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特集

2020年6月5日(金)掲載

各国で導入が進む“接触確認アプリ”

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、今、世界で導入が進む「接触確認アプリ」。感染者に濃厚接触した可能性のある人をスマートフォンの通信機能を使って把握するアプリだ。シンガボールやインド、オーストラリアなど、少なくとも40の国や地域が導入し、日本でも6月中旬の導入が検討されている。しかし、政府による個人情報の収集につながるという懸念から、その機能やプライバシー対策などについて議論が続いている。各国のさまざまな対応から、その効果や課題を徹底分析する。

イギリス 独自アプリ“期待と不安”

イギリス南部、ワイト島。人口、約15万の島でイギリスの政府機関が独自で開発した「接触確認アプリ」の実証実験が始まった。

このアプリをダウンロードした人同士が近づくと、スマホの通信機能「ブルートゥース」を通じて、それぞれの暗号化された情報を自動的に交換する。

このうちの1人が「感染症状がある」とアプリで自己申告すると、過去2週間で接触した回数や距離、時間などのデータをもとに、ほかの人のスマホに通知が来る仕組みだ。
「感染状況を正確に把握することができる」とアプリ導入への期待が高まる一方で不安の声も上がっている。暗号化されているとはいえ、データを国に管理される不安感が払拭できないというのだ。研究者たちが公開した報告書によると、プライバシーの悪用につながりかねない技術的な問題に加えて、集められたデータが新型コロナの対策以外に使われないよう法整備が必要だと指摘している。

最大の問題とされるのが、「データの保管」だ。スマホから発信されたデータは、国が管理する「中央サーバー」に集められる。このサーバーがサイバー攻撃を受けてデータが流出すると、個人の行動履歴や交友関係などの特定につながりかねないと危惧されているのだ。「情報の集積先が中央サーバーである限り本当の意味で安全ではない。ハッカーにとって格好のターゲットになる」(COVID WATCHアプリ開発担当リス・フェンウィック氏)。

イギリス ジョンソン首相

アプリを外出制限の緩和に欠かせないツールと位置づけるイギリス政府。運用開始の時期はセキュリティの問題などで当初予定された5月中旬から大幅にずれこみ、いまだ導入には至っていない。



カタール 利用義務化へ

一方、中東のカタールでは、5月から「接触確認アプリ」の利用の義務化が始まった。これは、すべての国民と外国人居住者を対象としている。外出時にアプリをダウンロードしていないと、最大で禁錮3年や罰金600万円といった厳しい刑罰も科されるという。
カタールのアプリは、登録の際に住民一人一人に付与されている個人番号と紐付けられているため、濃厚接触の可能性がある個人が直ちに特定され、通知が行われる仕組みだ。自主隔離の対象になった人の位置情報を利用して、監視する機能も備えている。アプリを義務づけることでより効果的に濃厚接触者を見つけ封じ込めを図る狙いがあるとみられている。
しかし、こうした強力な措置に対し、国際的な人権団体「アムネスティインターナショナル」は、このアプリを検証した結果、健康状態など個人情報が外部に筒抜けになる可能性があると指摘。また、アプリのダウンロードは強制させるべきものではないとし、義務化を見直すよう求めている。



各国“アプリ” 違いは

「接触確認アプリ」は国ごとにさまざまで、主に3つに分類することができる。まず、データを国が管理し、個人が特定できるタイプだ。例えばカタールは位置情報により個人の移動を追跡できるようになっている。また、シンガポールなども携帯電話番号を登録する必要があるため政府が利用者を特定できるという。
また、イギリスやフランスのアプリは、国がデータを管理するが、匿名で登録ができる。しかし、そのデータは、国がサーバーで一括して管理しているため、サーバー攻撃のリスクが高いと指摘されている。
こうしたさまざまな問題を解消しようというのが、ドイツやスイスなどが導入を進めるアプリだ。個人情報は提供する必要がない。接触データは国のサーバーではなく、それぞれのスマホで管理されている。また、接触データは時間がたつと自動的に削除されるようになっている。

日本が導入を進めているのは、ドイツやスイスと同じ仕組みのアプリだ。政府は、当初、シンガポールのアプリを参考に開発を進めていたが、結果的に匿名性がより高いタイプに落ち着いた形だ。ただ、国に個人情報もデータも提供したほうが、アプリの効果はより大きくなり、逆に匿名性やセキュリティを高めようとすると効果は小さくなる。アプリは、使う人が多いほど効果を発揮するが、カタールのような義務化が現実的でない以上、日本は利用者に安心してダウンロードしてもらうことを重視している。



日本における導入の課題

しかし「接触確認アプリ」は必ずしも万能ではなく、ほかの感染対策やクラスター追跡などを補完する役割を担うに過ぎない。市民にダウンロードに協力してもらうためには、こうしたことも含めて納得してもらう必要がある。

            東京大学大学院 落合秀也准教授

東京大学大学院の落合秀也准教授は、アプリの効果は非常に限定的だと主張する。「プライバシーに最大限配慮する形で濃厚接触者を見つけるという意味で、このシステムが最も良いだろうという形で提案されていると思うので、そういう種類のシステムなんだと認識して利用するということだと思う」。
さらに、国ごとに異なる仕組みのアプリを使っているため、国境をまたいだ移動に対してどう対処するのかという課題もある。すでに国境を越えた観光の解禁に向けて動きだしているヨーロッパなどで表面化しているが、専門家によると、各国のアプリどうしの情報交換が不可欠になるという。
今後、接触確認アプリの運用が各国で本格化することになるが、データの活用が適切に行われているのか、目的外に使われていないか、私たち自身が関心を持って見ていく必要がある。

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