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特集

2020年4月17日(金)掲載

欧州で高まる存在感 中国“マスク外交”

新型コロナウイルスの感染拡大が続くヨーロッパ。EU各国は、次々と国境を封鎖するなど、共同体としての結束が大きく揺らぐ事態となっている。そうした中、バルカン諸国などヨーロッパの国々に医療物資やマスクを届ける支援活動を活発に行っているのが中国だ。EUの混乱とは裏腹に、“マスク外交”で中国がその存在感を強めている。

“コロナ危機” 窮地を救った中国

セルビアのブチッチ大統領

ヨーロッパ各国で、新型コロナウイルスの感染拡大が広がった当初、バルカン半島にあるセルビアでも感染者が急増し、深刻な状況に陥った。しかし、EUの盟主であるドイツやフランスは、自国を守ることに必死で、マスクの輸出を制限する動きを見せていた。これに対し、セルビアのブチッチ大統領は、「ヨーロッパの連帯など存在しない。おとぎ話だった」と激しく非難。途方に暮れる中、支援の手を差し伸べたのが中国だった。

2020年3月21日 ベオグラード

先月(3月)、首都ベオグラードの空港に、医療チームやマスクなどの医療物資を載せた中国のチャーター便が到着した。ブチッチ大統領は、みずから空港まで出迎え、「困ったときに助け合うのが真の友人だ。中国からの支援を忘れることはないだろう」と深い感謝の念を伝えた。セルビア駐在の中国大使も「中国とセルビアは、苦難をともにする兄弟だ。鉄の友情で結ばれている。共に新型コロナウイルスと戦う中で、固い絆を作り出している」と発言し、両国が良好な関係を築いていると強調した。



“一帯一路”影響力拡大へ

中国は、なぜバルカン半島で“マスク外交”を展開するのか。その背景には、巨大経済圏「一帯一路」構想がある。バルカン半島は、ヨーロッパへの入り口にあたり、輸送の要衝に位置しているのだ。

拠点となる港があるのが、セルビアの隣国、人口わずか65万ほどのモンテネグロだ。

ここでは今、建国以来、最大規模の建設プロジェクトが進められている。港と主要都市を結ぶ、全長165キロのモンテネグロ初の高速道路だ。

建設現場の入り口に建てられた中国語の看板

その建設に携わっているのが、中国の大手国有企業だ。これまで建設費用が工面できずプロジェクトが進まなかったが、中国からの多額の融資を受けてプロジェクトが動き出したという。町の人に話を聞くと、「さまざまなメリットがある。高速道路の建設に期待している」、「この国には、十分なお金がなかったので、中国からの融資は不可欠だ」など、中国からの支援を歓迎する声が相次いだ。



“債務の罠”に陥る可能性も…

ビジェスティ社 スルダン・コソビッチ編集長

一方、中国の動きに対して、国家財政を危険なレベルに高めるとして懸念する声も上がっている。モンテネグロ最大のメディア、ビジェスティ社のスルダン・コソビッチ編集長は、中国への債務は容易に返済できる額ではないと警鐘を鳴らす。「人口わずか65万の小国に対して、現時点で少なくとも1,200億円の建設費が投じられているとみられ、財政的に非常に危険な状況だ。すでに債務は、モンテネグロのGDPの80%にも達している」。最終的には、日本円で3,000億円近くにも達するとみられる建設費。IMF=国際通貨基金は、モンテネグロ政府が、中国への返済が困難になり、いわゆる「債務の罠」に陥る可能性もあると警告している。
中国への不信感が高まる中、モンテネグロにも、先月、中国から医療物資が届いた。専門家は、「EUの機能性の鈍さが露呈する一方、中国はヨーロッパ各国に活発に医療支援を行った。コロナ危機で、中国はさらに存在感を高めることになった」(オーストリア グラーツ大学 フロリアン・ビーバー教授)と指摘する。中国はこれまでに127の国に医療物資を援助していて、政治的な影響力をヨーロッパでさらに強めたい狙いがあるとみられている。



中国進出に警戒を強めるEU

「マスク外交」について、この専門家は、「中国にとっては『低コスト』の投資で、いいPR活動だ。ヨーロッパでは、中国が新型コロナウイルスの発生元という悪いイメージがあったため、それを払拭する効果もあったのでは」と分析する。ただ、ヨーロッパでは、新型コロナウイルスの問題以外にも中国の進出への懸念は尽きない。そもそも、バルカン半島は、大国のパワーゲームの舞台であり、EUやNATOにとっては、ロシアに対抗する最前線となっている。EUは、先月下旬、バルカン半島の2つの国と、加盟交渉を開始することで合意した。ロシアや中国が干渉してくる中、EUとしても、この地域をつなぎとめたいという狙いが伺える。EUは、近年、世界的な金融危機や、難民問題、そしてブレクジットをめぐる混乱などに直面し、大きく揺らいできた。今回、コロナウイルスという新たな危機に直面しただけでなく、EUの結束の限界が露呈する現実を前に、EUは、中国への警戒を一層、強めていくものとみられる。

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