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特集

2020年3月24日(火)掲載

アメリカ大統領選挙 中東和平への影響は

アメリカ大統領選挙の行方は、国際社会が直面する様々な課題に影響を与える。なかでも中東和平は、アメリカの政権交代に大きく左右されてきた。現在の共和党・トランプ政権は、極めてイスラエル寄りだ。国際社会と連携してきた歴代政権の方針を転換して、イスラエルによる国際法違反の入植活動を容認したり、係争地のエルサレムはイスラエルの首都だと宣言したりしてきた。目下の民主党の予備選挙でも、イスラエル寄りの立場の候補者が多いが、異彩を放っているのがサンダース上院議員だ。サンダース氏はユダヤ人で、父方の親族の多くはナチスドイツのホロコーストで失っている。一見、イスラエルとのつながりが深いように見えるが、実際はイスラエルに手厳しく、パレスチナに寄り添う姿勢を打ち出す。78歳のサンダース氏の政治活動をさかのぼると、実はイスラエルにそのルーツと呼べる経験があった。

サンダース氏の政治活動の原点「キブツ」とは?

イスラエル北部の街、シャアル・ハアマキンには350人の住民が社会主義的な共同生活を送る「キブツ」と呼ばれるコミュニティーがある。ヘブライ語で「集団」を意味するキブツを、サンダース氏が訪れたのは、1963年の夏だった。

キブツの宿舎

当時20代前半だったサンダース氏は、質素な宿舎に滞在した。イスラエルのキブツは社会主義の暮らしが体験できるとして、アメリカをはじめ多くの資本主義国の若者を惹きつけていた。

1964年当時のキブツ

キブツが誕生したのは約110年前。帝政ロシアや東欧で迫害されていたユダヤ人が安住の地を求めて、祖先ゆかりのパレスチナ各地に社会主義の理想郷としてキブツを作った。

1964年当時のキブツ

キブツの住民たちは、挙手による多数決で共同生活のルールを決めたり、意思決定を行ったりする直接民主制を実践。農業で生計を立てていた。

左:キブツのガイド ヨシ・ソレイミンさん 右:取材した澤畑剛記者

ボランティアとして、キブツで数か月を過ごしたサンダース氏。「無料で滞在する代わりに、毎日早朝から畑仕事で汗をかいていた」と、当時の様子をキブツのガイド、ヨシ・ソレイミンさん(72歳)が説明してくれた。

「サンダース氏はこうした場所で働いていました。1960年代当時は、この写真のような梨やリンゴ畑で、外国からのボランティアたちが働いていました」(ガイドのヨシ・ソレイミンさん)。

サンダース氏の滞在当時の食堂の様子

更に食堂を案内してくれたソレイミンさんは「サンダース氏はこうした食堂で1日3食、食べていたんですよ」と嬉しそうに話した。

右下:小麦粉の工場

今なお、このキブツの全施設は住民が平等の権利を持つ共有財産となっている、住民たちは毎週食堂に集まり、工場からスポーツジムの運営にいたるまで話し合って多数決で物事を決めている。かつては酪農をはじめあらゆる労働を住民が平等に負担していた。

キブツのガイド ヨシ・ソレイミンさん

若き日のサンダース氏は、このキブツに滞在し、社会主義に傾倒していったとみられている。「当時は、外国からのボランティアたちに対し、キブツのメンバーは英語で、社会主義について講義していました。サンダース氏がこのキブツで、社会主義の原点を学んだことに誇りを感じています」(ガイドのヨシ・ソレイミンさん)。

サンダース氏の思い“パレスチナ問題”

2020年3月3日アメリカ バーモント州 演説するサンダース上院議員

イスラエルのキブツ訪問とまさしく同時期に、当時学生だったサンダース氏は、全米各地で活発化していた公民権運動にも身を投じていた。

1963年8月ワシントン大行進

人種差別の解消を目指す運動への参加を通じて、人種や宗教を越えた平等な社会の実現に向けて活動するようになったのだ。その政治信条は今なお健在で、パレスチナ問題でもぶれることはない。先月(2020年2月)25日開かれたアメリカのCBSテレビ主催の民主党の討論会でも――。

民主党 サンダース上院議員
「イスラエルは、ネタニヤフ首相という反動的な人種差別主義者の支配下にあります。
パレスチナ人の苦しみを無視することはできません」

サンダース氏は予備選で、イスラエルによるパレスチナの占領を厳しく批判し、物怖じすることはない。
イスラエルロビーが強い影響力を持つアメリカ政界では極めて珍しいことだ。

パレスチナ側“サンダース氏に期待”

2020年3月5日パレスチナ暫定自治区 ヘブロン

そんなサンダース氏に対して、パレスチナ側の人々は、願ってもない大統領候補だとして期待を寄せている。

パレスチナ人市民活動家のイサ・アムロさん

パレスチナ暫定自治区のヘブロンに住む市民活動家のイサ・アムロさん(39歳)は、イスラエルがヘブロン市内で推し進めている違法な入植活動の監視にあたっている。

左:サンダース上院議員 右:イサ・アムロさん

アムロさんは2017年、人権団体の招きでワシントンにあるサンダース氏の議員事務所を訪問し、直接意見を交わした。その時のことを、アムロさんは次のように語った。「素晴らしい出会いでした。サンダース氏はパレスチナで何が起きているのかを把握していました。イスラエルの違法行為を監視する私の活動が、市民活動としてどうやって広げていくべきか、具体的な方法論を話してくれたことに感銘を受けました」(市民活動家のイサ・アムロさん)。

2020年1月28日ワシントン 左:トランプ大統領 右:ネタニヤフ首相

ことし(2020年)1月28日、アメリカのトランプ政権がイスラエル寄りの姿勢を鮮明にした和平案を発表したことで、中東和平は風前の灯火となっている。

2020年3月3日アメリカ バーモント州 演説するサンダース上院議員

こうした状況を懸念するアムロさんだが、サンダース氏の選挙運動でアメリカのプログレッシブ=進歩派と呼ばれるミレニアル世代の若者たちが熱狂的に応援している状況に、将来への希望だと感じている。「サンダース氏は、パレスチナ人の声をくみ取り、パレスチナ人の安全保障と中東和平に向けて取り組んでくれている。今回の大統領選はチャンスが無いかも知れません、未来は私たちの味方です。サンダース氏が巻き起こした若者のムーブメントはこれからもアメリカで広がっていくでしょう」(パレスチナ人市民活動家のイサ・アムロさん)。

ことし(2020年)11月に予定されている大統領選挙でトランプ大統領が再選され、イスラエル一辺倒の外交が継続し、中東和平が遠のくのか。それとも民主党が政権を奪還し、エルサレムに移転したアメリカ大使館やイランの核問題を以前の状態に戻すことができるのか。中東情勢をも大きく左右するアメリカ大統領選挙から目が離せない。

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