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特集

2019年8月29日(木)掲載

シリーズ アフリカ② イノベーションの中心地ケニア

8月28日から横浜で始まったTICAD(ティカッド)=アフリカ開発会議。日本とアフリカ54か国の首脳らが横浜に結集し、投資やビジネスの促進をテーマに議論を行っている。この中で、度々、言及されたキーワードが、「イノベーション=技術革新」だ。かつて、「未開の大地」と呼ばれたアフリカは、もはや過去。先進国が少しずつ積み上げてきた過程を飛び越えて、いきなり最先端の技術が普及する「リープフロッグ=カエル跳び」現象と呼ばれる急激な変化が起きている。その象徴的な存在が、ケニアだ。アフリカン・イノベーションの中心地で何が起きているのか、現地の今を取材した。

スマートフォンの普及率100%以上!

ケニアの広いサバンナに、ぽつんと立つ質素な一軒家。ここに遊牧民マサイ族の男性が暮らしている。電線も水道もガスも通っていない前近代的な環境。しかし、男性はスマートフォンを手にしていた。このスマホを使って牛の売買の情報を集め、牛が病気になったときには動画を撮って街の獣医に送り診断してもらうなど、生活を格段に便利に豊かにしていた。

屋根の上に設置されたソーラーパネル

しかし、そもそもスマートフォンの充電はどうしているのか。答えは、屋根の上にある太陽光パネルだ。小さなパネル1枚で、電球3つとテレビ、それにスマートフォンの充電を賄っているという。

ケニアでは、中国やインドから手頃な価格の端末が出回るようになり、携帯電話に続きスマホの使用が爆発的に広がっている。ケニア政府によると、去年(2018年)、携帯電話やスマホの普及率は、100%を突破。つまり、1人1台以上を持っている計算だ。インターネット利用者も人口の98%にまで達している。誰もがインターネットにアクセスできるようになったことで、今、ケニアでは、次々と新たなビジネスが立ち上がっている。



新ビジネスでケニアに“郵便革命”

その1つが、スマートフォンを使って行う“郵便革命”だ。ケニアでは、ほとんどの建物に正式な番地が割り振られていない。そのため、これまで届け物といえば、郵便局まで取りに行くのが常だった。しかし、最近、そんな不便を一気に解消し、画期的な利便性を提供する新たなサービスが始まった。それが、Mpost(エムポスト)と呼ばれるサービスだ。このサービスでは、携帯やスマホの電話番号を住所の代わりにする。

郵便局に持ち込まれた手紙や小包にはQRコードが貼られる。このQRコードを読み取ると、受け手のスマホなどに郵便物があることがメッセージで知らされる。

そのあとが、イノベーションの真骨頂だ。受け手が行うのは、郵便局に行くことでもなく、届くか届かないか分からない郵便物をひたすら自宅で待つことでもない。ただ、「今いる場所に届けてほしい」とリクエストするだけだ。すると配達人は、位置情報サービスを使って受取人の居場所を特定し、バイクで届けに向かうのである。携帯やスマホさえあれば、どこにいても荷物が受け取れることから人気を呼び、利用者は急拡大。現在4万人が登録している。取材した利用者の1人は、「ネットで買った物を届けてもらえるようになりました。スマホ1台で、何でも手に入るようになったんです」と新しいサービスを喜んでいた。

このビジネスを立ち上げたのが、起業家のアブドゥルアジズ・オマルさん。きっかけは、自分自身の苦い経験だ。かつて、公務員試験の合格通知を期限内に受け取れず、就職のチャンスを逃してしまったことがあるという。しかし、アブドゥルアジズさんは、転んでもただでは起きなかった。「『必要は発明の母』。就職の失敗からひらめいたんです」。



ケニアの起業家を支援する日本人投資家

このアブドゥルアジズさんの企業を支援している日本人の若者がいる。寺久保拓摩さん(28)だ。去年、アフリカに特化したベンチャーキャピタルを設立。アフリカに関心を持つ日本企業などから出資を受け、現地のスタートアップ企業に投資している。寺久保さんは、アブドゥルアジズさんのアイデアを知り、ケニアの物流が一変すると感じたという。そして、今年(2019年)1月、サービスの実用化を目指して、約1000万円の投資を決断した。「物流のインパクトってすごく大きいので、そのインパクトによって経済が一気に加速することもある。アフリカには可能性を感じます」。

ホンダの担当者と会議をする寺久保さん

寺久保さんは、ケニアの起業家と日本企業の連携にも力を入れている。ケニアで起きる大きな変化に注目しているのが、現地に進出している日本の大手バイクメーカーのホンダだ。物流が拡大すれば、配達用のバイクの需要が拡大すると強く期待している。ホンダでは、この連携を通じて、貧しい人たちでも元手なしでバイクを使って仕事を行い、ゆくゆくはバイクを自分のものにできる仕組みを作りたいと考えている。「先進国とか、今あるビジネスに凝り固まっている僕らにとっては、非常に刺激を受けて、かつ可能性が見いだせる土地だと思っています。会社として、何か発展するチャンスが、見えてくるのではないかと考えています」(ホンダ アフリカ開発担当の向原穂高さん)。



アフリカ独自のアイデアを求めて

コンテスト参加者によるプレゼン

寺久保さんは、アフリカ各地の起業家たちを集めてアイデアを競い合うコンテストも行っている。今年7月に開催されたコンテストには、11人の起業家が参加した。コンテストでは、漁業や農業に携わる人たちの急な出費に対応する保険を提供する事業や、AIを使ってビジネス情報を交換し合う事業など、起業家たちがさまざまな起業のアイデアをアピールした。

コンテスト優勝者の表彰式

このコンテストで優勝したのが、冷蔵配達のアイデアを披露した起業家だ。ケニアでは冷蔵庫や保冷庫が発達していないため、獲った魚の40%が無駄になっているという。このことに目を付け、太陽光発電を使って冷蔵配達する仕組みを作れば、地方から都市部まで新鮮な魚を運べるとアピールしたのである。寺久保さんは、このアイデアにひかれ、10万ドルの融資を決めた。寺久保さんは、「このコンテストで披露された計画は、ビジネスとして実態が全然ない状態なんで、それが形になって大きくなっていくか見極めることが、怖さでもありおもしろさでもある。起業家が一番大変なのが創業期なのでしっかり支援するのが僕の役割なのかなと思っています」と、コンテストの意義を語った。

最後に、アフリカ、特にケニアでこうしたイノベーションが生まれる背景には、何があるのか。そこには、3つの要素があると言われている。①携帯電話やスマートフォンの普及、②インターネットの普及、③電子マネーによる決済の普及だ。住所がない、病院がない、学校がないなど、さまざまな課題があったところに、それを解決する3つの要素がそろったことで、イノベーションがもたらされる土壌ができたのだという。アイデア豊富な起業家たちと、あらゆるイノベーションを受け付ける広大な大地。今、アフリカに世界が注目している。

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