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特集

2020年1月14日(火)掲載

「台湾独立を“望まぬ”若者」と「民主化を進めた李登輝氏」の思い

NHKアナウンサーの鎌倉千秋です。
巨龍・中国とどう向き合っていくのか―。
台湾の政治は、選挙のたびに振り子のように大きく揺れ、中国との距離感も、融和的な路線と独立や現状維持を求める路線との間で揺れ動いてきました。この振幅の大きさこそ、台湾という特殊な政治空間のリアリズムであり、台湾の人の苦悩そのもの、あるいは絶妙な政治感覚だと、身近に様々な台湾の人たちを見ていて感じます。

一時期台湾では“天然独”という言葉がはやりました。自由を謳歌する若い世代は、生まれながらにして台湾独立志向であるという考え方です。
台湾の若者の取材を始めた時、私は「台湾の若者は基本的に天然独だろう」と考えていました。しかし台湾経済の停滞が長引けば、「自分の街を出たい」と思う人も増えます。海外で働きたい20代の若者が最初に想い描く渡航先は、中国大陸なのです。台湾の全ての若者にとり、中国との距離感は宿命的な課題です。“台湾の振り子”は“天然独”世代の若者たちの中でも揺れ動くのです。「天然独はみな若者」であっても「若者全員が天然独」と考えるのは早急だと感じました。
私は、若者の考えをさらに詳しく知りたいと取材してきました。台湾の若者の一般像とは異なるかもしれませんが、いつかは中台統一を望む人、中国との融和路線を支持する若者の声を聞き、台湾の将来をどう描いているのか話してもらいました。あえて少数派の声を聞くことで、台湾の民意の複雑さの一端が垣間見える気がします。
1人目は、熱心な国民党支持者で、大学院で中台関係を専攻した青年です。

「私たちは、台湾で生まれ育ち、小さい頃から台湾と大陸が違うことを知っています。祖父母や親戚は民進党支持です。しかし、中華民国と大陸が歴史上つながりあっていることを忘れてはなりません。私たちには5000年の歴史があり、台湾のたった400年ではないのです。国民党は大陸で生まれ、尊い犠牲の上に中華民国の歴史を築いてきました。それらが消え去ってはならないと思います」


周さんは、国民党は、大陸を支配する共産党と歴史的に対話の実績があり、今もパイプがあるから、いつか国民党が大陸で再び役割を果たす時が来ると考えているようでした。

「大陸の若者の民主・自由への考え方は私たちと変わりません。大陸には常に民主主義の種があり、常に共産党統治に反対する声があります。その種はまだ芽吹いていないけれど、長期的に見れば、大陸はより開放的な体制に進み、最終的には今の中華民国と同じ政治体制になると思います。その後の中台統一という可能性を排除しないのはそのためです」(周さん 20代 高雄出身)


日本や欧米では、「中国には言論統制があり、ウイグルや香港など人権問題を抱え、民主化は到底無いだろう」と考える人も多いと思いますが、「いつか中国が民主化するとき、台湾がそれをリードする」と信じる声が、台湾にあることもまた事実なのです。 2人目の若者は、「自分は台湾人でもあり中国人でもある」と自認する一方、選挙では白票を投じてきた女性です。

「蔡政権になってから断交されることが増え、台湾を主権国家として認める仲間が少なくなっています。アメリカは中国と国交を結び、台湾とは結んでいません。口先だけの強い姿勢は果たして本当に台湾の将来のためになるのでしょうか。中国との間に対話がないことは非常に危険です。隣に、いつ爆発してもおかしくない爆弾が存在しているようなものですから。中国と対話をすることが現実的な答えだと思います。投票にものすごく葛藤していて、無理やり一人を選ばなければいけないことが悲しくつらいのです。前回の選挙の時そうしたように、今度も白票を投じるかもしれません」(劉さん 20代 台湾南部出身)


「いずれは中国と台湾が統一する日がくる」―中台関係を熱心に学ぶエリート学生の中には、こうした考えを持つ人がいます。こうした人たちは、例えばキリバスやソロモン諸島など外交関係のあった国が中国を選び、台湾と断交する度に、民進党に不安を募らせます。少なくとも中国と対話ができる点において国民党支持は台湾が生き残るための「現実的な選択だ」と考えているのです。

2019年11月4日 台北 台湾大学を訪れた鎌倉キャスター

何人か若者を取材した限り、1つの家族の中でも中国に対して異なる考え方を持っていたり、自分が支持すると決めた政党自体に迷いを抱いていたり、昔と意識が変わったという話はよくありました。台湾はバッググラウンドも多様で、中国との距離感も人それぞれ、その時々の指導者や経済をよく見ています。『台湾の振り子』は停止することはありません。だから選挙が大切であり、その結果と成果、そしてまた次の選挙というプロセスこそが、台湾が積み上げる民主的社会の形なのだと思います。
苦悩する若者たちの声を聞きながら私は、ある言葉を思い出しました。
かつて李登輝元総統にインタビューしたときのことです。李登輝氏は、台湾に初めて直接選挙を導入し総統となり、台湾民主化の礎を築いたとされる人物です。

    2015年 李登輝元総統(当時92歳)へのインタビュー

李登輝元総統
「今の若い人は『私は台湾人である』というこの基本的な考え方から出発するのです。台湾の歴史をよく理解し、台湾はどうするべきかという考えを今の若い人は持っている。将来は彼らの世界ですからね、彼らのために、結局新しい世代のために社会を作り直していく、変えていくという気持ちがなければならないですよ。自由と民主という価値の中に台湾を変えていく、これが私が12年間の総統の時に努力した方向です」

そして去り際、

「台湾はそういうような努力をやりますよ。私はまだ“5年ぐらい”生きるでしょう」(李登輝元総統)


破顔一笑の様子が記憶に残りました。 あれから5年―。蔡英文氏を選んだ台湾は再び大きな節目をむかえました。民意は、台湾をどこへ向かわせるのか。不確かな道筋ですが、それが自由・民主という価値の中で変化を続ける台湾のあり方なのだと感じさせられました。

鎌倉千秋プロフィール

「激動の世界をゆく」キャスター
国際報道「World Wave Tonight」、「NEWSWEB」、「クローズアップ現代+」キャスターを歴任。
2009年から1年間 中国派遣、中国伝媒大学留学、上海SMGで番組キャスター。
2016年からは台湾大学国家発展研究所在籍。

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