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特集

2020年3月25日(水)掲載

“スマホ投票”アメリカ大統領選挙の切り札に?

アメリカでは、選挙となると投票所の前に長蛇の列ができる。列ができるだけなら大した問題ではないが、実は、長時間待たされるのを嫌って投票に行かない人も多いといわれている。そこで、こうした待ち時間を減らして、多くの人に投票してもらおうと、スマートフォンを活用した「スマホ投票」が導入され、注目されている。アメリカで始まった新たな取り組みを取材した。

ワシントン州の小規模選挙で“スマホ投票”

2020年2月8日アメリカ ワシントン州 シアトル

自宅のソファーでくつろぐ女性たち。彼女たちがスマートフォンを操作して行っているのは選挙の投票だ。

名前や生年月日を入力後、投票したい候補者の名前にチェックを入れ、画面上に自分のサイン。わずか1分ほどで完了した。

「すごく簡単よ。家でパジャマのまま投票できるの!」

「土地の保全を担う」公共団体の事務所

彼女たちがスマホで投票していたのは、地元の地区の公共団体の役員を決める選挙。関心の低さから、この10年間ほど、投票率はわずか1%程度にとどまっていた。そこで導入したのがスマートフォンで投票する「スマホ投票」だ。団体では、この新たな取り組みで選挙の知名度を高めることができたと考えている。

「土地の保全を担う」公共団体職員のビー・コビントンさん

「簡単に投票できるようにすることで、選挙に参加しようという関心を高められると思います」(地区の公共団体職員 ビー・コビントンさん)。

大統領選で“スマホ投票”導入! ウェストバージニア州

2020年2月2日アメリカ ウェストバージニア州

このスマホ投票を大統領選挙でも活用しようという動きが、ウェストバージニア州で始まっている。

ウェストバージニア州の選挙責任者 マック・ワーナー州務長官

ウェストバージニア州の選挙責任者、ワーナー州務長官は海外に住む人や障害のある人を対象に、いち早くスマホ投票の導入を決めた。その理由は彼自身の体験からだった。

マック・ワーナー州務長官のアフガニスタン駐留時の写真

かつてアフガニスタンに駐留していたワーナー長官。選挙のたび、手続きの不便さを強く感じていた。スマホ投票ならこの課題を克服できるとして、普及に期待している。「2012年と2014年の選挙の際にアフガニスタンにいて、投票することが出来ませんでした。スマホで投票できれば投票率は上がるでしょう。軍人や障害者の方々も投票できるようにしたいと思っています」(ウェストバージニア州の選挙責任者 マック・ワーナー州務長官)。

アイオワ州民主党予備選挙の波紋

動き始めたスマホ投票の取り組み。ところが、そこに水を差す問題が起きた。先月(2月)3日に行われた、民主党の候補者選びの初戦、アイオワ州の党員集会で集計トラブルが発生したのだ。最終集計結果が1週間以上も確定せず、アイオワ州の民主党の委員長トロイ・プライス氏は責任をとって辞任することに。集計トラブルの原因は、集計用に新たに導入されたスマホアプリのシステムの不具合だった。選挙でのスマホの活用に対して、一気に疑念が高まった。

2020年2月10日アメリカ ボストン アプリ会社「Voatz」

トラブルの余波は、ウェストバージニア州が大統領選挙で導入しようとしている別のアプリ開発会社にも及んだ。不具合を起こしたアプリとまったく異なるシステムにも関わらず、多くの不安の声が寄せられたという。

アプリ開発会社「Voatz」 ニミット・ソウホニー社長

「テクノロジー全般に対する不信感が最近高まっていることを懸念しています。解決するには小規模な試験を繰り返して、技術を改善していくしかありません」(アプリ開発会社「Voatz」 ニミット・ソウホニー社長)。こうした人々の不安の払拭のため、この会社が強調しているのが、本人認証のセキュリティシステムの信頼性だ。

スマホ投票のアプリでは、まず顔写真付きの証明書を登録。投票の際には、自分の顔を動画で撮影して送信。この2つのデータをAIが照合し、同一人物かどうかを判定し、本人と確認できたら初めて投票ができる仕組みだ。システムには、データの改ざんを防ぐ最新の技術を活用するなど必要な対策を講じているとしていう。「ハッキングされても、何層ものセキュリティ機能があり、犯人を必ず見つけられます」(アプリ開発会社「Voatz」 ニミット・ソウホニー社長)。

“スマホ投票”の可能性は

Verified Voting デイビッド・ジェファーソン取締役

このスマホ投票について、20年にわたって研究を続けてきた、デイビッド・ジェファーソンさんは、スマホの活用は、まず補助的な役割にとどめ、検証を重ねる必要があると指摘する。「選挙の安全は、国の安全保障に関わる問題です。投票の利便性や投票率のアップと引き換えに、選挙を危険にさらしてもいいのでしょうか。」

アメリカでは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、今月(3月)中に予定されていた予備選挙が相次いで延期される事態となった。こうした状況で投票所に行けない場合、スマホ投票なら予備選挙実施も可能になるだろう。実際、アプリ開発会社には、今後、選挙でスマホ投票を検討したいという州からの問い合わせが増えているという。スマホ投票は、投票の利便性を高めるだけでなく、有事の際の切り札となりえるのか。その模索はまだ始まったばかりだ。

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