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特集

2019年11月14日(木)掲載

「ベルリンの壁」崩壊30年 東欧諸国はいま

1989年11月9日に起きた「ベルリンの壁」崩壊から30年が経った。当時、東西冷戦の象徴だった壁を、自由や統合を求めた東側陣営の人たちが破壊し、そのうねりは東ヨーロッパ各国での共産党政権の崩壊につながっていった。その一つがルーマニアだ。ルーマニアでは、「ベルリンの壁」崩壊をきっかけに、独裁的なチャウシェスク政権の打倒を目指す激しい抗議運動が発生。壁崩壊の翌月、チャウシェスク大統領夫妻は処刑され、独裁に終止符が打たれたのだ。そしてその後、ルーマニアは、他の東欧諸国と同じように、EU=ヨーロッパ連合に加盟。これで、自由と経済的な繁栄がもたらされる。国民はみな、そう信じていた…。ところが、いま新たな問題に直面している。「ベルリンの壁」崩壊は、ルーマニアや東欧諸国に何をもたらしたのか。

“EU最貧国”ルーマニア 高まる不満

ルーマニアは、「ベルリンの壁」崩壊後も汚職がまん延し、大規模な抗議デモが繰り返し起きている。EU加盟後も西側諸国との経済格差は埋まらず、国民1人あたりのGDPはEU平均の約3分の1。EUの最貧国の1つと言われている。

こうした状況にもかかわらず、首都・ブカレストでは、ルーマニア政府が巨額な資金を投じて、高さ120メートルもの巨大な教会の建設を進めていた。国内で強い影響力を持つルーマニア正教会とのつながりを重視し、政治家たちが力を高める狙いもあるとみられる。しかし、町ゆく人にカメラを向けると、教会の建設に税金を投入するより、医療や教育など、暮らしに必要なところに予算を回して欲しいという不満の声が聞こえてきた。「教会の建設なんて無駄金よ。ルーマニアにとって何の意味もない」(女性市民)。



国を揺るがす人口流出

いま、ルーマニアで最も深刻なのが、人口の流出だ。30年前、約2300万人だった人口は現在1900万人台にまで減少した。EU域内での移動の自由が、皮肉にも、賃金が高く、社会制度などが充実している西側諸国への人材の流出を後押しする形となっているのだ。特に国外に出て行く人の3分の2が、30歳以下の若者だと見られている。

アリン・クリステアさん

ブカレスト市内に住むアリン・クリステアさん(31)。現在、運送会社で働いている。しかし、給料が2倍近いオーストリア、ウィーンでの働き口を求めて、面接を重ねている。汚職やコネ採用がまん延する、ルーマニア国内では実力に見合ったまともな職につけないと感じていることも国外での就職を希望する理由の一つだ。「ほかの国に行くたびに人々は幸せそうに見える。でもルーマニアに戻ると憂うつになるしストレスに悩まされる。普通の生活を過ごすためには 国外に移るしかない」(アリン・クリステアさん)。



深刻な影響を受ける農村部

人口流出で影響を受けているのが農村部だ。ブカレストから約400キロ北にあるボティザ村。かつて盛んだった石炭産業や林業が衰退。地元に仕事がなく、働き盛りの若者の多くは西側諸国に出稼ぎに行った。そのため、村で目にするのは、老人と子供たちの姿ばかりだ。

マリア・ペトレウッシュさん

マリア・ペトレウッシュさん(50)。夫はイタリアに、子どもたち夫婦もイギリスやドイツなどに出稼ぎに行っている。日課は、子どもたち夫婦に代わって孫の面倒を見ることだ。生活費の多くを出稼ぎに頼らざるを得ないが、国を支えるはずの若者が次々と国を離れてしまう現状に不安を募らせている。「ここでは仕事もなく、若者たちが何もできない。EUに加盟したとき、もっと生活が良くなると思った。でも、そんな希望はもうない。チャウシェスク政権も良くはなかったが今よりマシだった」(マリア・ペトレウッシュさん)。



医療現場が悲鳴 “深刻な医師不足”

いまルーマニアで特に深刻なのが、専門知識や技術を持った人材の流出だ。中でも医師が不足し、問題になっている。西側諸国では10倍以上の収入を得られるケースもあり、若い医師たちがルーマニアを離れる大きな要因となっているのだ。

フローリン・キルクレスクさん

ブカレストの病院に勤める医師のフローリン・キルクレスクさん。かつて率いた手術チームの医師の半分が、イギリスやドイツなどに去ってしまったという。そのため、医療の質を保つことが出来なくなることへの危機感を募らせている。「ルーマニアの病院では、必要な医師の半分しかいない状況。一体、誰がルーマニア国民の治療を行えばいいのか。西側諸国は、ルーマニアが育ててきた医師を次々と奪い取っていった」(フローリン・キルクレスクさん)。



東西ヨーロッパ 今も残る「見えない壁」

人口流出は、ルーマニアに限った問題ではない。東側諸国の多くが人口減少に直面し、東西格差は一目瞭然。「ベルリンの壁」崩壊から30年が経っても、東西ヨーロッパの間には今も「見えない壁」が残っているのだ。EUも、域内格差を是正するために、東側諸国を中心に分担金を重点的に配分し、経済支援を行ってきた。またルーマニアでも、11月に発足した暫定政権は、汚職対策を重視する姿勢を強調し社会を変えようと乗り出している。30年前に思い描いた夢が叶わず、ハンガリーなど東側諸国で「反EU」の動きが高まる中、今後ヨーロッパはどこへ向かうのか。世界が注視している。



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