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特集

2019年10月18日(金)掲載

中東に広がる「ドローン操縦戦闘員」

先月14日、サウジアラビアの世界最大級の石油施設が攻撃された。攻撃に用いられたのが軍事用ドローンだったことから世界にはいっそう大きな衝撃が走った。サウジアラビア側は、ドローンはイラン製だったと主張しているが、イラン側は関与を全面否定している。
近年、イランは、低コストで製造できる軍事用ドローンの開発に力を入れてきた。その開発技術をパレスチナやレバノンの武装組織、そしてイエメンの反政府勢力など中東各地の支援勢力に提供し、敵対するイスラエルなどをけん制している。今回NHKの独自取材でイランがドローンの製造だけでなく、「ドローンを操縦する戦闘員」を養成し、中東各地に派遣している実態が明らかになった。戦闘員として育成されたレバノン人の若者2人の足跡を追った。

「ジハード」で殉教した若者たちの足跡

2019年8月26日ベイルート ヒズボラ戦闘員の葬儀

今年8月、イスラム教シーア派組織・ヒズボラが、レバノンの首都ベイルートで大々的な葬儀を行った。隣国シリアで、ジハード=聖戦のために殉教した2人のヒズボラの戦闘員を弔うためだ。

亡くなったのは、ハサン・ズベイブ(23)と、ヤセル・ダヒル(23)。2人が生まれ育ったのはベイルート市内の、ヒズボラの支配地域だ。

ハサンは、5歳からヒズボラの幹部候補を養成するマハディ学校に通っていた。その学校で知り合い、親友となったのが、もう1人の若者ヤセルだった。

レバノン紙「アハバール」フセイン・アミン記者

秘密主義の徹底されたヒズボラ側の取材で貴重な情報をもたらしてくれたのが、レバノンの地元紙「アハバール」のフセイン・アミン記者だ。

レバノン紙「アハバール」ヤセルとハサンの記事

アミン記者によると、2人は優秀な成績で高校を卒業。ヒズボラの勧めで、イランの大学に留学することになった。「ヒズボラは優秀な若者に、高度な教育を受けさせるため、奨学金を与えてイランに留学させている」(レバノン紙「アハバール」フセイン・アミン記者)。

ヒズボラは、シーア派の地域大国イランと密接な関係にある。そのため、ヒズボラの若者がイランに留学することは珍しくない。ハサン自身も、留学中にイラン中部にあるシーア派の聖地コムを訪れ、宗教上の教えを学んでいる。だがヒズボラの内情に詳しいアミン記者は、ハサンたちのイラン留学には勉強や信仰上の理由とは別に特別な目的があったと指摘する。

レバノン紙「アハバール」フセイン・アミン記者

「彼らはイランに、ただ勉強に行ったわけではない。本当の理由は、イランで高度な航空工学を学んで、ヒズボラの武装闘争に貢献するためだ」(レバノン紙「アハバール」フセイン・アミン記者)。

イスラエルに対し、イランと共闘するヒズボラ。イランから、年間1,000億円以上の資金提供を受けていると指摘されている。

ヒズボラの博物館に展示されるドローン

支援の中には、軍事用ドローンの開発も含まれている。シリア内戦にはヒズボラも関与。専門のドローン部隊を発足させ、実戦でその能力を高めてきた。



「ドローンを操縦する戦闘員」の養成所

ハサンたちが5年前にイランに渡航し、学んだのはテヘラン郊外にある「イマーム ホセイン大学」だったことが分かっている。この大学は、イランの精鋭部隊の技術者を育てる「養成所」として機能しているとみられる。周辺には「軍事エリアにつき撮影禁止」という看板がいくつも掲げられていたほか、銃をかまえた兵士も見張り台から監視していて、建物の外観をカメラで撮影することさえも認められなかった。大学では、ドローンをはじめとした、軍事装備品の研究開発に力を入れていて、重要な役割を果たしているとみられている。

イマーム ホセイン大学を紹介する動画には軍服姿で卒業式に臨む学生たちの姿が映っていた。

イラン最高指導者 ハメネイ師

さらに、最高指導者ハメネイ師が挨拶の言葉を述べるシーンも。「この非常に敏感で、重要な施設での式典に参加できることを神に感謝する」。

ハメネイ師と革命防衛隊の幹部たち

そのハメネイ師とともに壇上に並ぶのは、ハメネイ師の親衛隊として活動する「革命防衛隊」の幹部たちだ。ハサンたちの留学先が、革命防衛隊直轄の軍事アカデミーだったことが伺える。

革命防衛隊の元司令官 キャナニモガダム氏

イマーム ホセイン大学の設立に携わったイラン革命防衛隊の元司令官、キャナニモガダム氏が取材に応じた。施設の目的は、最新の軍事技術の向上だとし、ドローンの開発にも力を入れていると明かした。「イマーム ホセイン大学では、ドローンの研究・開発が行われている。そこでの研究などが実際の戦闘で使われる科学技術の基礎となっている」。



“ドローン攻撃”で高まる中東の軍事的緊張

イマーム ホセイン大学に留学したハサンとヤセルを、敵国イスラエルはマークしていた。2人が、イランの革命防衛隊が駐留するシリアとイランとの間を行き来し、イスラエルを攻撃する“ドローン戦闘員”として活動しているとみていたからだ。

赤い●印にドローン

今年8月下旬、イスラエルは、シリア国内で2人の行動を追っていた。複数の人が運ぶ、ドローンのような物体。ハサンたちが操縦に関わっていたとされる。
そして“重大な局面”が訪れた。当時の様子をイスラエル軍の報道官、ヨナタン・コンリクス中佐が説明する。

イスラエル軍の報道官 ヨナタン・コンリクス中佐

「2人は、まず木曜の夜にイスラエルに爆発物を積んだドローンを飛ばそうと試みていた。われわれイスラエル軍は特殊な技術を使ってその“飛行そのもの”を妨害し攻撃を防いだ。しかし、土曜に彼らが、再びドローンを飛ばそうと試みたため、これを阻止するために空爆に踏み切った」。

イスラエルの空爆により、ハサンとヤセルは死亡。イスラエルは、イランのドローン攻撃を防ぐためだったと自衛の権利を主張する。

イランが、新たな兵器として中東各地の支援勢力に提供する軍事用ドローン。イスラエルやアメリカは、イランに対し、通常兵器の軍事力では圧倒的な優位を立ってきたが、ドローンの台頭は軍事バランスを崩しかねないとの懸念が出ている。低価格のものだと日本円でわずか2万円あまりで製造できるという軍事用ドローンは、貧者の兵器そのものだからだ。中東情勢は、イランが「ミサイル開発」や「ホルムズ海峡封鎖」に加えて「軍事用ドローン」という、アメリカ側を揺さぶる新たな切り札を手にしたことで、一段と緊張が高まっている。

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