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特集

2020年5月22日(金)掲載

新型コロナ 期待の「血しょう抗体治療」

新型コロナウイルスの有効な治療法については、別の病気のために開発された治療薬を応用する方法の研究が世界各国で進められ、エボラ出血熱の治療薬としてアメリカで開発が進められてきた「レムデシビル」が今月(5月)日本で初めて治療薬として承認され、日本の製薬会社がインフルエンザの治療薬として開発した「アビガン」も臨床研究が行われている。そして、もうーつ期待されているのがヒトの血液に含まれる成分をいかした治療法「血しょう抗体治療」だ。20世紀初頭の「スペイン風邪」の治療でも使用された他、最近では「SARS」の治療でも投与した人のうち約4割の患者で効果が認められたという報告があり、まずは重篤な患者に限った、「一時的な治療法」として、各国で臨床試験が始まっている。開発の最前線、アメリカを取材した。

臨床試験が急ピッチのアメリカ

血しょう

ヒトの血液から、赤血球などの成分を分離したのが「血しょう」だ。そして、新型コロナウイルスによる感染症から回復した人の血しょうには、ウイルスの働きを弱め、感染を防ぐ「抗体」が含まれていることがわかっている。この抗体を含んだ血しょうを患者に接種し、回復させようというのが、「血しょう抗体治療」だ。

新型コロナウイルスの感染者数が約150万人と世界で最も多いアメリカでは、血しょうを使った臨床試験が急ピッチで進められている。3月には、FDA=食品医薬品局が医師の判断に応じて投与することを認め、これまでに7000人あまりが投与されている。

米ジョンズ・ホプキンス大学 カサデバル教授

また、医療の研究で世界的に知られるアメリカのジョンズ・ホプキンス大学も、臨床試験に乗り出している。ジョンズ・ホプキンス大学のカサデバル教授は、「血しょう抗体治療」の有効性について次のように話し、新型コロナウイルスの治療法として期待する。「歴史的にも有望で比較的安全なので、もっともよい治療法のひとつだ。しっかりと治験を行い、 2か月後には効果的かどうかはっきりさせたい」。



治療法確立へ課題 足りない「血しょう」

しかし「血しょう抗体治療」には課題も多く残されている。抗体は、回復した患者の血しょうにしかないため、現状では、量が不足している。さらに、その成分にばらつきがある。抗体が少なかったり、消えてしまうこともあり、治療に適さない血しょうもあるという。

     右:ダイアナ・ベレントさん

こうした中、より多くの人に血しょうを提供してもらおうと、新型コロナウイルスから回復した人たちが活動を始めている。ニューヨーク近郊に住むダイアナ・ベレントさん。3月中旬に新型コロナウイルスに感染し、その後回復したものの、多くの友人が命を落とすのを目の当たりしてた。「回復した私たちが全国的な運動をすれば、このパンデミックを抑えられるかもしれない」(ダイアナ・ベレントさん)。

ダイアナ・ベレントさん

そう思ったベレントさんは、回復した人に血しょうの提供を呼びかけるグループを立ち上げた。この1か月ほどの間で4万人を超える人が関心を示し、ベレントさんも、仲間とともにほぼ毎週、血しょうを提供している。

ダイアナ・ベレントさん

「人生で人命を救える機会なんて何回あると思う?数週間後に回復すれば、スーパーヒーローになれる」



新薬の開発にも期待

コロンビア大学 ホード医師

大量の血しょうが確保できれば、今後、新たな治療薬「免疫グロブリン製剤」の開発にもつながると専門家は期待を寄せている。血しょうから抗体だけを取り出して治療薬にしたもので、人によって含まれる抗体の値にばらつきがある血しょうの欠点を補い、安定してより多くの人に治療が行えるようになるという。「適度な量の抗体を入れた製品を出荷できれば、世界の人々を治療できるかもしれない。そして、感染症にぜい弱な人たちが、より効果的な薬が開発されるまでの間、免疫グロブリン製剤によって生き抜くことができると思う」(コロンビア大学 ホード医師)。コロンビア大学のホード医師は、すべてが順調に進めば夏の終わりには臨床試験を始め、秋から冬にかけて患者に対し広く使えるようにしたいとしている。



「血しょう抗体治療」の有効性は?

アメリカは、感染者数が多いこともあって、臨床試験のための血しょうをほかの国より確保しやすく、研究は、世界的にも一歩先を行っている。またアメリカ以外では、最も早く感染が拡大した中国で1月に臨床試験が行われ、タイやイタリア、インドなどでも試験が行われたという報告がある。そして実は日本でも臨床試験がはじまっていて、重症化した患者への「切り札」として期待されている。感染症の専門家としてアメリカ政府に助言を行っているNIH=アメリカ国立衛生研究所のファウチ博士は、「血しょう抗体治療」について「治療法の中で最初に実用化される可能性が高い」と話し、ワクチン開発などよりも早く進むとみている。ただ忘れてはいけないのが安全性。ヒトの体からとったものなので、リスクはゼロではない。一部の患者では、肺などで激しい炎症が起きて、逆に症状が重くなってしまうケースも想定される。どのような患者に使えるのか、慎重に見極めながら、臨床試験を進める必要がある。

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