BS1 ワールドウオッチング - WORLD WATCHING -

特集

2020年5月18日(月)掲載

子どもたちのSOSはどこに? 外出制限下の児童虐待

新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中で呼びかけられた「ステイホーム」。
ユネスコ=国連教育科学文化機関によると、5月17日現在、世界では約160の国と地域で休校措置が取られ、約12億人の子どもたちが学校に通えなくなっているという。家族が自宅で過ごす時間が増える中で、いま急増しているとみられるのが「児童虐待」だ。人目につかない場所での子どもたちへの暴力が深刻化している。
外出制限下で子どもたちを救おうというフランスとアメリカの取り組みを取材した。

ステイホームの陰で、子どもが犠牲に

子どもの虐待死を伝える記事

厳しい外出制限が始まって、わずか10日後の3月27日。フランスで、市民に衝撃を与える事件が起きた。パリ近郊で6歳の男の子が父親に殴られ、そのはずみでテーブルに頭をぶつけ、2日後、死亡したのだ。父親は「息子が学校にプリントを忘れたから殴った」と供述。現地のメディアは、外出制限が事件の引き金になった疑いがあると伝えた。
フランス政府は、先月(4月)13日からの1週間で虐待の通報件数は約1万5000件、前年同時期と比べ89%も増加したと発表した。

政府が虐待防止対策に乗り出すも…

フランス政府の虐待防止メッセージ

フランス政府も児童虐待の通報件数の増加に危機感を募らせ対策に乗り出した。
泣き叫ぶ子どもの声や怒鳴りつける母親の声を流し、最後に「虐待の疑いに気づいたら通報を」と呼びかける虐待防止の広告を制作。3月の外出制限開始直後から5月初めまで、連日、繰り返しテレビで放送された。

パリ市内の家庭内暴力の相談ブース

さらに、NGOに依頼し、全国の商業施設などに家庭内暴力の相談ブースを設置。しかし、配偶者からの暴力についての相談は多く寄せられた一方で、子育てに悩む親たちの相談は多くなかったという。

人気アプリにSOSする子どもたち

子どもたちが助けを求める場所はどこにあるのか?
10代の若者の間で絶大な人気を誇る、ショートビデオを投稿できるアプリ。いま、子どもたちがみずから声をあげられる場として注目されている。

腹話術師 ルカプシンさん

多くのフォロワーを抱え、影響力があるインフルエンサーたちが、虐待の通報番号119への通報を呼びかけている。フランスの若者を中心に絶大な人気を誇る腹話術師のルカプシンさんが「虐待に悩んでいたら通報窓口に電話して」と投稿。コメント欄には、「叩かれた」「彼が義理の父親から被害を受けた」など被害を訴える子どもたちの書き込みが相次いでいる。
こうした子どもたちに、支援の手をさしのべたい。フランス政府は、アプリ会社と連携し、今月(5月)から、虐待を連想させるキーワードを検索したユーザーに対して、通報を呼びかけるメッセージの表示を始めた。

NGO「La voix de l'enfant」マルティヌ・ブース代表

長年、子どもを支援する活動を行ってきたNGO「La voix de l'enfant」のマルティヌ・ブース代表は、行き詰まった時は、ためらわずに誰かに相談すべきだと呼びかけている。「24時間、家で家族全員が過ごすのは、大人にも子どもにも辛い。子どもに手を上げてしまいそうになったら、とにかくその手で電話をつかんで、助けを求めてほしい」(NGO「La voix de l'enfant」マルティヌ・ブース代表)。

アメリカ 通報件数が減少?

一方、通報件数が減少しているのがアメリカだ。ニューヨーク州では、3月末から5月にかけての通報件数は3855件と、前年同時期に比べて54%の減少となっている。しかし、これは虐待が減少したとはいえないという指摘が。学校の休校措置後、それまで約2割を占めていた教育関係者からの通報が途絶えたため、各地で通報件数自体が減少したと見られている。つまり、家庭以外の「外の目」が失われ、家族が常にそばにいるため、子どもたちが声を上げづらい状態になっているのだ。

子どもを守るにはITしかない

アメリカで広がっているのはインターネットを活用した支援だ。

NPO団体「iFoster」リード・コックス共同代表

カリフォルニア州のNPO団体「iFoster」は、企業と連携して、ネットにアクセスできない子どもたちに、パソコンや携帯電話を配布。この2か月で、子どもたちにパソコン3000台、携帯電話5000台を提供し、虐待に悩む場合は通報するよう呼びかけている。「普段であれば、ソーシャルワーカーが家庭を訪問して面会ができるが、今はそれができない。オンラインが、唯一の解決策といえる」(NPO団体「iFoster」リード・コックス共同代表)

試行錯誤する教育現場

虐待を見抜くため、重要な役割を果たしてきた学校の関係者たちも試行錯誤しながらネット上で支援を行っている。

スクールカウンセラー サラ・カークさん

オクラホマ州の小学校でスクールカウンセラーを務めるサラ・カークさん。休校中も子どもたちとの交流を続けているが、家の中では、子どもたちは被害を訴える声をあげづらいのではないかと懸念している。「本当に深刻なことが起きたとき、母親の携帯や父親のコンピューターしかなく、誰かに見られていたら子どもはどうやって連絡をとればいいのか。それが一番難しい」(スクールカウンセラー サラ・カークさん)

      オンラインでの職員会議

そこでカークさんは、オンライン授業の際に、生徒の何気ないサインを見落とさないよう、教師たちに協力を求めている。毎朝の職員会議では、オンライン上での子どもたちへの声のかけかたなどをアドバイスしている。「先生たちには、子どもたちに『安全か』『何が安全でないのか』といった質問を恐れずに聞くことを伝えている。また、どういう気分か、楽しさを感じるかという質問についても聞くよう伝えている」(スクールカウンセラー サラ・カークさん)。子どもからの訴えを待つだけではなく積極的にアプローチすることが重要だと考えている。「親や生徒が話しやすいように、私のほうからアプローチすることも心がける。完璧とはいえないが、出来ることがあるならば、何もしないより何かしたいと思う」(スクールカウンセラー サラ・カークさん)。

日本の子どもたちも深刻化

日本でも休校措置が相次ぎ、家にいることを求められている子どもたち。その陰で、児童虐待への懸念が強まっている。厚生労働省は、児童虐待相談件数が、ことし1月から3月は、前年同月に比べ11%~22%増えていると発表した。

児童虐待の問題に詳しい「国際子ども虐待防止学会」理事の山田不二子さんは、外出制限が続く中で、今後、日本でも子どもが虐待されて非常に重篤な形で発見されるという悲劇がおこってもおかしくないと指摘。家の中で煮詰まってしまうのではなく、勇気を持って打ち明けてほしいと、居住している自治体の窓口への相談や、189(児童相談所虐待対応ダイヤル)の活用を呼びかけている。

ページの先頭へ