BS1 ワールドウオッチング - WORLD WATCHING -

特集

2020年2月5日(水)掲載

好景気の影に…急増するホームレス

底堅い消費や低い失業率が続き、「絶好調」のようにみえるアメリカ経済だが、その影で深刻な問題になっているのが、路上生活者、いわゆるホームレスの問題だ。アメリカ政府が今月(2月)発表した統計では、ホームレスの数は、全米で約57万人と前の年に比べて2.7%、約1万5000人増えている。その中でも、最も深刻なのが西海岸のカリフォルニア州だ。1年間で16%も増え、15万人を超えた。好景気の中、なぜホームレスが増えているのか。その実態に迫る。

“働けど帰る家がない” ホームレスへの転落

カリフォルニア州最大の都市、ロサンゼルス。高層ビル群の下には、3000人はいるというホームレスの居住区がある。路上には、衛生状況が良くない地域独特の悪臭が漂っている。アメリカでは、好景気による家賃の高騰で、収入があっても家賃が払えず、ホームレスになる人が増えているのだ。ロサンゼルスでは、日本の1LDKにあたる部屋の平均家賃が8年間で30%、7万円も上昇。普通のアパートで、家賃が約22〜28万円もしているという。

そんな人々の拠り所になっているのが、州南部のサンディエゴにある駐車場だ。ホームレスの人たちが車内で安全に寝泊まりできるよう無料で開放されている。夜になると、仕事を終えた人たちの車が次々とやってきて、駐車場はいっぱいになる。

イレイン・ウッドワードさん

約1年前から、この駐車場を利用しているイレイン・ウッドワードさん。長年、警備会社で働き、現場の責任者も任されていたが、けがをして仕事を続けることができなくなったという。夫に先立たれたあとは、住宅費を切り詰めるためルームシェアもしていたが、高騰する家賃を支払えなくなり、ホームレスに。寝泊まりする車中は、冬は冷蔵庫のように寒く、夏はとても暑く寝心地は悪いという。
「私の目標は、車の生活から抜け出して、自分の場所を見つける事だ」。
ウッドワードさんは、今、ホームレスの支援団体を手伝って生活費を稼ぎ、再起を目指している。



支援すべきだが、理解を得られず

普通に暮らしていた人がある日突然、ホームレスに転落してしまうアメリカ。所得の低い人が入れる住宅を増やすことが、緊急の課題だ。しかし、こうした住宅の建設には地域の住民の同意が必要になる。

ロサンゼルスの中心部から30分ほどのところにある町では、地元の建設業者が、小学校のそばに、7階建て、60部屋余りのホームレスの住宅の建設を計画していることが明らかになり波紋が広がっている。

11月、住民集会が開かれた。住宅建設に反対する住民200人以上が出席。会場は満席で、立ち見が出るほどだった。地域の牧師が「彼らが住む場所を我々が見つけるしかない」と計画受け入れの意義を説くも、参加者のほとんどが計画に反対した。反対派の住民は「ハンバーガーの店を作るならいいが、小学校の近くにホームレスの施設はありえない。この町では薬漬けのホームレスも見かけ、そこら中に注射針も捨てられている」と怒りをあらわにした。
“ホームレスは支援すべき”。しかし、自分の身近な問題になると、受け入れるのは難しいというのが現状だ。



海を越え、東日本大震災の仮設住宅が再利用

こうした中、ホームレスの受け入れをめぐり、街全体で取り組んでいる場所がある。
常夏の島、ハワイだ。高い人気を誇るこの観光地でもホームレスの増加が深刻化。2015年には州が非常事態を宣言し、支援に取り組んできた。

その一つが、「ホームレスが住める場所の提供」。NPOが、自治体から提供された土地に、東日本大震災の被災地で仮設住宅として使用されていたものを再利用し、約300人のホームレスが住めるようにした。町の中心からは離れているため、地域の住民から目立った反対の声は上がっていない。利用者は、家賃8万円を支払えば、電気や水道、インターネットなど生活に必要なものがすべて利用できるようになっている。そして、NPOから紹介された仕事に就いて生活費を稼いでいるという。

ファーン・モニスさん

半年前からここで暮らしているファーン・モニスさん。子どもと一緒にシングルマザーの状態でホームレスになった。しかし、今、自分の居場所を見つけたモニスさんは、将来に希望が持てるようになったという。「今まではインターネットもなかった。しかし、今は、家を持て自分のキャリアに取り組むことができる」。



11月の大統領選挙の焦点の一つに「ホームレス問題」

アメリカのホームレスの問題は、「ホームレス・クライシス」と呼ばれているほどで、選挙戦の中で避けて通れないテーマになりそうだ。トランプ大統領は、「ホームレスの問題が深刻なのは、民主党の有力議員が選出されている州で、あの地域は最悪だ」と対策に積極的な姿勢を見せていない。一方、野党・民主党のバイデン前副大統領は、所得の低い人たちのために数千億円を投じて住宅を用意するとしているほか、サンダース上院議員も3兆円以上をかけてホームレスのための住宅を作る政策を掲げている。好景気の裏側で、格差の拡大によってもたらされたホームレスの問題は、アメリカ社会にとって深刻なものになっている。候補者たちは説得力のある対策を打ち出すことができるのか、大統領選挙の政策課題のひとつとして注目される。

ページの先頭へ