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特集

2020年4月26日(日)掲載

熊本とシリア 心をつなぐくまモン

2016年4月に発生した熊本地震から4年。震災直後、自身も困難の中にいながら、海の向こうから応援する気持ちを届けようとした人がいた。内戦が続くシリアの男性がくまモンの絵を描いて日本に送ったのだ。

男性はあの時どんな思いでこの絵を描いたのか。熊本地震から4年たった今も続く、くまモンがつないだ絆の物語を見つめた。

動画をご覧ください↓

くまモン 海を越える?

熊本から8500キロ離れたトルコのイスタンブール。内戦が続くシリアの隣国トルコでは、360万人以上のシリア難民が避難生活を余儀なくされている。

ムハンマド・サッルームさん

その一人、ムハンマド・サッルームさん(41)を訪ねると、部屋の中にはくまモンが大事に置かれていた。

ムハンマド・サッルームさん

「熊本から届きました。抱くと温かみがあって昔からの友達のようです」

ムハンマドさんは、3年前、シリアの戦火を逃れ、イスタンブールにたどりついた。当初は肉体労働を1日17時間こなして生活を切り開いた。現在は記事や本を執筆するジャーナリストだ。

      ムハンマドさんと生徒たち

ムハンマドさんは、大学時代に文化への興味から日本語を学んだ日本通だ。シリアでは中学校教師として働き、放課後にはクラブ活動で日本文化も教える人気の先生だった。



4年前の熊本地震の日 シリアから届いたくまモンの絵

熊本地震

ムハンマドさんの元にくまモンがあるのは、あわせて275人が犠牲になった4年前の熊本地震がきっかけだった。当時ニュースを聞いたムハンマドさんは、いてもたってもいられなかったと言う。ムハンマドさん自身がシリア内戦下で、避難生活を送っていたのだ。熊本地震が起きたのは、ダマスカス郊外の自宅を追われてすぐのことだった。

ムハンマドさん

「熊本で起こったことは、私がシリアで体験したことのようでした。私自身も何度も家を追われました。まるで私の兄弟が同じつらい体験をしているように感じました」

             2016年4月14日に描いたくまモンの絵

応援の気持ちを届けたい、その一心で、ムハンマドさんは地震が起きたその日に、くまモンの絵を友人や教え子たちと描いた。
熊本のシンボルをインターネットで探して見つけたのがくまモンで、温かみを感じたのだと言う。ムハンマドさんは、この絵に次のようなメッセージを添え、NHKの中東向けラジオアラビア語放送を通じて、熊本に送った。

「親愛なる熊本のみなさんの傷が一刻も早く癒え、安全に自宅に戻れますように。自分の住む家や場所を追われることが、どういうことなのか私たちはよくわかっています。みなさんと同じように、我が家やすばらしき故郷に対し、つらい思いをしてきたからです。私はシリアで人間らしく愛をもって生きようと頑張ってきました。みなさんもまた、人間らしくこの困難に打ち勝っていかれるのだと思っています」



くまモンの応援メッセージ 受け取った熊本の想い

      地震直後の熊本市国際交流会館の様子

熊本市国際交流会館は、ムハンマドさんが描いた絵とメッセージを受け取った。震災直後、多い時で200人以上がここに避難した。その半分は外国籍の市民や旅行者で、会館は熊本市の外国人支援の拠点となっていた。

八木浩光さん

被災者支援の指揮をとっていた職員の八木浩光(やぎ・ひろみつ)さんは、寝る間もないほど対応に追われる中、届いたくまモンの絵にとても励まされたと言う。

八木浩光さん

「深刻な状況にある彼らが熊本地震の被災者に応援メッセージを送ってくれたことは、心からありがたい」

国を超えたつながりを感じという八木さん、多くの被災者の心の支えになるのではとみんなの目にとまる入り口そばに掲示した。

境教雅さん

ムハンマドさんらが描いたくまモンの絵は、自ら被災しながらもボランティア活動を続けていた、境教雅(さかい・かずなり)さんの目にも止まった。

        境さんが関わっていた「くまもとハグプロジェクト」

境さんは、余震におびえる子どもたちに、くまモン人形を贈り、抱いて安心してもらおうという活動に関わっていた。子どもたちはとても喜んだと言う。シリアから届いたくまモンの絵を見て心打たれた境さん、これまで考えたこともなかった戦地の子どもたちのことが浮かんだ。

境教雅さん

「優しい思いやりの心をいただいたんで、逆に僕たちもお返ししたいなって。子どもたちの未来を考えるのは、シリアも日本も同じでしょうから、そういった気持ちで、お互いを思いやる気持ちが、どうしてもこれから必要な時代になると思います」

      境さんが送ったくまモン人形

去年、境さんは、ムハンマドさんがトルコに逃れたことを知り、感謝の気持ちを込めてくまモンの人形を送った。



くまモンをシリアにも届けたい

熊本からの思いがけない贈り物を受け取ったムハンマドさんは、教え子たちにもこのうれしいニュースを、ソーシャルメディアを使って伝えた。長引く内戦で、教え子たちは各地にバラバラになり、学校に通えない子どももいる。くまモンのことを聞いて、ハグしたいと伝えてきた子もいたと言う。しかし、それを叶えるのは簡単なことではない。
くまモンを子どもたちに届けたい思いがあったかと聞くと、ムハンマドさんは目に涙を浮かべた。故郷を離れて3年、祖国シリアでは戦火はいまだ続いている。

ムハンマド・サッルームさん

ムハンマド・サッルームさん

「そうできればよかった。子どもたちはきっと喜ぶはずだから」



くまモンが縁で始まった対話

2020年4月16日 熊本とイスタンブール初対面

熊本地震の本震から4年を迎えた4月16日、熊本とイスタンブールにいる双方がビデオ電話を通じ、初めて対面した。4年前のくまモンの絵がきっかけで対話が始まったのだ。熊本の八木さんと境さんは、くまモンの絵を送ってくれたことへの感謝を伝えた。

八木浩光さん

「どれだけ自分が大変でも他の人を支援する、それはあなたから学んだことです」

ムハンマド・サッルームさん

「くまモンをお返ししてもらえるとは思いもしませんでした。シリアの子どもたちにとっても、くまモンは希望になります」

八木さんは熊本城の修復の様子を撮影した写真なども見せながら、復興状況を伝えた。一方、ムハンマドさんは、多くの子どもが教育や医療が十分でない中に暮らすシリアの厳しい状況を説明した。双方は、くまモンをシリア国内の子どもたちに送ることを目指して交流を続けていくことを約束し合った。

ムハンマド・サッルームさん

「人生で大切な出会いとなり、希望を感じました。シリアの子どもたちがいつかくまモンをハグできたらと思います。熊本のようにシリアもよみがえりますように」



【取材後記】

飯野真理子ディレクター


熊本県のしあわせ部長でもあるくまモンは、「だれかをハッピーにしたいという想いがあるところ」に出没するそうです。だからこそ、そう願う心を持っていたムハンマドさんのいるイスタンブールまでくまモンは飛んで行ったのではないかと思います。
新型コロナウイルスの影響で、世界が困難と向き合っている時代だからこそ、ムハンマドさんのような、「困難の中にあっても、他の人のことを思いやる」優しさが大切なのではと感じます。
ムハンマドさんは、2011年の東日本大震災の時も、生徒たちと東北へのメッセージを送っています。ちょうど同じ頃に始まったシリア内戦下にあっても、生徒達に外の世界に目を向けてほしい、また、日本が災害から立ち上がる様子を知ってほしいという思いがあったと教えてくれました。シリアの子どもたちに多くの笑顔が戻る日も祈りたいと思います。

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