BS1 ワールドウオッチング - WORLD WATCHING -

特集

2020年3月17日(火)掲載

サウジアラビア 日本のアニメ事情

聖地メッカを擁するイスラム教の厳格な解釈に基づく統治が行われているサウジアラビア。国内で放送されるアニメ番組などは、長い間、検閲が行われてきた。しかし、近年、「鬼滅の刃」や「約束のネバーランド」など、日本の新作アニメがリアルタイムで入るようになっている。なぜ戒律の厳しいサウジアラビアでそれが可能になったのか?

日本アニメのファン「第1世代」から現在まで

実は、サウジアラビアをはじめ中東の国々では、数十年前から日本のアニメがアラビア語に吹き替えられて放送されていた。検閲があり、放送されるものは限られていたが、40代の人々の間では、子どもの頃にテレビでみた「UFOロボ グレンダイザー」や「アルプスの少女ハイジ」がアニメの原風景だ。彼らが日本アニメの第一世代とすると、いまの若者たちは第4世代。いまや、インターネットを通じて最新のアニメがリアルタイムで入ってくるため、1990年代以降は、「ONE PIECE」と「NARUTO」への多くの熱狂的なファンが生まれた。国内に流入する日本アニメは、アクションからロマンスまで幅広いジャンルとなっていて、老若男女を問わず、人びとを強く惹きつけているという。

「Nippon Sayko」の共同経営者ノーハ・カヤットさん

そう分析するのは、自身も熱狂的アニメファンだというノーハ・カヤットさん(31歳)。サウジアラビア第2の都市ジッダにある国内最大規模のアニメショップ「Nippon Sayko(日本最高)」の共同経営者だ。

「Nippon Sayko」で販売されているグッズ

ノーハさんによれば、ここ数年のアニメファンの増加で、アニメから派生したグッズなどの売れ行きが好調だとのこと。彼女が始めた小さなブースのアニメショップが、今や街を代表するモールの一角を占めるまでに成長している。当初は、ゲーム内の「進化」がイスラムの教えに反するなどとして宗教界から批判された「ポケモン」は、いまでは、カードゲームが爆発的な人気を博している。

海賊版と戦うサウジアラビアの企業

こうしたアニメ人気を底支えしているのは、法の網をかいくぐって海賊版アニメを掲載するウェブサイトの存在だ。海賊版が横行する事情について、サウジアラビアで日本のアニメ制作会社とライセンス契約を結び、日本アニメの動画配信事業を手がける「Shufu.tv」の社長ヒラル・ハリスさん(38歳)に話を聞いた。

「Shufu.tv」社長ヒラル・ハリスさん

海賊版の実態について独自に調査をしているヒラルさんは、「日本で放送された最新話が、3時間後にはアラビア語字幕がついて海賊版として配信されている」と指摘した。

サウジアラビアで人気の日本のアニメは、皮肉にも、違法に拡散された海賊版によって支えられているという構図があった。若者たちに人気の「進撃の巨人」も、テレビ放送はなく「海賊版で見られているのだろう」とのこと。一方で、こうした海賊版の作品を載せたウェブサイトは違法であることはもちろん、ウイルス感染のリスクも高く、画質が悪いものも少なくない。「お金を払ってでも安全で高品質なものをみたい」とヒラルさんは自分で分析する。

最新で最高の日本アニメを見るために

「Shufu.tv」動画配信サイト

アニメファンの期待に応えるために「Shufu.tv」は、日本の企業とライセンス契約を結び、オンデマンドでアニメを提供するサービスを試験的に始めている。

「Shufu.tv」字幕制作の作業

動画にはサウジアラビアの公用語、アラビア語の字幕をつけている。アラビア語は中東各国に共通する公用語のため、ひとたびアラビア語の字幕をつければ周辺国でも見られることになる。始まったばかりの日本アニメの動画サービスの前には、きわめて大きな市場が広がっている。

「shufu.tv」の製作会議

「shufu.tv」では、ファンに感情移入をして楽しんでもらおうと、アニメの吹き替え版制作も検討した。しかし、サウジアラビア国内の声優のレベルが十分でないこと、また、ひと口にアラビア語といっても、国や地域によって、話される言葉に違いがあるため、サウジアラビアで話されるアラビア語の言葉で吹き替えると、他の地域では伝わりづらいものになってしまうという。結局、このアイデアは見送られることになった。
とはいえ、潜在的にいまの何倍も多いと予想される日本アニメファンの需要に応えようと、「shufu.tv」では、ユニークな別のアイデアも練っている。こちらは字幕制作の強化ということになるのだが、海賊版アニメに字幕をつけている人の翻訳のレベルが高いということで、一緒に仕事をする道を模索しているという。それが実現すれば、クオリティ向上と海賊版撲滅という一石二鳥だ。これで人気に火が付けば、日本アニメ界にとっても喜ばしい話だ。

日本のアニメが広げる裾野

サウジアラビア ムハンマド皇太子

こうした中、国もエンターテインメント産業を成長分野の1つと位置づけ、文化開放路線に舵を切っている。おととし(2018年)、約35年間禁止されていた映画館を復活。去年(2019年)7月には、2023年開業を目指した国内初の超大型テーマパークの建設計画が発表されるに至った。豪腕な権力者というイメージで国内の実権を掌握するムハンマド皇太子も日本アニメのファンだという。
こうした背景のもと、サウジアラビアでは日本のアニメ制作会社とともに長編アニメーション映画の制作を進めてきた。みずからの手でアニメ作品を作ろうという取り組みはことし5月、カンヌ映画祭で全容がお披露目される予定になっている。

もちろん、今後日本のアニメなどがさらに普及するためには、吹き替え版の声優の育成など課題は多くある。しかし、サウジアラビアには、制作現場、配信会社、何よりも日本アニメのファンたちの熱意があふれていて、将来が楽しみだ。

ページの先頭へ