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特集

2020年6月3日(水)掲載

中国 SNSで広がる“攻撃的愛国主義”

香港やウイグルなどへの対応をめぐり、海外からの批判が強まっている中国。しかし国内では、新型コロナウイルスを抑え込んだとして共産党指導部を評価する声が高まっている。ただその一方で、党や政府に批判的な意見を示すとインターネット上で激しく攻撃されるという風潮も広まっている。中国を代表する作家の1人で、新型コロナウイルスが最初に広がった武漢に住む方方(ファンファン)さんも攻撃の標的になった一人だ。封鎖された武漢での生活をつづったSNS上の日記は中国国内外でのべ1億人以上が読んだといわれているが、内容が「政府に批判的だ」として、ネット上で非難が殺到する事態になった。一時は称賛された方方さんのSNSの発信を巡って、中国国内で何が起きているのか?

封鎖の武漢から発信 方方さんのSNS

武漢在住の作家 方方さん

武漢在住の作家、方方さん(65)。方方さんのSNS上の日記には、ことし1月下旬から2か月半にわたって封鎖された武漢での暮らしが赤裸々につづられている。

1月25日(封鎖3日目)
「武漢がこのような深刻な災難に見舞われるとは思ってもみなかった。
街の中心部でも車の通行が、今夜から禁止になった」

2月4日(封鎖13日目)
「スーパーが閉鎖され食料がなくなるのを恐れ、買い占めが起きているという」

方方さんがSNSの中で発信し続けたのは日常生活の風景だけではない。新型コロナウイルスの脅威についていち早く警鐘を鳴らし、自らも感染して亡くなった、武漢の季文亮(り・ぶんりょう)医師についても言及。医療現場の声までも言論統制の対象にした中国当局に批判の声をあげた。

2月7日(封鎖16日目)
「情報が封じ込められていた間に、多くの医療従事者が感染し、その家族も悲しんでいる」

3月に入ると、対策の効果が出てきたという報道が増え始めるが、方方さんは政府の姿勢に疑問を投げかけている。

3月7日(封鎖45日目)
「武漢のリーダーたちは、市民に党や国家に感謝するよう求めるが、実に奇妙な考え方だ。
政府は人民の政府であって、人民のために奉仕する存在だ」

封鎖された武漢から日々の率直な思いをつづり、新型コロナウイルスに対する政府の姿勢を批判した方方さんの日記。
読んだ市民の間では共感が広がり、SNSには称賛する声が相次いだ。

「あなたの勇気と揺るぎない意志に感謝!」

「すべて賛同する」



一転してSNSが炎上 非難の嵐

2020年4月8日 中国 武漢

しかし、中国政府の徹底した対策が功を奏して感染状況が改善するにしたがって、風向きが変わり始める。4月8日に武漢の封鎖が解除され、北京や上海でも経済活動が再開されるようになると、国民の間では政府への支持がかつてないほど高まった。
そんな中、方方さんの日記が、海外で出版されるという情報が、ネット上で広まると、世界に中国の悪い印象を与えると、批判が殺到。方方さんのSNSは炎上し、殺害を匂わせる脅迫すら書き込まれたという。

「政府の責任を追及することは売国的だ」。

「方方は中国の罪人だ」。

方方さんはやむを得ず書き込み機能を停止し、海外メディアから取材を受けることも控えることにした。 また知り合いの大学教授が方方さんを弁護する文章を投稿したが、今度はこの教授のアカウントが炎上するという事態になった。

背景にある政府の厳しい“言論統制”

中国 習近平国家主席

いま、中国のネット上では、政府を称賛することが“愛国”であり、少しでも批判する人は攻撃されるべきだという極端な論調が高まっている。
背景にあるのは、批判的な意見は認めない習近平指導部の徹底した言論統制があると指摘されている。習近平指導部は、感染拡大初期の国民の不満に対処するために、言論統制と世論工作に力を入れた。政府の対策の成果は宣伝する一方で、政府に批判的な投稿を削除したり、投稿する市民を拘束するなどして厳しい態度で臨んできた。

アメリカ トランプ大統領

さらに、中国の報道官が「アメリカの政治家の発言は恥知らずで非道徳だ」と発言する場面など、中国批判を強めるアメリカに強い姿勢で反論する姿勢を積極的に報道。
その結果、反米感情でさらに団結力が強まり、愛国主義を掲げるネット市民が政府を擁護し、勢いづくこととなっているのだ。

中国人民大学 張鳴教授

中国のネットで政府に批判的な意見を書き込むことは、当局の処罰の対象になるだけでなく、“愛国主義者”の攻撃対象になっていると専門家は指摘する。「国を愛する気持ちは自然な感情なのに、それを武器にして他人を殴るのか。異なる意見を心からぶつけあうことこそ健全な討論なのに、いまはその場所すらない」(中国人民大学 張鳴教授)。

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