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特集

2019年10月8日(火)掲載

カショギ氏殺害から1年 “事件を風化させない”

サウジアラビア政府を批判していたジャーナリストのジャマル・カショギ氏が殺害されてから1年。アメリカの民間団体が先月(9月)、報道の自由がない「検閲国家」10か国のランキングを発表した。サウジアラビアは、北朝鮮などに次いでワースト4位とされ、報道をめぐる環境は、「世界最悪レベル」であると指摘されている。カショギ氏殺害の真相究明がいっこうに進まない中、事件を風化させまいと声をあげ続けている人がいる。 

「“沈黙しない”とき」言論の自由への思い

2019年10月2日トルコ イスタンブール カショギ氏の追悼式典

10月2日、トルコのイスタンブールでは、ジャマル・カショギ氏が殺害されたサウジアラビア総領事館の前で追悼式典が行われた。追悼式典は、カショギ氏が果たせなかった言論の自由への思いを込めて、「“沈黙しない”とき」と名付けられた。

ハティジェ・ジェンギズさん

この場所で悲痛な声をあげる1人の女性がいた。カショギ氏の婚約者だったハティジェ・ジェンギズさんだ。

「去年(2018年)のきょう、私はここに立っていました。そして、愛する人が出てくるのを、待ち続けていました」

追悼ビデオに映るジャマル・カショギ氏

2018年10月2日、カショギ氏は、結婚の手続きのためにイスタンブールにあるサウジアラビア総領事館を訪れた。これから始まる結婚生活に思いを巡らせながら、外で待っていたハティジェさんの前に、カショギ氏は二度と現れなかった。総領事館内で殺害されていたのだ。

2019年10月2日カショギ氏慰霊碑の除幕式

そして、あの日から1年後の2019年10月2日、式典で公開されたカショギ氏の慰霊碑。慰霊碑には生まれた日と死亡した日が刻まれているが、カショギ氏の遺体は、まだ見つかっていない。

2019年7月9日ロンドン シンポジウム会場

“カショギ氏の死を無駄にしたくない”との思いを胸にハティジェさんは、これまで世界各地をまわって訴えてきた。

シンポジウムで演説するハティジェ・ジェンギズさん

「これまでカショギ殺害事件の真相究明に向けた成果は得られていません。カショギのようなジャーナリストの正義を守るため、尽力する必要があります」

しかし、1年前と比べ、世間の関心は低下。このままでは真相が闇に葬られるのではと危機感をあらわにした。

「もし世界が、こんなに簡単に事件に蓋をすることができるのならば、国際政治や司法の意味はありません。この事件をこのまま風化させてはならないのです」(カショギ氏の婚約者ハティジェ・ジェンギズさん)



ムハンマド皇太子 外交舞台に本格復帰へ

サウジアラビア ムハンマド皇太子

一方のサウジアラビアでは、事件は過去のものになってきているようだ。事件への関与を取りざたされてきた、国政の実権を握るムハンマド皇太子は、責任の一端は認めたものの、殺害の指示はしていないと関与を否定。サウジアラビアの検察は、当局者ら11人を起訴して裁判が続いているが、その内容は明らかになっていない。

2019年6月28日大阪 G20のムハンマド皇太子

ムハンマド皇太子はことし(2019年)6月に大阪で行われたG20にも出席。事件への関与をめぐる批判をよそに外交舞台に本格的に復帰しつつある。

G20フォトセッション 左:トランプ大統領 右:ムハンマド皇太子

それを後押ししている要因の1つが、アメリカのトランプ政権の姿勢だといわれている。事件直後から、トランプ大統領は、経済や安全保障面で関係の深いサウジアラビアを擁護する発言を繰り返してきた。

2018年10月22日ホワイトハウス トランプ大統領

「サウジアラビアの米国内への巨額投資を失うわけにはいかない」(アメリカ トランプ大統領)



深刻化するサウジラビアでの言論弾圧

こうした中、サウジアラビアは、ムハンマド皇太子のもとで、言論弾圧がいっそう深刻化していると指摘する民間団体がある。

アメリカ ニューヨーク ジャーナリスト保護委員会

ニューヨークに本部があるジャーナリスト保護委員会だ。ジャーナリスト保護委員会は世界各地での言論弾圧に関する情報を集めている。保護委員会の副委員長は、サウジアラビアで取材する記者の状況を懸念し、こう訴える。

ジャーナリスト保護委員会 マホニー副委員長

「サウジアラビアの記者達のおかれている状況は、事件の後、さらに悪くなっています」(ジャーナリスト保護委員会のロバート・マホニー副委員長)ジャーナリスト保護委員会によると、サウジアラビアでは、テロとサイバー犯罪を取り締まる法律などが、当局にとって好ましくない記者やブロガーの拘束を容易にしているという。ことしに入って、少なくとも9人のジャーナリストが新たに拘束された。

アブドルラフマン・ファルハナ記者

その1人、アブドルラフマン・ファルハナさん。関係者によると、ことし2月、サウジアラビア国内を移動中に突然、当局者の車に囲まれ、拘束された。拘束の理由はわかっていないが、サウジアラビアと対立するカタールのテレビ局に記事を書いていたことなどが関係しているとみられている。「政府が書かせたくないと決めれば、彼らは『消える』のです」(ジャーナリスト保護委員会のロバート・マホニー副委員長)

2016年8月NHK取材時のカショギ氏

カショギ氏の死から1年。事件の真相究明がいっこうに進まないばかりか、サウジアラビアでは、いまも厳しい言論弾圧が続いている。婚約者のハティジェさんがカショギ氏の無念を思い、語った言葉が忘れられない。

カショギ氏の慰霊碑に手を添えるハティジェ・ジェンギズさん

「カショギは祖国サウジアラビアのことを思って、あえて苦言を呈していました。それになのに、その祖国に殺されるとわかったときのカショギの気持ちを考えると胸がはりさけそうです」

国際社会は、我々ジャーナリストは、何ができるのか改めて考えなければならない。

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