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特集

2020年4月15日(水)掲載

新型コロナウイルス 途上国の「ロックダウン」生活

中国・武漢は封鎖が解除されたが、世界では多くの国が「ロックダウン」を実施している。しかし、途上国を見てみると、その厳しい外出制限が人々の生活を直撃し、逆に感染拡大の懸念が高まるという皮肉な状況が生まれている。

インド“世界最大のロックダウン”

外出禁止後のニューデリーの街並み(2020年3月25日)

感染者数が10,300人を超えるインド(WHOまとめ4月14日現在 以下同)。先月(3月)25日から全土が封鎖の対象となり、生活必需品の買い物などを除いて原則として外出が禁止された。13億人の国民が対象となることから、「世界最大のロックダウン」とも言われている。その影響をもっとも強く受けているのが、地方からの出稼ぎ労働者だ。

ニューデリーの出稼ぎ労働者たち(2020年3月25日)

都市部の建設現場や工場などに出稼ぎに来ていた地方の労働者たちは、封鎖で経済活動がストップしたため、一斉に職を失った。家賃を払えずに家を追い出され路頭に迷っている。

交通機関の運行も止まる中、彼らが取り得る行動といえば、荷物を抱え、故郷まで数百キロの道のりを歩いて帰ることだけだが、歩いて帰る途中で体調を崩し死亡する人もいるという。

こうした事態に、地元政府は地方に帰るためのバスを急きょ用意した。しかし、そこに労働者が殺到。ソーシャル・ディスタンスが求められる中、車内はすし詰め状態となり、屋根の上にまで人があふれかえった。

地方への移動の起点となるバスターミナル(2020年4月1日)

バスのターミナルも、故郷に帰る人たちで混雑した。出稼ぎ労働者たちが医療体制の整っていない地方に大量に移動することで、かえって感染が拡大する懸念が高まっている。

インド ウッタル・プラデシュ州のシェルター

地元政府は人の移動を止めようと、学校などに一時的な避難所を設けたが、逆に密集状態となり感染のリスクが高まっているという指摘もある。避難所に滞在する男性の出稼ぎ労働者は、「感染拡大のおそれは分かっていますが、家を失い、仕方がないんです」と言う。

エジプト“自宅待機”シングルマザーの不安

エジプトの観光名所のピラミッドに映し出されたのは、“自宅待機”のメッセージだ。2,100人を超える感染者(4月14日現在)が確認されているエジプトでは、人が集まるモスクは閉鎖され、夜間の外出も禁止されている。

こうした封鎖によって、生活のすべを失う人が増えている。

カイロで4人の子どもを育てている、シングルマザーのナグラ・ユセフさん(40)。モスクの近くの露店で靴下などを売って生計を立ててきたが、モスクの閉鎖で商売ができなくなり、3週間前から無収入となった。

育ち盛りの子どもたちが食べるのはパンなど炭水化物ばかりで、ここしばらく、肉や魚を口にしていないという。

ユセフさんは休校中の子どもたちの学習のため、新たにインターネットの回線を契約した。しかし、手元にあるわずかなお金も減りゆく中、次の支払いができるか分からない。「どうしようもないことなのですが、不安です。子どもたちを今後、どう養えばいいのか・・・」(ナグラ・ユセフさん)

こうした人たちを支えようとする動きも出ている。貧困層への支援を行ってきたNGO、「エジプシャン・フード・バンク」は、緊急に寄付を呼びかけ、そのお金で調達した食料を配っている。代表のモセン・サルハンさんは、人々の深刻な状況を次のように説明する。「(民主化運動が盛んだった)"アラブの春"よりも社会への影響は大きいです。人々の団結力が試されています」。

支援団体NGO「Egyptian Food Bank」のFacebook

この団体には、企業からも多くの支援表明が寄せられている。

支援を表明した現地企業代表

「5,000世帯を支援します。同じエジプトの家族ですから」。

南アフリカ 外出しなければならない事情

ヨハネスブルク ソウェト地区(2020年4月1日)

2,200人を超える感染者(4月14日現在)が確認されている南アフリ力。先月27日から全士で外出が厳しく制限されている。ところが黒人を中心とした貧困地区では、多くの人が、生きるための様々な事情で外出を続けざるを得ないのが現状だ。

ソウェト地区のショッピングセンター(2020年4月1日)

ショッピングセンターは、連日、大勢の人で混雑している。買い物客はもちろんだが、ここに失業手当や公的年金を受け取る窓口があるため、支給日には、特に多くの人々が大挙して押し寄せているのだ。

窓口の長い行列に並んでいた女性は、「食品を買うお金がなくて、手当をもらうために待っていました。新型コロナウイルスの感染は怖いけど、並ぶしかありません」と悲痛な面持ちだった。

ロレイン・マシティさん

夫と5人の子どもと、ヨハネスブルク近郊のソウェト地区に暮らすロレイン・マシティさん(40)は、外出制限により清掃会社から解雇された。警備員の夫の収入だけが頼りだ。少なくなった世帯収入でわずかな肉や豆を購入しているが、頻繁に停電が発生して冷蔵庫がそのたびに止まるため買いだめもできないという。「新型コロナウイルスで多くの人が死んでいて心配ですが、外出制限と言われても、それを守るのは不可能です」と語る。

ケープタウン近郊の酒の販売店(2020年4月5日)

さらに、治安の悪化という問題も出ている。これは、ケープタウン近郊の黒人が多く暮らす地区にある酒の販売店で起きた略奪の様子だ。犯罪行為は決して容認されるものではないが、こうした略奪の背景には、失業による生活苦へのストレスもあると指摘されている。 
ロックダウンの日々は、国民の多くを占める貧困層にとって、とりわけ厳しいものになっている。

国連 国際協調呼びかけるも・・・

国連は先月31日発表した報告書の中で、ロックダウンがうまくいくかどうかは財政の健全性にかかっていると指摘した。しかし、途上国の44%は対外債務で財政がひっ迫している。このため国連は、債権国が利払いを要求するのを停止したり、世界銀行や IMFが緊急融資をしたりするよう働きかけている。また、20億ドル規模の支援計画も打ち出していて、感染予防をはじめ、食糧の提供や教育などさまざまな分野で国連機関とNGOを総動員して現場で支援を行っている。この支援計画への資金拠出をあらためて求めるため、今月(4月)9日には、安保理が緊急の対策会合を開催して、グテーレス事務総長が計画への協力を呼びかけた。

グテーレス事務総長 ニューヨーク国連本部

NHKが今月3日に行った電話インタビューでは、グテーレス事務総長は、途上国の感染拡大について次のように述べた。

「第2次世界大戦以来 例のない難局だ。多くの人が亡くなり、経済も荒廃している。
途上国、特により弱い立場に置かれている人たちのために、
我々はウイルスに勝つという連帯を示すことができる」(国連 グテーレス事務総長)。

グテーレス事務総長は、備えと対策がぜい弱な途上国で今後、感染が広がれば、取り返しがつかなくなるという危機感を示し、感染症対策などで各国が連帯する必要性を訴えた。グテーレス事務総長自身、何度も会見を開いて国際協調を呼びかけている。しかし、国連の20億ドルの支援計画に集まったのは、これまでのところ、日本からの1億ドルあまりを筆頭に、合わせて4億ドルにすぎない。各国とも自国への対応で精いっぱいというのが実情だ。しかも、感染対策の最前線であるWHOへの最大の資金拠出国アメリカは、資金の拠出を停止する考えを明らかにした。国境を越えて拡散するウイルスを抑え込むためには、国際的な連携が欠かせない。

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