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特集

2019年12月3日(火)掲載

ミャンマーで進む“スー・チー与党離れ”

来年(2020年)総選挙を控えるミャンマー。4年前は、アウン・サン・スー・チー氏が率いるNLD=国民民主連盟が圧勝し、ミャンマーの人々は、軍の政治に対する影響力を減らすことや、民族間の融和が進むことに大きな期待をかけた。しかし今、高い理想を託されたスー・チー氏率いる与党は現実の高い壁に直面し、支持者離れが進んでいるという。ミャンマーで何が起きているのか。

“88世代”(民主化の同志)にも失望

スー・チー氏率いる与党への不満は、かつて民主化運動をともにした人たちの間でも出始めている。88世代と呼ばれ、現在50歳前後になる世代の人たちだ。1988年、当時学生だった88世代は、独裁政権を退陣に追い込むデモを主導し、建国の父アウン・サン将軍の娘であるスー・チー氏にも民主化運動への参加を促した。88世代は、ミャンマーの民主化をスー・チー氏とともに進めてきた“同志”なのだ。

コー・コー・ジー氏

今年(2019年)8月にミャンマー最大の都市・ヤンゴンで、軍事政権下で行われた民主化運動を記念して88世代が開いた式典で、演説を行ったコー・コー・ジー氏。かつて学生のリーダーだった人物だ。

スー・チー氏とは約30年にわたり歩みをともにし、前回の選挙では、各地を回ってNLDへの投票を呼びかけた。しかしNLDの政権奪取から4年経った今も、ミャンマーでは憲法で、議会の議席の4分の1が軍人に割り当てられたままで、依然、軍が大きな力を持っている。そのため、現政権のもとでは民主化の進展が期待出来ないとして、スー・チー氏率いる与党を離れた。式典に集まった支持者の前ではこう訴えた。「1988年の民主化運動が、全国民の闘いだったことを忘れないでほしい」。

実はコー・コー・ジー氏は去年(2018年)、新たな政党・人民党を立ち上げた。この政党には88世代から100人近いメンバーが加わっている。政党の支持者が口にするのは与党への失望だ。女性支持者は「与党は期待に応えてくれない。政府機関は、今でも下から上まで不正だらけだ」と不満を募らせている。人民党はそうした人々の不満の受け皿になることで、来年の選挙での議席獲得を目指している。「与党は、軍の影響を減らすにしても、民族間の和解を進めるにしても、もっとできることがあるはずだ」(コー・コー・ジー氏)

反発強める少数民族

さらにいま、与党NLDへの反発を強めているのが、少数民族だ。さまざまな少数民族が暮らすション州でも、NLDから離れる動きが高まっている。

ウィン・タル・カウン・ミャットさん

地元NGOの代表、ウィン・タル・カウン・ミャットさんは、地方分権が進まないことで地域の問題が軽視され、暮らしが一向に良くならないと感じてきた。ウィン・タル・カウン・ミャットさんの村では7年前から工場の排水による農作物の被害や悪臭に悩まされ続けているが、解決のめどがたっていない。以前は、与党の党員として少数民族の自治権拡大などに取り組み、前回の選挙でもNLDの運動を支えた。しかし、軍に正面から対じせず、地方分権を進めようとしない現政権のもとでは自治権の拡大は進まないと考え党を離れたという。来年の選挙ではNLDではなく、地元の少数民族政党に投票することも考えている。「政府は、自分たちに賛成する人ばかり厚遇し、異を唱える人を悪者扱いしている。そんなことより政府のやるべきことはたくさんある」(ウィン・タル・カウン・ミャットさん)

こうした中、少数民族政党も動き始めている。シャン民族民主連盟は、NLDがシャン州内に持つ議席を奪おうと、若い党員や支持者を集め、候補者の発掘を進めている。

さらに、各地の少数民族政党と共闘する動きも進んでいる。先週ヤンゴンでは、13の少数民族政党が集まって会議を開き、NLDをはじめとする大政党に対抗する戦略を練った。シャン民族民主連盟のサン・ニュン・ルウィン副党首は、「与党が政権維持に必要な議席を獲得できなければ、少数民族政党が議会で決定権を握るチャンスも出てくる」と自信を見せた。

支持者のつなぎとめをはかる政権だが…

一方、政権の支持離れを食い止めたいスー・チー氏は、自ら国内各地を回っている。少数民族の不満が広がるシャン州も訪れ、市民の声に直接耳を傾け、演説ではこう訴えた。「みなさんに寄り添うために集会を開き質問も受け付ける」。支持者のつなぎとめを必死になって進めるスー・チー氏。なぜ期待されたほどの変化をミャンマーにもたらすことが出来ないのか。それは、政権を率いているとはいえ、権限に制約があるからだ。軍に強い権限を与えている憲法は、改正にも軍の同意がなければできない仕組みになっている。少数民族の武装勢力との停戦や和平を進める上でも、治安の実権は軍が握っている。スー・チー氏とNLDは過去、選挙で圧勝したにも関わらず、軍の力でねじ伏せられた苦い経験もある。このため、スー・チー氏は軍との決定的な対立は避けながら、じわじわと切り崩し、完全な民主化を成し遂げるという現実的な歩みを進めているのではないかと言われている。しかしこれには長い時間がかかる。地元の政治評論家ヤン・ミョー・テイン氏は、民主化勢力の分裂や対立が今後激しくなりすぎると「軍は影響力を維持し民主化の進展はさらに難しくなる」と警告している。スー・チー氏は求心力を保ち続けることは出来るのか。来年の選挙に向けて、各勢力の動向が注目される。

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