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特集

2020年2月12日(水)掲載

レバノンの経済悪化 追い詰められるシリア難民

8年以上におよぶシリアの内戦で、レバノンに避難したシリアの人々は約100万人。これはレバノンの人口の6分の1に相当する規模だ。しかしレバノンは国連の難民条約を締結していないため、シリアの人々を難民として保護する義務を負っていない。このためレバノンにいるシリア難民の多くは十分な支援を受けられず、みずから住む場所を探し、生活費を賄うために仕事も見つけなければならない。こうした中、レバノンでは反政府デモの混乱から経済状況が悪化。立場の弱いシリア難民たちは、ますます苦しい状況に追い込まれている。

“祖国を失い レバノンで全てを失う”

レバノン東部ベカー県 シリア難民 アハマド・マフムードさん

シリアとの国境沿いのレバノンのベカー県に住むアハマド・マフムードさん(35)。シリアの首都ダマスカス郊外で塗装の仕事をしていたが、8年前、戦火を避けてシリアとの国境沿い、レバノン東部のベカー県に逃れてきた。

シリア難民 アハマド・マフムードさん

「あの山の向こうがシリアです。車で30分ほどで行けるのに、いまだ帰れません。祖国を失ったうえ、ここでもすべてを失おうとしています」

シリアに帰りたくても、内戦で家は破壊された。また、かつてシリアでの民主化デモに参加していたアハマドさんは国に戻れば、政権によって拘束されたり徴兵されたりする恐れがあり、帰ることはできないという。

アハマドさん一家

レバノンに来てからは、段ボール工場で稼いだ給料で部屋を借り、妻と両親、それに姉の家族の生活も支えてきた。しかし、去年(2019年)11月、工場の経営が悪化し仕事を失った。背景にあるのはレバノンの政治と経済の混乱だ。

新政府発足も深まるレバノンの混乱

発端は去年10月、各地に広がった反政府デモ。財政難にあえぐ政府が新たな税金を課す方針を示したことをきっかけに国民の不満が爆発。デモの混乱で当時のハリリ首相が辞任し、ディアブ首相率いる新たな政権が発足した。

2020年1月22日レバノン 初閣議に臨むディアブ首相

「これまでのレバノンにはない救国内閣として職務に当たる。経済の立て直しを最優先に取り組む」と決意を表明するディアブ首相。

2020年1月22日ベイルート 抗議デモ

しかし、新政権の発足後も改革が期待できないとして、デモはむしろ激しさを増している。デモに参加した男性は「政治が刷新されるまで、我々は息絶えようが、革命を続ける」と怒りをあらわにした。

左下:ATMサービス中止の表示 他:襲撃された銀行やATM

怒りの矛先は銀行にも向けられた。長引く混乱で現地通貨の価値が下がるなか、銀行がアメリカドルの引き出しを制限。建物やATMを打ち壊す被害が拡大した。

ベイルートの市場

混乱は物価の高騰も招き、人々の暮らしを直撃している。市場に買い物に来ていた女性は「物価が2倍にも3倍にも跳ね上がっています」と厳しい現状を訴える。子連れの男性は「国の経済が破綻しかかっています。政府がなんとかしないと、もっとひどくなるでしょう」と不安な面持ちで語った。
主要産業の観光業も大きく落ち込み、レストランや商店の閉鎖も相次いでいる。さらに銀行でのドルの引き出し制限によって、給与や家賃の支払いなどにも影響がでている。

困窮極めるシリア難民の生活

収まる気配のないレバノンの混乱。アハマドさんたちシリア難民になす術はなく、状況を見守ることしかできない。不安な面持ちでテレビから流れる反政府デモのニュースを見つめるアハマドさんと難民の仲間たち。アハマドさんの仲間は「この国が破滅の道に進まないことを願ってるよ。私たちの最後の希望なのに」と心の内を吐露した。

ベカー県の商店街で仕事を探すアハマドさん

それでも毎日、仕事を求め、商店や工場を訪ね歩くアハマドさん。

左:商店の店主 右:アハマドさん

アハマドさん
「なんでもします。仕事はないですか」

店主
「私たち自身も仕事がないんだ」

この日も仕事にありつくことはできなかった。

左:妻のゴーナイさん 右:アハマドさん

この春には、妻のゴーナイさんとの間に初めての子どもが産まれる予定だが、貯えもなく、ここ数か月は家賃も払えていない。 食事を切り詰めたり、知り合いから借金をしたりして、なんとかしのいでいる状況だ。

最後の頼みの綱 UNHCRも・・・

アハマドさんは最後の望みを託して、UNHCR=国連難民高等弁務官事務所に電話で窮状を訴えた。

アハマドさん
「私の妻が妊娠7ヶ月なのに支援が受けられないんです」

UNHCR担当者
「十分な支援ができる状況ではありません。もし支援ができるようになればすぐにご連絡いたします」

アハマドさんはUNHCRに何度もかけあったが、支援の見通しはたっていない。とりわけ生活の厳しい家族は、UNHCRから日本円で月2万ほどの支援を受けられるが、難民全体の2割弱と枠は限られている。困窮する人が増える中、支援は追いついていない。厳しい現状が、アハマドさんたちを追い詰める。

シリア難民 アハマド・マフムードさん

「父親になれることを喜んでいました。でも子供の将来を思うと悲しくつらいのです。今はとても苦しい状況ですが、私たちにはどうすることもできません。まるで、ゆっくりと死に近づいているようで、このままでは生きていけません」
(シリア難民 アハマド・マフムードさん)

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