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特集

2019年9月17日(火)掲載

競泳金メダリストの「挫折」と「復活」

2016年のリオデジャネイロオリンピックで、競泳史上最年長の35歳で金メダルを獲得したアメリカのアンソニー・アービン選手。これまでにオリンピックで3つの金メダルを獲得するなど輝かしいキャリアの裏には、深い「挫折」の経験があった。アービン選手は、波乱に満ちた人生をどのような思いで乗り越えてきたのか。

“世間からの偏見” 苦悩する日々

アメリカの競泳選手、アンソニー・アービンさん(38)。アメリカ・カリフォルニア州で、黒人の父と白人の母の間に生まれた。アービン選手は、物心つく前から水泳を始め、めきめきと実力を伸ばしていった。

19歳の時のアービン選手

2000年、シドニーオリンピックで50メートル自由形に初出場し、19歳の若さで金メダルを獲得した。しかし、注目されたのは、「初の黒人系金メダリスト」という側面ばかりだったという。アメリカでは、競泳は長く「白人のスポーツ」とされ、黒人は白人と同じプールにすら入れない時代があるなど、根強い偏見が残っていたからだ。「聞かれるのは人種に関することばかりで、とてもつらい時間だった」(アンソニー・アービン選手)。

泳ぐ意味を見いだせなくなったアービン選手は、22歳で現役を引退。次第に薬物やアルコールに依存するようになり、生活はすさんでいった。

アンソニー・アービン選手

「自分なりにオリンピックチャンピオンの理想像はあったが、いざなってみると現実は違っていた。そして精神を病み、あまりのつらさからアルコールにおぼれるようになった」



挫折から奇跡の復活へ

引退から5年。どん底の日々に転機が訪れた。かつてのチームメイトから、子どもに水泳を教えないかと誘われたのだ。

アンソニー・アービン選手
「子どもたちが水の中で楽しんでいるのを見て、自分も水泳を楽しんでいたことを思い出した。まるで、長く閉ざされていた扉が開いたみたいだった」

アービン選手は、子どもたちから“水泳は本来、楽しいもの”ということを教えてもらったという。原点に立ち返り、現役復帰を決意したアービン選手は、衰えた体を鍛え直すため、専属のトレーナーを雇って独自のトレーニング方法を開発。食事制限にも取り組むなど、生活すべてを見直した。

そして、2016年のリオデジャネイロ大会。アービン選手は、競泳史上最年長35歳での金メダルを獲得し、奇跡の復活を果たしたのだ。「ただ、ベストを尽くしただけ。勝とうとはせず、自分の中の金メダルを目指した。そしたら、表彰台の上にいた。とても驚いた」(アンソニー・アービン選手)。

いま、アービン選手は、練習のかたわら世界中を回り、子どもたちに水泳を教えるだけでなく、自分の経験をもとに、挑戦することの大切さも伝えている。

アンソニー・アービン選手
「私は、かつて道を踏み外した。人生は逆境と困難に満ちているけれど、すべては乗り越えるべき試練なのだ」

「どん底」の先に見えた景色を、次の世代に受け継ぎたい。笑顔とともに、アービン選手は東京オリンピックを目指す。

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