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特集

2020年1月16日(木)掲載

フィンテックで世界の金融は一変!?

『国際報道2020』は、世界を変革するような大きなうねりを起こしている若手リーダーたちに注目している。今回、取材したのは、南米アルゼンチンの32歳の起業家ピエルパオロ・バルビエリさん。銀行口座をつくれない多くの人たちのために、スマホの決済アプリ「Ualá(ウアラ)」を開発。経済危機で国が苦境に陥る中、サービス開始からわずか2年あまりで利用者が150万人を突破するなど、急速に利用が広がっている。

アルゼンチン 金融サービス会社「Ualá」創業者 ピエルパオロ・バルビエリさんの動画↓

成毛眞さんにインタビュー
世界で起きている、金融「下剋上」

バルビエリさんの取り組みについて、元マイクロソフト日本法人社長、成毛眞さんに解説していただきました。


成毛眞さんプロフィール

元マイクロソフト日本法人社長
複数のベンチャー企業の顧問を務めるなど、起業支援にも取り組んでいる。
BS国際報道を5年ほど欠かさず観ている。

“スマホ決済”が与える影響は

池畑:成毛さん、いま金融といいますと、急速に新しいテクノロジーが入っていて、姿が変わってきていますよね。 

成毛:そうですね。今までは既存の企業が社内で新しい事業を起こす、という感じでしたけど、フィンテックというと、今までの銀行とは全く違う人たちが入ってきますから、これから本格的な「下剋上」が見られるかもしれません。

酒井:バルビエリさんが開発したアプリでは、移民の人たちが手数料を払うことなく国外の家族に仕送りをすることが可能です。アルゼンチンでは銀行まで現金を持っていくときに、強盗に襲われることもあるそうで、そうした心配もなくなるということなんです。

池畑:アルゼンチンの格差社会を少しでも是正したいという思いがあるということですけど、成毛さんは、ご覧になってどうですか。

成毛:もしかすると戦前の日本と変わらないような金融環境なのかなっていう風にも思いますよね。つまり、全員が銀行口座を持っているわけではない。ただ、その中にいきなりIT技術が入ってきて、社会がガラッと変わっていくわけですから、ある意味では社会の革命的な変化というのが起こるんだろうと思いますね。

池畑:インパクト大きいですね。

成毛:大きいですね。

池畑:このバルビエリさんが開発したアプリをはじめ、世界では携帯電話ですとか、オンラインでの電子決済が爆発的に増えています。

例えば、みずほ銀行の調査によりますと、アフリカのケニアでは、低所得者で銀行口座を持っていないとされる人が全人口の約83%を占めていますが、一方で人口の約75%が携帯電話などを使って電子決済をおこなっているということです。

また、インドでは、オンラインでの決済を政府が主導して進めたところ、現在では、個人がおこなう電子決済が1日に3億件、額にして800億ドルと言われています。

アルゼンチン、南米だけでなく、世界的にこういう決済システムが広がっているわけですが、今年2020年、どうなると見ていますか。

成毛:フィンテックの流れは、恐らく、発展途上国、つまりもともとインフラがなかった地域で非常に流行ってくる、成功者が出てくると思うんですね。一方で心配なのは先進国です。日本だけではなく、ヨーロッパ諸国も、なかなか電子マネーが普及しない。それで国を挙げて何とかしようとしているわけですけれども、そういった先進国と発展途上国の間の、それこそ「下剋上」のようなものがあるのかもしれませんよね。

池畑:電子決済で途上国が一気に上に行くかもしれない。

成毛:そうですね。



経済状況の悪化で、フィンテックの需要高まる

酒井:バルビエリさんは、アルゼンチンが景気後退から抜け出して経済成長に転換する方法として、公的部門では対外債務問題の解決、民間部門では人材への投資が必要で、あわせて経済成長を可能にする、と考えているそうです。

池畑:アルゼンチンでは、日本円にして対外債務が36兆円。インフレが年率50%を超えているという、非常に混乱している経済状況ですが、この状況をどうご覧になりますか。

成毛:インフレと為替レートの問題があると思うんですね。ですから、一生活者としますと、今、アルゼンチンに旅行に行くと非常に楽しめるなとは思いますが、一方で住んでいる方にとっては大変な状況ですから、ある意味ではお金をできるだけ貯めず、銀行に入れないで、入ってきたものをすぐ出していくという流れになってくる。したがって、今のフィンテックの取り組みも、うまく行ってるんじゃないかなという気もしますね。

池畑:なるほど、現金を貯めてもしょうがないので余計にフィンテックに。



米中技術競争で揺れる発展途上国

ピエルパオロ・バルビエリさん

「バルビエリさんが世界で注目することは、米中貿易摩擦。技術面でも対立が起き、企業がそれぞれの陣営に分かれてしまうこと。全く異なる2つの世界ができつつあり、技術や個人情報の基準がどうなるかを懸念する」

池畑:やっぱり世界のいろんな人が米中を心配しているということですね。バルビエリさんは、5Gなどの技術規格を巡ってアメリカと中国のテクノロジー競争にアルゼンチンも振り回されることを心配しているようですが、成毛さんは米中のそういう争いをどう見ていますか。

成毛:まさに冷戦の後ですね、新しい戦争が始まったなという感じを受けるんですね。お互いのやり取りがあまりにも激しくて、単純に技術競争でもないですし、それから輸入制限でもないわけですよね。だとしますと、我々日本人からしますと、どっちに付くべきかという決断がしにくい状況になっているんじゃないでしょうか。同様にほかの国もやはりどっちに付くべきか迷っている。逆に言いますと、中国とアメリカどちらが勝つかは、むしろ中南米、アフリカ、東南アジア、インドなどの新興国でシェアをどのくらい取るか。そこが勝負の分け目になるかもしれないですね。

池畑:その技術規格がアメリカ陣営、中国陣営で完全にばらばらになる、そういう可能性はどうですか。

成毛:さすがに彼らも、経済合理性に合わないということもあります。最近のITのコンポーネントというのは、部品がサプライチェーンで世界中に散らばっていますから、合理性を考えますと、どっかで折り合いをつけなければコスト的に合いませんし、新しい技術も出て来ないという風になると思いますね。



日本のフィンテック勝機は「投資」にあり?

池畑:フィンテックについて気になるのは、先程、成毛さんがおっしゃったように、先進国ではあまり進んでいないということです。日本では、金融はこれからどうなると見ていますか。

成毛:そもそもリテール金融というのはですね、不特定多数の多くの方たちに対してのサービスですよね。昔は銀行が支店を全国各地に無数に作っていましたが、それが次にはATMになって、段々便利になってきて、そして今カードにということですから、そういう意味では日本に関しては既に持っている資産が段々重くなってくる、と言うんでしょうかね、そこにかかっているコストが、金融全体のコストとしてのしかかってくるかもしれません。ですからその辺をどうやって解決するのかというのは、これからの日本の金融界の課題になるんだと思います。

池畑:一方でどうなんでしょう、日本企業がアプリ開発するなど新しいシステムを作って世界に打って出るという可能性は。

成毛:スマホの中には日本製の部品が山ほど入っているわけですよね。案外それで日本というのはいい位置にいたとは思うんですが、その意味では何も日本ブランドの何かを作って世界中に広めるというのは、それももちろん野望としてあっていいとは思いますが、一方で全世界、つまり途上国は無数にあるわけですから、そこで成功しそうな、バルビエリさんのような方たちがいるはずです。その人たちに対して投資をするというのも、ひとつの考え方だと思いますね。もちろん個人での投資もありますし、銀行や金融機関が投資をする、年金で投資をするというようなことも含め、海外からむしろ利益をいただくという考え方もあっても良いかもしれません。

池畑:なるほど。まだまだ日本では外国の企業に投資する動き、あんまり進んでないですよね。

成毛:そうですね。この企業に関してはソフトバンクさんが出資をしていますが、ソフトバンクさんはもうこの分野における世界的な第一人者ですから、それ以外の日本企業もぜひ目を向けて投資チャンスを伺ってもいいかと思います。

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