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特集

2020年2月6日(木)掲載

台湾 フェイクニュース最前線

NHKアナウンサーの栗原望です。
クローズアップ現代プラスの取材で、総統選挙を控えた12月中旬から3週間、台湾に滞在しました。取材中、最も印象に残ったのが意図的に誤った情報を広めようとする、いわゆる「フェイクニュース」です。中国との距離を巡って、与党・民進党の現職、蔡英文総統と、最大野党・国民党の韓国瑜氏が激しい選挙戦を繰り広げたまさにその時期、選挙や政治にまつわるフェイクニュースが、スマホを介して個人から個人へ急速に広がっていく実態を目の当たりにしました。

フェイクニュースは人々の手の中に

2020年1月5日台北 西門町

台北市の中心部、西門町。タピオカドリンクの店や、流行の立ち食いソーメン屋などが立ち並ぶ、日本でいうと渋谷のような、若者の街です。ここで、フェイクニュースがどれほど身近にあるのか話を聞きました。

2020年1月10日台北 西門町 フェイクニュースを見せる男性

すると、ほとんどの人が、自身のスマートフォンに送られてきたというフェイクニュースを見せてくれました。

蔡英文氏についてのフェイクニュース

「蔡英文は学歴を詐称している」(拡散したフェイクニュース)

「蔡英文が当選すると、中国人の花嫁たちは大陸に返される」(拡散したフェイクニュース)

選挙戦に絡んだフェイクニュースが次々と現れます。

2020年1月10日 西門町 フェイクニュースについて語るカップル

人々は、「誰かが情報操作をしているのではないか」「世代や支持政党の違いを利用して、社会を分断させようとしている」「台湾の民主主義が壊されてしまう」などと、フェイクニュースがまん延する状況に不安と怒りをたぎらせていました。

フェイクニュースの現場「ピーナツ事件」

今回、事実と異なる情報が拡散したことで “被害” が出てしまったケースを取材しました。
選挙期間中、テレビのニュースや討論番組などで連日報道された「ピーナツ事件」です。
「台湾産のピーナツが、価格が下落した結果、売れ残って農家が困っている」というニュースとともに、「価格が下落したのは、蔡総統率いる当局の政策のせいである」という真偽不明の情報が飛び交っていたのです。

2019年12月23日台湾 雲林県 売れ残ったピーナツを見つめる農家

真偽のほどを確かめようと向かったのは、ピーナツの一大産地である中部の雲林県です。
訪ねた12月中旬は、通常であれば収穫と出荷が終わっている時期ですが、農家の倉庫には、袋詰めのピーナツが山のように保管されていました。農家の人たちは「今年は誰も買い取りに来てくれない」と嘆き、中には真偽不明の情報に影響されて、蔡政権への不満を口にする人もいました。農家の困惑と怒りをたきつけたのは、ネット上に大量に流れたデマの記事や動画です。

「台湾の当局がピーナツの輸入量を増やしたため、地元のピーナツが売れない」(拡散したフェイクニュース)

この件で、当局は、事実関係を丁寧に説明しようと、広報動画を連日配信しました。しかし、フェイクニュースの広がりは止められず、ついには蔡総統自ら現地入りし、火消しに走らざるを得ない事態になりました。フェイクニュースが社会に混乱と不信感を広げる恐ろしさを目の当たりにした一件でした。

誰が、なぜ台湾でフェイクニュースを拡散させているのか

台北大学 沈伯洋(しん・はくよう)准教授

フェイクニュースについて研究する台北大学准教授の沈伯洋(しん・はくよう)さんに話を聞きました。
沈さんの分析によると、台湾では、1日に少なくとも3000件のフェイクニュースが広がる実態があり、フェイクニュースを拡散する人たちの目的は、社会の中に不信感を生み出すことだといいます。「民主主義に対する信頼を失わせるためには、多くの偽情報を流さなければなりません。人々を対立させ、分断をあおるのにフェイクニュースは効果的です。」
フェイクニュースが拡散している現状について「受け取った人も、拡散した人も、みんなが被害者なのです」と語ります。さらに沈さんは、フェイクニュースと思われる情報の発信者のIPアドレスや発信パターンなどを分析するにつれ、実は、中国で作られたものが数多く存在することがわかってきたといいます。

進む、水際のファクトチェック

発信されたニュースがフェイクかどうかを市民が見分ける方法はあるのか、そして、フェイクニュースと分かった場合、拡散をどう防ぐのか、模索が始まっています。

市民団体「Cofacts」のメンバー

ニュースが正しいかどうかチェックするいわゆる「ファクトチェック」を行う市民団体Cofactsです。ここには、毎日、一般市民から真偽不明のニュースが500~1000件寄せられます。Cofactsでは、それらを1つずつ当局のデータと照合するほか、写真が偽造されたものかどうか判断するため元の写真を探し出すなど、気の遠くなるような作業をしています。しかし、処理できるのは、せいぜい1日数件程度。とても対応が間に合いません。

「Cofacts」開発のフェイクニュースをチェックするシステム

この市民団体では、日本でもおなじみのSNSに目をつけて、チェックするためのシステムを開発しました。
台湾ではこのSNSの人気が高く、2300万の人口に匹敵する約2100万のアカウントがあります。開発したのは、いわゆるチャットボットのシステムです。利用者がフェイクニュースと疑われる動画や文字情報、写真をCofactsのSNSに投稿すると、自動的に過去のデータベースと照合し、情報が事実かどうかを回答してくれます。

情報との一致具合をパーセンテージで表示

また、表示される回答は、データベースにある情報との一致具合をパーセンテージで表し、偽情報が混じっていれば、数値が低く表示されるようになっています。さらに、データベースに無い情報はボランティアのスタッフがファクトチェックしてデータベースに保存していきます。フェイクニュースは繰り返し同じうその情報が使われる可能性が高いだけに、データベースの活用が有効なのです。

市民団体「Cofacts」代表のビリオン・リーさん

Cofactsの代表を務めるビリオン・リーさんは、SNSに広がるフェイクニュースに危機感を募らせていました。「個人どうしを結びつける閉鎖的なオンラインコミュニティーでは、外からチェックできないのが難点です。知り合いの間で拡散するため、フェイク情報を真に受けて、本物と勘違いしてしまう恐れがあります」(Cofacts代表ビリオン・リーさん)。このシステムは、簡単にチェック済みの情報が手に入るため、シェアする前に確認できれば、フェイクニュースの拡散防止効果も期待できます。日本でも同様のサービスがあればと感じました。真偽を確かめようという利用者の意識を高めるためにも、よい取り組みだと思いました。

台湾流の研ぎ澄まされた感覚を知る

2020年1月11日 支持者の前で演説する蔡英文氏

総統選挙では、中国に対してきぜんとした対応をとり続けた蔡総統が、過去最多得票で再選を果たしました。蔡総統が演説した会場は、日本では見たことがないほどの熱気に包まれていましたが、厳しい表情の人もいました。デモが繰り返される香港の混乱を見ているということもありますが、自分たちが国際社会で生き残っていくことの難しさを実感しているからだとも思います。若い世代の政治への意識の高さや、新しいシステムを使ったフェイクニュースの対策などは、日本にはない魅力や希望だと感じました。危機意識の高まりが行動やアイデアを生み出しているのかもしれません。日本の私たちも、市民が一丸となってフェイクニュースと闘う台湾の試みから多くのことを学べるのではないかと思いました。

プロフィール

右:ピーナツ農家にインタビューする栗原アナウンサー
栗原望(くりはら・のぞむ)アナウンサー
H22年入局。沖縄局、福島局を経て、東京アナウンス室所属。
現在は、クローズアップ現代+リポーター。

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