BS1 ワールドウオッチング - WORLD WATCHING -

特集

2019年9月26日(木)掲載

日韓関係悪化の中、行われた日韓高校生交流会

私が、ソウル支局に赴任してちょうど1年を迎えた2019年7月。思いもかけない出来事が起きた。日本政府が韓国向けの輸出管理を強化すると発表したのだ。「『経済戦争』の銃声が鳴った」とまで言われ、日韓関係は“最悪”と言われる状態に。やりきれない思いでいる中、私の心をとらえたのが「日韓高校生交流会」というイベントだった。その担当者に聞くと、2004年から毎年行われていて、初めて会った日本と韓国の高校生が数日間をともに過ごし、共同でビジネス企画の提案をするのだという。大人たちが『経済戦争』を始める中、言葉もあまり通じない学生たちが短期間でどこまで仲良くなれるのか。もし日韓関係の未来が感じられる現場があるならば、多くの人に知ってもらいたい。そんな思いで現場に向かった。(ソウル支局 西川 信チーフディレクター)

言葉の壁はスマホで 集まった日韓60人の高校生

キンポ(金浦)空港に到着した日本の高校生たち

輸出管理の強化が発表されて1か月が経った8月。日韓関係がどんどん悪化する中、日本の高校生が協力して新たなビジネスを考案するという交流イベント「日韓高校生交流会」に参加するためだ。日韓関係悪化を受けてイベント開催を危ぶむ声も上がったが、子どもたちの交流が政治に影響されてはならないと予定通り行われた。

樋口朋香さん

高校3年生の樋口朋香さん(18)は、KPOPの男性グループ、BTSが好きだったことがきっかけで、交流に参加した。かつて日本は韓国文化に関心が高くなく、韓国も日本文化を政治的に規制していた時期があったことを思うと、日韓関係が最悪の状態と言われる中でも、着実に両国の距離は縮まっているのだなと感じる。
樋口さんたちが滞在していたのはソウル市内のユースホステルだ。日本の高校生を出迎えたのは韓国の高校生、こちらも同数の30人。ここで5日間をともに過ごし、協力して新たなビジネスを考案するのだという。言葉の壁はあるが、そこは同じ高校生同士。

左:キム・シウン(金時恩)さん 右:樋口朋香さん

スマホの翻訳ソフトを駆使しながら仲良くなろうとする。樋口さんは、同じ部屋に泊まった高校1年生のキム・シウン(金時恩)(16)さんと、すぐに打ち解け、「コイバナ(恋話)をしちゃいました」と語るほどの仲に…。


日韓高校生の共同作業

日韓高校生交流会

交流会では、高校生たちは6つのチームに分かれて新たなビジネスを提案する。樋口さんたちのチームは、新しいかたちの旅行ツアーを企画することにした。

旅行会社で説明を聞く日韓の高校生

それぞれのチームは、まず新ビジネスの提案の準備としてチームごとに企業見学を行う。樋口さんのチームが訪れたのは、ツアーの充実した韓国の中堅の旅行会社だ。日韓の高校生たちが考案するツアーを、具体的にどう作るべきか、旅行会社の社員に直接アイデアをぶつけ、意見を求めていた。

ツアーについて質問する樋口さん

樋口さん
「観光がしたいけれど、どういう観光場所があるか分からない人もいます。旅行者それぞれに合わせたスケジューリングをしたいと思います。」

質問に答える韓国旅行会社の社員

旅行会社 社員
「そういう商品を作れる人材を、多く抱える会社が長く残るでしょう。」

これまた、自分が高校生のときにはこんな実際に働いている人に意見を聞く場はなかったし、企業の人たちとビジネスの在り方を議論できるような成熟さもなかったなと目の前の光景を感慨深く見ていた。

企業見学後、ユースホステルに戻った高校生たちは、チームごとに課題の作成に取り掛かった。しかしながら、どこを何の目的で旅行するのか、なかなか決まらない。各チームにリーダーがいるが、最低限の方向付けだけをして、基本は高校生たちに決めさせるのだ。口火を切ったのが樋口さん、「まずは場所を決めないと」と提案すると、すかさずシウンさんが「ソウルではなく、地方にしよう。鉄道で行けるならいいね」と答える。日本語と韓国語が勢いよく行きかう、真剣な議論が続く。明け方まで必死に準備した樋口さんたちのチーム。地域の活性化につながる旅行ツアーを提案することにした。


達成感から深まる交流

発表当日。寝不足の中、ギリギリまでみんなプレゼンテーションの練習に励んだ。審査員に分かりやすいように、首からぶら下げた大きなプレートにはそれぞれの配役、例えば「旅行者」などが書いてある。

アナウンサー役を演じる樋口さん

樋口さんはアナウンサー役として旅行ツアーの説明の進行役を果たした。樋口さんのグループが発表したのは、日本からの韓国ツアーで、地元の人しか知らない場所を巡るというもの。

役を演じる日韓の高校生たち

高校生たちは一生懸命に役を演じようと真剣な面持ち、その姿を見るだけでも感動ものだ。審査の結果、樋口さんたちは、その独創性が認められ、2位の優秀賞を獲得した。1位ではないが、みんな達成感にあふれていた。これだな、この達成感が、言葉もなかなか通じない外国人同士が仲良くなる秘訣だ。そんな気持ちになれた瞬間だった。

別れを惜しむ樋口さんとシウンさん

4泊5日という短い期間ではあったが、イベントの最後の日は、皆、涙、涙の別れとなった。シウンさんとの別れを惜しむ樋口さん。2人の涙の抱擁はしばらく続いた。最後に樋口さんに日韓関係について聞いてみた。「政治的には日韓関係は悪いかもしれないが、現地に来たらそんなことは全然なかった。私が大人になったら日韓関係がよくなる活動ができたらいいな」と樋口さんが語るのを聞いて、ちょっとびっくりした。よく聞く言葉と言えばそうなのだが、自分の言葉として語っている強さを感じたからだ。日韓関係が急によくなるのは難しいかもしれないが、こういう一歩を重ねていくことが大事なんだよな、という気分になれた取材現場だった。

2019年1月 ソウル近郊 韓服(ハンボク)着用の西川信CD

ページの先頭へ