世界各国は感染拡大が再び広がることへの警戒を強めている。今後のスウェーデンの対応が注目されるが、政府がこれまでの方針を大きく変えることはなさそうだ。

公衆衛生局 アンデルス・テグネル氏(2020年6月上旬)

ウイルスの感染対策の責任者で疫学者のアンデルス・テグネル氏は、一部の対策に不備があったことは認めているが、基本方針は間違っていないという姿勢を貫いている。「高齢者施設などでは、よりよい方法があったかもしれませんが、感染防止の戦略は、おおむね、うまく機能していました。次に大きな感染が起きても同じような対策を実施するつもりです」(公衆衛生局 アンデルス・テグネル氏)

しかし、国民の受け止めには変化がみられる。多くの人が亡くなる状況に、国民からは「このままの対策でいいのか」という疑問や不安の声が聞かれるようになっている。政府の支持率は、この1か月ほどで約10ポイント下落し、政府と国民の信頼関係が揺らいでいるようにもみえる。このままだと政府の対策が根本から問われる事態にもなりかねない。スウェーデン独自の対策は正念場を迎えている。

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