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特集

2020年5月21日(木)掲載

ベネズエラ 衝撃の“クーデター未遂事件”

政治的な混乱が長く続く南米のべネズエラ。中国やロシアの支援を受けて独裁体制をしくマドゥーロ大統領と、去年(2019年)1月、「暫定大統領」を宣言し、アメリカからの支援を受けている反政府側のグアイド国会議長。大統領だと名乗る人物が2人いるという異常事態が1年以上も続いている。そのような中で、グアイド氏は、活発な外交活動を展開して欧米や南米など50か国以上から支持を取り付けてきたが、今月(5月)初めから、思わぬ逆風が吹いている。マドゥーロ大統領を狙ったとみられるクーデター未遂事件が発生して、グアイド氏の関与が疑われているのだ。

大統領が会見“反政府側が私を殺そうとした”

ベネズエラ マドゥーロ大統領の会見(2020年5月4日)

マドゥーロ大統領は今月4日の会見で、グアイド国会議長ら反政府側が、アメリカと組んで軍事クーデターを企てていたという衝撃的な発表をした。

マドゥーロ大統領
「アメリカ政府がパンデミックに乗じてテロを行った。
反政府側も私を殺そうとする計画に大金を払うことで合意していた」

武装集団が使用したとされるボート(ベネズエラ バルガス州 マクト2020年5月3日)

マドゥーロ大統領は、会見でクーデター未遂事件の詳細を説明。クーデターを企てたとする武装集団は、今月3日から4日にかけて、隣国コロンビアから首都カラカス近郊の海岸に上陸。この時、治安部隊と銃撃戦となり、あわせて17人が拘束されたという。また、この時とらえたアメリカ人2人が持っていたとするパスポートを公表。彼らが過去にアメリカ軍に在籍し、現在はフロリダ州に本拠地を置く軍事コンサルタント会社に所属している証拠も示した。拘束されたアメリカ人2人も、ベネズエラ政府の発表に沿う形で、マドゥーロ大統領を襲撃する計画だったと自供。収監先で、グアイド氏と交わしたとする契約書まで示し、依頼を受けていたと明らかにした。

拘束されたアメリカ人
「ここに契約書があり、グアイド氏のサインもあります。
マドゥーロ大統領がターゲットで、彼を拉致する計画でした」

グアイド氏がクーデター未遂事件の関与を否定した記事

これに対してグアイド氏は、反政府側の人物が軍事コンサルタントの会社と連絡をとったことは認めたものの、会見の中で「独裁政権によるでっちあげだ。私を逮捕するための新たな口実づくりだ」と話し、クーデターへの関与は否定している。



グアイド氏がクーデター依頼か?音声データも

軍事コンサルタント会社「Silvercorp USA」代表 ジョーダン・グドロー氏

しかし現地では、事件について証言する新たな人物が登場し、グアイド氏が事件を引き起こしたとの受け止めが広がっている。ベネズエラのテレビ番組で、クーデター未遂事件の内幕を暴露したのが、拘束されたアメリカ人2人が所属するアメリカの軍事コンサルタント会社の代表で自身も退役軍人のジョーダン・グドロー氏だ。グドロー氏の会社はイラクやアフガニスタンにも元軍人を派遣し、世界50か国で警備業務などを行っている。グドロー氏によれば、グアイド氏側と、200億円あまりで契約を交わし、報酬は、グアイド氏が政権を握ったあと、石油代金で支払われる予定だったとしている。グドロー氏は、グアイド氏と交わした契約書の存在を認めた上で、クーデターの依頼を受けた時のやり取りだとする電話の音声まで暴露した。



深まるグアイド氏関与の疑惑 離れる支持者たち

カラカス

疑惑が深まるにつれ、これまではグアイド氏を支持した人たちからは、裏切られたという声が上がり始めている。ベネスエラはもともと反米意識が根強い国民性ということもあり、反政府勢力の間でも、アメリカの軍事力に頼ったクーデターはやり過ぎだという見方が広がっているのだ。

亡命ベネズエラ人団体の代表ホセ・コリーナ氏

マドゥーロ政権を批判してきた亡命ベネズエラ人団体の代表ホセ・コリーナ氏は「グアイドは多くの過ちを犯し、彼に希望を託したべネズエラ人を裏切りました。クーデター計画を知っていたのに、なぜ本当のことを言わないのでしょうか。彼はウソつきで、軍のトップにも、この国のリーダーにもなる資格はありません」とグアイド氏を厳しく糾弾した。

地元紙「コロニカ ウノ(Cronica Uno)」ジャーナリスト ヘクトル・マラベ氏

地元紙のジャーナリストのヘクトル・マラベ氏も手厳しい。「グアイド氏の関与はもはや否定できません。グアイド氏の人気は彼が政界に登場して以来、最悪の状態です」。



マドゥーロ大統領 強めるアメリカ批判

マドゥーロ大統領

今回のクーデター未遂事件でマドゥーロ大統領は、グアイド氏への攻撃とともに、アメリカへの批判も強めている。ベネズエラ政府は、クーデター未遂に関与した軍事コンサルタント会社が、トランプ大統領の2018年10月ノースカロライナでの選挙キャンペーンでの警備を行っていたとする写真を公開。トランプ政権との近さを主張した。これに対しトランプ大統領も反論。関与を否定した上で、マドゥーロ政権への対決姿勢を強調している。

左:トランプ大統領 右:ポンペイオ国務長官

トランプ大統領
「この件にアメリカ政府は関与していない」

ボンペイオ国務長官
「関与はしていないが、関与していたら違う結果になっていたはずだ」



ベネスエラは今後どうなる?

グアイド国会議長

今回の未遂事件で、グアイド氏は信用が失墜し、厳しい立場に追い込まれた。今回の件で頼みの支持基盤であるはずの野党側からもグアイド氏を糾弾する動きが出ていて、影響力の低下は避けられない。またアメリカの武力に頼ろうとしたとみられることは、ほかの南米の国からも批判されるなど、国際社会でも矢面に立たされている。

中国からの援助物資(ベネズエラ ラグアイラ 3月)

国際社会と言えば、アメリカと中国・ロシアによるせめぎ合いの場になっているベネズエラ。今回の事件により、マドゥーロ大統領の後ろ盾となっている中国の影響力が増すと見られている。そもそも中国は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、マスクなどの援助外交を強め、ベネズエラ国内での存在感が増していた。アメリカと結びついているグアイド氏よりも、中国と関係が深いマドゥーロ大統領のほうが物資の入手などで有利となる中、グアイド氏側が焦りを募らせていたという指摘もある。

マドゥーロ大統領による独裁を非難する声はいまも大きいが、皮肉なことに、今回のクーデター未遂事件によりグアイド氏とアメリ力は、ますます存在感を失いつつある。

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