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特集

2020年5月14日(木)掲載

タイ 大量失業の懸念 “生きるために闘う”

タイでは、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため非常事態が宣言され、経済活動が厳しく制限されている。このところは感染者の増加が抑えられていることから、今月(5月)初めに制限の段階的な緩和が始まり、レストランなどが営業を再開した。その一方で政府は、非常事態宣言を今月末まで延長していて、感染拡大に転じた場合には再び制限を強めるとしている。ただ、制限が長引けば失業者は1000万人にまで増えるという推計も出ている。厳しい状況が続くなかで、なんとか生き抜こうと奮闘するタイの人々を追った。

生活苦から“ゴールドを現金化”

バンコク(4月15日)

経済の先行きへの不安から安全資産の金(きん)を求める動きは、いま世界的に強まっている。東京商品取引所では先月、金の先物価格が最高値を更新したほどだ。
一方、タイでは逆に、手元の金を手放そうという人たちが、金を売買する店に押しかけている。タイでは1997年のアジア通貨危機のときにバーツが暴落して経済が混乱した経験などを踏まえ、貯蓄の一部を金に換えておく習慣が根強く残っている。さまざまな店の営業が停止され、夜間の外出が禁止されるなど、厳しい制限措置により収入を断たれた人たちが、虎の子の金を持ち出し、当座をしのぐ現金に換えているのだ。

ワサワット・チョテヒランタナノンさん

バンコクにある金を売買する店に来たワサワット・チョテヒランタナノンさん(49歳)は、妻と大学生の息子、高校生の娘の4人家族。市場でタイ風にアレンジしたたこ焼きや寿司を売って生計を立てている。ところが新型コロナで生活が一変した。3月下旬に、食品や日用品を扱う店以外は営業が禁止され、外出自粛の要請も出たことから人出がなくなり、売り上げが大きく減少。店を出すことができなくなっていた。

しかし、それから3週間。感染者の増加ペースが下がったことで制限の一部が緩和され、街に人が戻り始めたことから、ワサワットさんは店の再開を決意した。金を売って得た現金で、材料を調達し、営業を始めることにしたのだ。とはいえ、生活費だけでなく子どもの学費もまかなえるほどには稼げる見通しはない。それでも、なんとか打開策を探っていきたいという。「人生は前に向かって歩み続けないと。私は闘い続ける」(ワサワット・チョテヒランタナノンさん)

「トゥクトゥク」で新たなビジネス

左:キティチャイ・シラプラパヌラットさん

新たな事業を始めることで、活路を見いだそうという人たちもいる。キティチャイ・シラプラパヌラットさん(38)。これまで外国人を相手に、タイでおなじみの三輪タクシー、トゥクトゥクで名所や旧跡の観光案内、夜のグルメツアーなどを提供する事業を営んでいた。しかし、政府による水際対策の強化で利用客は激減し、遂にはゼロにまで落ち込んだ。

“従業員を失業させるわけにはいかず、運転手たちとの協力も続けたい”。そこで、キティチャイさんが考えたのが、人間ではなく、荷物の運送だ。トゥクトゥクの特徴を生かし、二輪のバイクでは運べない大きさや量の荷物を中心に、トラックで運ぶより安い価格で請け負うことにした。観光ツアーの収入には遠く及ばないが、スタッフを1人も解雇することなく事業を続けていきたいと考えている。「努力をしている姿を従業員たちに見せたい」(キティチャイ・シラプラパヌラットさん)
通貨の暴落や、大規模な洪水被害、政治の混乱など、近年にも、深刻な経済危機を幾度も乗り越えてきたタイの人たち。新型コロナウイルスがもたらす未曽有の危機の中でも生き残る道をたくましく模索している。

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