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特集

2020年5月19日(火)掲載

香港の書店元店長 苦難乗り越え台湾で開店

2015年10月から12月にかけて、香港で中国共産党に批判的な書籍を発行する書店の幹部5人が相次いで行方不明になった。その真相は中国当局による拘束だった。拘束された一人、林栄基(りん・えいき)さんが新天地、台湾に拠点を移し、先月(4月)25日に書店の営業を再開した。再開までの苦難の道のりとは。

当局による拘束 解放後も監視の目

香港「銅鑼湾書店」の元店長 林栄基さん

台北で営業を再開した、香港の「銅鑼湾(どらわん)書店」の元店長、林栄基さん(64)は、5年前、広東省深圳の友人に会いに出かけたあと、こつ然と姿を消した。実は、香港から中国本土への通関の際に中国当局に拘束されたのだ。一晩取り調べを受けた後、手錠と目隠しをされて、列車で浙江省の寧波まで連れて行かれた。約13時間におよぶ列車での移動は、その後、何か月も続く取り調べの始まりでしかなかった。当局に拘束された当時の恐怖を林さんは次のように語った。

林栄基さん

香港「銅鑼湾書店」の元店長 林栄基さん
中国当局は『何かの罪を犯したと我々が思えば、そういう罪になる。裁判にかけなくてもよいのだ』
と言ったんです。とても驚きました。

解放後の林栄基さんの会見(2016年6月16日香港立法会議員会館)

数か月におよぶ拘束を解かれ、香港に戻っても当局の監視の目を感じていた林さん。ずっと書店の営業を再開できずにいた。また拘束されるかもしれない。そのような不安が続く中、林さんが、いよいよ危機感を強めたのが、容疑者の身柄を中国本土にも引き渡せるようにする条例改正の動きだった。

香港の103万人の抗議デモ(2019年6月9日)

去年(2019年)、香港政府が、この条例改正を検討をはじめたことをきっかけに、その3月ごろから新型コロナの影響を受けるまで、大規模な抗議デモが行われていた。こうした抗議デモの背景には、林さんたち書店の幹部が当局に拘束されたときに広がった中国への強い不信感があったとも言われている。林さんは中国の影響力が強まる香港では書店は再開できないとして、中国と距離を置く台湾に渡ることを決心した。

新天地 台湾へ

デモで演説する林栄基さん(2019年6月12日台北)

去年4月に台湾に渡った林さん。台湾でも“きょうの香港は、あすの台湾”、中国に対する警戒感から香港の状況への関心は高まっていた。

香港「銅鑼湾書店」の元店長 林栄基さん
台湾は自由な社会で、身の安全が保障されています。尾行も心配しなくていいんです。

当局の監視の目を気にする必要がなくなった林さんは、台湾で開かれる香港関連のイベントにも積極的に参加、自分の体験談などを人々に伝えた。

台湾に渡った林さんは念願だった書店を開くため、スポンサー探しに奔走。当初は難航したものの、クラウドファンディングを活用し、日本円で2,000万円以上の資金を集めることに成功した。

台北中心部にあるビルの1室に店を構えることにした林さん。台湾での再出発となる書店の名前は香港の書店と同じ「銅鑼湾書店」にした。ここでも同じ様に、中国共産党に批判的な本をはじめ、中国や香港の文化や歴史を扱う本も取りそろえている。

開店準備をする林栄基さん

台湾「銅鑼湾書店」の店長 林栄基さん
台湾もいろいろな問題を抱えています。
こうした本を通して、解決につながる理解が得られるはずです。



台湾でも中国当局による妨害が?

ペンキをかけられた服を見せる林栄基さん

ところが、開店4日前の4月21日、書店近くの飲食店で朝食をとっていた林さんに突然、覆面の男が赤いペンキをかけるという事件が起きた。

連行される容疑者3人(2020年4月22日台北)

台湾の警察は、翌日、男3人を拘束した。司法関係者によると、携帯電話のデータは消されていて、その背後関係は明らかになっていない。林さんは、営業再開を阻止しようとする中国当局による妨害活動だと訴えている。

林栄基さん

また襲われるのではないか。事件後、林さんは、特に夜間、外をあまり出歩かなくなった。しかし開店を遅らせれば、圧力に屈することになると、林さんは店を予定どおり開くことを決断した。

新書店“自由に議論できる場に”

オープン初日。店の入り口には蔡英文(さい・えいぶん)総統から贈られた花が飾られ、台湾の議会にあたる立法院の議長も訪れ、店の再開を祝福した。

「銅鑼湾書店」(2020年4月25日台北)

店に入らないぐらいの客であふれた初日。取材班は、台湾に移った林さんを一年ほど継続的に取材してきたが、この日の表情は一番うれしそうだった。

客① 客②

客①「あの書店が台湾で開店すると聞いて、応援したいと思って来ました」
客②「林さんには言論の自由を守ってもらいたい。香港や、言論の自由を
持てない場所にいる人々に、私たちの支持を知ってほしい」

客と話す林栄基さん

5年ぶりに、本を売る喜びを取り戻した林さん。これからも、圧力に負けることなく、人々に本を届けたいと考えている。

台湾「銅鑼湾書店」の店長 林栄基さん
台湾の人々が応援にきてくれてうれしいです。台湾の現状は本でも理解を深められます。
台湾を守るためにも、こういう書店は存在意義があるはずです。

開店から3週間余りがたったいまでも毎日お客さんが絶えない。林さんは、この書店を本が好きな人が集まり、自由に議論ができる場所にしたいと考えている。

林栄基さん
香港の書店は暴力によって壊されたので、再開できたことは非常に意義のあることです。
台湾が自由で民主主義の場所であることを証明したと思います。

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