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特集

2019年12月11日(水)掲載

世界初か“デジタル人民元”の衝撃

中国が発行の準備を進めているデジタル通貨「デジタル人民元」。主要国の中央銀行が発行するのは中国が初めてとなる見通しで、世界の金融勢力図に影響を与えかねない動きだ。日本では今年、「何々ペイ」というキャッシュレスの支払いシステムが広がりを見せたが、そうした電子マネーとデジタル通貨との違いのひとつが発行元だ。電子マネーの発行元は民間企業によるもので、そのためサービスを提供する企業や提携する店舗は限定的。これに対し、デジタル通貨は中央銀行が発行するもので、社会インフラとして誰でも使えることを目指していて、銀行口座がない人も使えるのが最大のメリットだ。アメリカでは、中国より先にフェイスブックが計画するデジタル通貨「リブラ」が話題になったが、世界の基軸通貨である「ドル」の立場を脅かしかねないという懐疑的な声があがり、米政府から「待った」がかかっている。世界の金融市場の主導権を、どこが握るのか。デジタル通貨を巡る中国とアメリカの動きを追った。

中国で浸透するキャッシュレス化

中国が導入を目指す「デジタル人民元」。発行されれば、主要国としては初めてとなる。背景のひとつにあるのが、急速に浸透するキャッシュレス化だ。中国では、どこにいっても現金いらずで買い物が出来るため、世界に先駆けて、デジタル通貨を導入しやすい環境にある。

市場での“スマホ”決済

例えば町中にある市場をのぞいて見ると、スマートホンによる決済、いわる“スマホ決済”が当たり前のように行われている。市場を訪れた男性客は「普段は現金を持たない。最後に現金を使ったのは2か月前です」と話す。また八百屋の店員は「おつりを渡すのもわずらわしいし冬は寒いから小銭を探すのも不便です」とキャッシュレスが進む状況に満足している。“スマホ決済”利用者は、いまや中国で6億人を超える。

2019年10月28日 中国国際経済交流センターの黄奇帆副理事長

こうした中、政府系シンクタンク・中国国際経済交流センターの黄奇帆副理事長は、今年(2019年)10月に行った講演の中で「中国人民銀行は世界初のデジタル通貨を発行する中央銀行となるだろう」と言及し、デジタル人民元発行に向けた今後の見通しを示した。



デジタル人民元を裏付ける技術開発も

IT企業「PDX」

中国では、デジタル人民元の信頼性を裏付ける技術開発も進んでいる。「ブロックチェーン」と呼ばれる技術の開発を中国政府が後押ししているのだ。北京にあるIT企業も、この技術の開発を進めている。ブロックチェーンの技術を使えばお金のやり取りが正確に記録され、データも改ざんされにくいため、デジタル人民元の信頼性を高めるといわれている。

「ブロックチェーン」の技術を応用した新サービス


さらに、ブロックチェーンの技術を応用すれば、新たなサービスも展開できるという。IT企業が開発しているシステムにユーザーとして登録すると、ネット上で通貨をやりとりするための「財布」を設定することが出来る。この「財布」を使えば、銀行を介することなく、お金のやりとりを、取引先などと直接行うことが可能になるという。また事前に登録したユーザー同士なら金額を入力するだけで短時間で世界中に送金することができる。

IT企業「PDX」張建鋼CEO

IT企業の張建鋼CEOは「送金を1分に縮めることもできます。日本にも中国にもまたたくまに送金できます」と自信を見せた。



デジタル人民元導入 中国の狙い

そもそもなぜ中国がデジタル人民元の導入を進めるのか。狙いのひとつが、キャッシュレス決済や送金の利便性の向上に加え、脱税や金融犯罪などの対策だ。お金のやりとりが全て記録されるデジタル通貨は追跡が可能で「マネーロンダリングや詐欺などの犯罪を抑止できる」(中国人民大学・趙錫軍教授)という。



デジタル人民元 国際化の狙い

中国 習近平国家主席

さらに別の狙いもある。それは国際取り引きに使う通貨として人民元の利用を拡大させる思惑がある。現在、世界で最も多く使われている通貨はアメリカのドルで、国際決済に占める割合は約40%に上る。一方の人民元はわずか2%にすぎない。

国際送金の仕組み


貿易での取り引きはほとんどがドルによるもの。そのためドルでの取り引きの場合は、必ずアメリカの銀行を経由する必要があり、決済に時間がかかる。その上、情報がアメリカに筒抜けになるおそれもある。

デジタル人民元の送金


これに対し、デジタル人民元を使えばアメリカの銀行を経由せず、すばやく取り引きを行うこともできるのだ。「デジタル通貨の出現は人民元の国際化を間違いなく大きく後押しするでしょう」(中国人民大学・趙錫軍教授)。



強まるアメリカの警戒感

アメリカ トランプ大統領

中国がデジタル人民元発行の準備を進める中、アメリカでは警戒感が強まっている。これまでアメリカは、対立する国やテロ支援組織に「ドルを使わせない」ことで、経済制裁を加えてきたが、ドルの代わりに人民元を使う国が増えれば、その効果が薄れることになりかねないのだ。

2019年11月20日 アメリカ ハーバード大学

先月(11月)にはハーバード大学で“北朝鮮がデジタル人民元を使って核燃料を購入しミサイル発射に成功した”という架空の設定で会議を行い、対応策を練る試みが行われたが、参加した元政府高官らは口々に懸念を示した。

オサリバン元国家安全保障省担当顧問

「デジタル人民元は米中間の戦略的な観点から捉える必要がある」(オサリバン元国家安全保障担当顧問)。

マサチューセッツ工科大学 ゲリー・ゲンスラー教授

マサチューセッツ工科大学のゲリー・ゲンスラー教授は、中国に遅れをとらないようアメリカや日本でも、「デジタル通貨」の導入を検討すべきだと指摘する。「デジタル人民元は21世紀の世界に、日米がどう関わるかという議論に拍車をかけている。このままだと遅れをとることになる」(マサチューセッツ工科大学 ゲリー・ゲンスラー教授)。

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