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特集

2019年11月20日(水)掲載

助産師が見た地中海難民・移民の現状~国境なき医師団・小島毬奈さん~

中東やアフリカから欧州を目指し、粗末なゴムボートで地中海を渡る難民・移民たち。その海域の横断は、非常に危険なため、転覆事故などで命を落とす人が後を絶たない。死亡者の数は、ヨーロッパに難民・移民が殺到した2015年をピークに減少傾向にあるが、2019年1月~10月までで、少なくとも1000人以上が死亡するなど、問題はいまも解決していない。



特に渡航者が集中しているのが北アフリカのリビアからイタリアやマルタをめざすルートで、最も多くの犠牲者が出ている。こうした難民・移民を助けようと、国際NGOなどが救助船を出してレスキュー活動にあたっている。2019年夏、国境なき医師団の助産師、小島毬奈(こじま・まりな)さんが、救助活動に参加した。話を聞くと、ヨーロッパをめざす難民・移民たちが、母国だけでなく、経由地のリビアでも過酷な状況に置かれていたことが明らかになってきた。

救助活動に参加した唯一の日本人 小島毬奈さん

2016年から地中海で救助活動を続ける国際NGO「国境なき医師団」。その救助船に今年(2019年)8月から2か月間、唯一の日本人として乗船したのが、「国境なき医師団」の助産師・小島毬奈(こじま・まりな)さんだ。
救助される難民・移民の中には、妊婦や乳幼児もいるため、医師だけでなく助産師も必要とされる。船上では、救助された妊婦や乳幼児のケアはもちろん、女性や子供の健康管理全般を担当した。

小島毬奈さん
「もうほんとに大きいおなかで臨月に近い状態で海を渡ってくる人もいますし、最年少は生後4日の赤ちゃんでした。まだへその緒も乾いていない新生児を連れて海を渡る勇気というか無謀さというか、それぐらい、未来に懸けて海を渡ってくるのかもしれません」

2017年1月 難民船の救助活動

もともと都内の大きな病院の助産師・看護師だった小島さんは、本当に支援を必要としている現場で働きたいと2014年、「国境なき医師団」に登録。そして、2016年に初めて地中海での救助活動に参加した。その際、多くの難民や移民が危険な渡航で命を落とす現実を目の当たりにし、活動継続を決意。今回、2度目の参加となった。

小島毬奈さん
「目の前で命が失われていく現実に立ち会い、なぜ世界はこんなにも不平等なのかと思いました。たまたま生まれた国が違うだけ。私もあのボートの1人だったかと思うと、ひと事とは思えませんでした。もう一度救助船に乗りたいと強く思いました」



無謀な渡航の背景に何が?

2019年8月 救助を待つ難民たち

難民や移民の国籍はカメルーンやスーダン、ナイジェリアなどさまざま。いずれも内戦や貧困などから、安全を求めて、比較的国境の警備が緩いとされるリビアを経由してヨーロッパを目指す。

彼らはなぜ命がけで海を渡ろうとするのか。

リビアの収容所

小島さんによると、リビアでは、政治的混乱で社会秩序が崩壊。入国してきた多くの難民や移民は、不法入国などとして、当局に拘束され、劣悪な環境の収容所に長期間監禁されているという。収容所では男性は強制労働や拷問。女性は当局などによる性的暴行を受けるなど、深刻な人道被害に遭っていると言う。彼らは、“地獄”から抜け出すために、無謀な渡航を試みていたのだ。

難民・移民が描いた絵

小島さんたちは、救助した難民・移民たちに、船上で絵を描いてもらっていた。悩みや苦しみを外に吐き出すことで、気持ちを癒してもらう心理ケアの一環だ。その絵からは、難民・移民たちが、どれほど過酷な状況に置かれていたかが伝わってくる。



難民や移民の証言記録

性暴力被害者の証言記録

小島さんは、助産師として、性暴力の被害にあった女性たちへのカウンセリングも担った。彼女たちが語った証言の記録には、その被害の実態がつづられている。

証言記録「救助船で出会った性被害者の人たち」
カメルーン出身 カマジュ(仮名)
「収容所の中で、たくさん女性がいる中で、私ともう一人の女性が警察官に呼ばれ違う部屋に通された。その警官に服を脱ぐように言われた。私が服を脱ぎ終わると、寝ろと言われてその場に仰向けで寝ると、他にも4人の警官が入ってきて次々に私をレイプしていった。早く終われと祈るしかなかった」

ソマリア出身 スワレ(仮名)
「両親は子供の頃に殺されて、8歳から孤児だった。リビアに行けば仕事があると言われて、リビアに来た。着いたら男女に別れて収容所に入れられた。何日か経って、私は一人で小さい部屋に入れられて、毎日のように警察が来て、私をレイプしていった・・・毎日毎日・・・・」

国境なき医師団の助産師 小島毬奈さん

小島毬奈さん
「性暴力に遭った女性たちにはまず、性感染症予防の抗生物質などを投与し、妊娠していないかも検査します。希望があれば中絶も行います。性暴力に遭った女性たちは、自分を責めてしまいがちなので、『これはあなたのせいじゃない』と必ず伝えるようにしています。あとはなるべくそばに寄り添っていっしょに過ごすように心がけています」



逆風が吹く中で~難航した救助活動~

厳しい難民移民政策を掲げるイタリア右派政党「同盟」サルビーニ党首

小島さんにとって待望の2度目の救助活動だったが、実は今回、救助船を取り巻く環境は、厳しさを増していた。ヨーロッパの国々で、難民受け入れに否定的なムードが強まる中、“NGOが救助することがかえって難民・移民の渡航を誘発している”との批判の声もあがっている。こうした中、NGOの救助船が、イタリアやマルタの港で、入港を拒否される事態が相次いでいるのだ。

そして、小島さんたちの船も、8月上旬、355人を救助したのち、イタリアとマルタに入港を拒否され、行き場を失う事態に陥った。

2019年8月 国境なき医師団の救助船で待機する難民たち

小島毬奈さん
「船の定員は200人。船室にスペースが確保できず、多くの人が外のデッキで寝なければなりませんでした。食品倉庫もみるみるうちに空っぽになっていって、水も不足してきて、シャワーを4日に1回に節約しなければなりませんでした」

フランスなどの受け入れが決まり喜ぶ難民たち

受け入れが決まったのは、救助から14日後。フランスなど6か国が分担して受け入れることで合意し、マルタに上陸することが許可されたのだ。このとき、食料は、あと5日分しか残っていなかったという。

国境なき医師団の助産師 小島毬奈さん

小島毬奈さん
「私たちの活動に対して、ヨーロッパの国々からは、批判もあります。でも、人の命と政治というのはてんびんにかけられるものではないと思います。いまそこに、救助を必要としている人たちがいる。命の危険にさらされている人たちがいる、そうした人たちを救助することは、基本的に大切なことだと思います。日本のみなさんにも、まずこの問題を知ってもらって、自分に何ができるかを1人1人が考えてみてほしいと思います」

「いつか救助船が出動しなくて済む日が来ればいい」、それが小島さんの願いだ。それでも、この問題が解決する日までは、活動を続けていきたいと、小島さんは考えている。

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