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特集

2019年11月7日(木)掲載

南米アマゾン森林火災 苦悩する先住民族

大規模な森林火災が問題になっている南米アマゾン。ブラジル政府は、この100年間で、アマゾンの森林の15%が失われたとしている。このまま減少を食い止められなければ、将来、森林の回復が困難となり、地球温暖化が進むことが懸念されている。しかし、火災の影響は、こうした地球規模の問題だけではない。アマゾンには、ブラジルだけで43万人の先住民が暮らしているとみられるが、火災の影響で、今日、明日の生活基盤が大きく揺らいでいるのである。

下郷さとみさん

毎年アマゾンの先住民の村を訪れているフリージャーナリストの下郷さとみさんが解説する。



森林火災に立ち向かう先住民族

Q.下郷さんは、ご自身が参加するNPO法人「熱帯森林保護団体」の活動で、9月までアマゾンに滞在していました。現地はどのような状況でしたでしょうか。

訪れた場所は、アマゾン南部シングー川の流域にある「先住民族保護区」です。「先住民族保護区」とは、政府が憲法に基づいて先住民族の土地への権利を保障している場所のことで、そこでは先住民族の伝統的な生活が守られています。先住民族以外は、政府の特別な許可がないと入れません。空から見ると、森が所どころひらかれて先住民族の村が点在していることが分かります。しかし、こうした保護区でも、近年、森林火災は深刻な問題になっています。乾季に先住民保護区では、これまでも各地で火災は起きてはいたのですが、近年はそれが大規模化するようになっています。広範囲に消失してしまえば森林再生も難しくなります。

Q.先住民族の暮らしにはどのような影響が出ているのでしょうか?

キャッサバ芋

先住民族が暮らす村では、いま、主食であるキャッサバ芋の栽培に欠かせない「焼き畑農業」が今までと同じようには続けられなくなっています。

焼き畑農業

「焼き畑農業」は、数百年、数千年営まれてきた非常に伝統的な農業です。サッカー場半分ぐらいの広さの森を伐採して、そこに火を入れます。焼き払うことで畑の空間を作り出し、灰を肥料に使って作物を栽培するという仕組みです。3、4年もすれば地面から木々が芽吹き始めて森が再生されていくので、また畑の場所を移動しながら作っていくという、持続可能な技術でした。

しかし近年、焼畑の火が森の中まで延焼するようになり、森林火災が頻発するようになっています。その対策として、5年前に先住民族の若者たちが消防団を結成しました。周辺の村から30人ほどが集まって、消防活動に取り組んでいます。



“伝統的な焼き畑ができない” なぜ火災は拡大したのか

Q.なぜ、近年は火が消えずに燃え広がってしまうのでしょうか。

保護区周辺の乾燥化が非常に進んでいるためです。そのため焼畑の火が森の中にまで延焼してしまうという事態が起きています。以前は森の落ち葉は乾季の終盤でも湿っていたので自然に鎮火していました。

Q.ではその乾燥化は、先住民族の住んでいる地域の外で起きている変化ということでしょうか?

そうなんです。たとえば、このシングー川流域の保護区の周囲では、大規模な農地開発が進んでいます。農家一軒が数百ヘクタールから数千ヘクタール規模の農地を所有していて、地平線まで木が一本もないような光景が広がっています。半年間続く乾季ではもうカラカラの砂漠のような状況が広がっています。

これは先住民族保護区の森の中を切り裂くように通っている道です。

穀物を運ぶためのトラックが行き交うことができるよう敷かれたものです。道路の整備に伴って大規模農業開発はさらに進み、乾燥化もまた進行していきます。森を貫く道路が乾燥した熱風の通り道にもなります。シングー川流域だけでも、新たな道路の建設計画がまだいくつも進められています。先住民族に聞くと、昔は、雨が降らない乾季でも森の中はしっとりと湿っていたそうです。私が、9月に訪れた際は、昼間の気温が40数度、湿度が10%程度と、まるで砂漠のような状態でした。



ボルソナロ大統領の政策の影響か

Q.これはアマゾンの森林消失面積の推移をグラフにしたものですが、この10年くらいはブラジル政府の取り組みもあって抑えられていた時期が続いていたんですね。

ここ十数年以上、ブラジル政府は、森林伐採を抑制するという政策をとってきました。しかし、今年、ボルソナロ大統領が就任してからは、9月までの間に、すでに前の年を上回るほど森林の消失が進んでいます。今後さらに拡大すると見られています。

ボルソナロ大統領

Q.ボルソナロ政権の影響は大きいでしょうか?

アマゾンの森は、非常に平たい土地のため、大規模な農業をするには非常に適した土地です。そのため、ボルソナロ政権は、環境省の森林保護組織の予算を削減し、違法な森林伐採の罰則を緩和するなど大規模な農業開発を推し進めているのです。



先住民族 “アマゾンの森を守る”

Q.先住民族は、ボルソナロ政権をどう捉えているのでしょうか。

特にアマゾンの南部というのは、先住民族保護区の森だけがかろうじて残されて、それ以外はほぼ開発し尽くされているという状況です。だからこそ、先住民族は自分たちの存在がアマゾンの森を守る最後の砦なんだと言っています。自分たちの生活の基盤である森、それを自分たち自身の手で守るんだという強い意志を持っています。そして、それだけでなく、彼らはアマゾンの森というのは地球全体の宝だとも考えています。消防団の若者たちは、そのプライドを胸に消防活動に取り組んでいると話していました。



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