BS1 ワールドウオッチング - WORLD WATCHING -

特集

2019年10月30日(水)掲載

ハリウッドを支える発達障害の人たち

生まれつきの脳機能の障害により、発達に偏りが生まれ、社会生活に困難が生じる「発達障害」。本人はもちろん、保護者にとっても心配なことの1つが生活の自立だ。就職が難しかったり、就職しても長続きしなかったりすることが多く、大きな課題となっている。
しかし、アメリカではいま、発達障害の人たちを「貴重な戦力」として生かす取り組みが始まっている。

優れた能力を映画作りに発揮

アメリカ・ハリウッドにある、映画やテレビの映像に加工・修正を行うスタジオ。ここで働く技術者たちはみな、発達障害の1つで、コミュニケーションが苦手などの特性がある「自閉スペクトラム症」の人たちだ。
自閉スペクトラム症の人たちが働くこのスタジオは、設立から5年。これまでに、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』など約200本の映画製作に携わってきた。今年、興行収入が世界歴代1位(2019年10月現在)となった映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』も、このスタジオで映像加工を担当した。見せてくれたのは、画面に映りこんだ撮影用装置を消し、その際に消えた周りの景色を描き直す、かなり細かい作業。この修正作業だけでも、最低2週間はかかるという。

根気のいる作業だが、自閉スペクトラム症の人たちの中には、「細かい仕事が得意」、「高い集中力を維持できる」などの強みを持つ人たちも多く、その特性が、作業に生かせるのだという。「時には、休憩もせず、食べも眠りもせず、集中してしまうこともある」(自閉スペクトラム症のスタッフ)。

設立当時の写真

こうした、自閉スペクトラム症の人たちと、映像加工の仕事の親和性に気が付いたのは親たちだった。長年、ハリウッド業界で働いてきた自閉スペクトラム症の子どもを持つ親たちが、映像加工の技術を学べる職業訓練学校を立ち上げ、その後スタジオの創設につなげたのだ。
さらに、昨今の映画業界の動きも、自閉スペクトラム症の人たちにとって追い風となっているという。最近の映画の中では、CGや実写を合成して、現実にない映像を作り出す「VFX=視覚効果」の技術が駆使されている。映画業界では、より高精細で、よりリアルな映像が求められるため、映像加工の需要は増え続けているという。スタジオの代表は、「映画の世界では、テクノロジーがますます重要になっている。結果、自閉スペクトラム症の人の活躍の場も増えている」と語った。



会社は才能を生かす環境づくりが必要

自閉スペクトラム症の人たちが働くには、彼らが能力を発揮できるように会社側が環境を整えることが大切だ。取材したのは、ハリウッドのほか、ニューヨークにもスタジオを持つなど業績を伸ばしているVFX(視覚効果)の会社だ。

ニッキー・ベンワーさん

4年前からこの会社で働く自閉スペクトラム症のニッキー・ベンワーさん(30)。採用されたきっかけは、インターンとしてこの会社に通っている時。通常は1日かかると思われる作業を、ニッキーさんは半日で仕上げるなど、そのスキルに社長が目をとめたことだった。しかし、ニッキーさんは、働き始めた当初、慣れない環境に戸惑ったという。

ニッキー・ベンワーさん
「最初はとてもナーバスになりました」

ニッキーさんが一番悩んだのが上司への報告だ。作業が終了しても、上司に声をかけるタイミングがわからず、上司から声をかけられるまで、ただ携帯をいじり続けていたという。そこで、スタジオでは、進捗状況を共有するためのソフトウェアを導入することにした。ニッキーさんが言葉を使わなくても、コミュニケーションがとれるように工夫したのだ。

さらに、「ルーチンを守ることにこだわりを持つ」という自閉スペクトラム症の特性を尊重し、ランチの時間にも配慮した。他の人は作業状況によって昼食をとるが、ニッキーさんの昼食は、毎日12時からと決めている。会社の社長は「ニッキーさんは、居心地よさそうにしており、すでに我々のチームの一員。彼の成長を見てきたが、本当にすばらしい」と語った。



自分の居場所を見つける

会社で活躍し、社会の中で居場所を見つけたニッキーさん。今は、親元を離れ自立した生活を送っている。

母親のウエンディーさんは、ニッキーさんが幼いとき、なかなか言葉を話さなかったことを心配していたという。そのニッキーさんが自閉スペクトラム症と診断されたのは2歳のとき。意思の疎通がうまくとれず、かんしゃくを起こすこともあったという。当時のことを思うと、息子の自立した生活など想像できなかったと話した。「子どもが経済的にも精神的にも自立すること、それが親の一番の望みです。彼を誇りに思います」(ニッキーさんの母親)。

ニッキー・ベンワーさん
「重要な業務を任されて、会社に貢献できて、良い仕事ができています。僕が刺激になって、他の自閉スペクトラム症の人たちが社会の中で成功できたらうれしいです」

早稲田大学 梅永雄二教授

発達障害がある人の就労に詳しい早稲田大学の梅永雄二教授によれば、「IT業界では自閉スペクトラム症のある人たちの活躍の場は、どんどん広がっている。さらに、芸術、音楽、数学の分野などでも、1つのことに対する集中力の高さが、仕事の強みとして発揮されている」。アメリカだけでなく、世界的にも自閉スペクトラム症の人たちの能力を生かす動きは増えている。デンマークには、自閉スペクトラム症の人たちに特化した会社があり、プログラミングのバグを探す仕事を担当してきた。この会社は、職業トレーニングや、就職支援も行っており、大手IT企業に人材を送り込んでいる。面接が苦手な自閉スペクトラム症の能力を把握するために、レゴブロックを使ってロボットを作る様子を観察したり、さまざまな「実習」を通して、特性を見極めている。そのような工夫を重ねることで、関連した事業も含め、世界で1万人の雇用を生み出してきた。

就職支援会社 創業者トーキル・ソンネさん

創業者のトーキル・ソンネさんは、「企業は才能を持っている人を採用し、才能を発揮できるように環境を整えるべき。採用の方法を変えないと、企業にとって損になる」と話す。

梅永教授によれば、「企業が発達障害のある人が働きやすい環境づくりをするための留意点は3つある」。
① その人に合った仕事をしてもらう「適切なジョブマッチング」。
② 周囲の人が特性を理解し、仕事がしやすい環境整備などをする「合理的な配慮」。
③ 「フォローアップ」。環境が変わることに不安を感じる人が多いため、人事異動や配置換えなどの際などに、配慮をするなどといったことが必要になる。

梅永教授は、「世界中で多様性が認められて、すべての人たちが働きやすい社会になればと思う」と話した。

ページの先頭へ