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特集

2019年8月22日(木)掲載

中東で台頭 イラン製ドローンの脅威

イスラム教の聖典・コーランに出てくる神が遣わした鳥・アバビールが、今、中東の空を飛んでいる。と言っても、もちろん聖典の鳥ではない。この名前を冠する、イラン製のドローンが、今、中東各地の紛争で使用されているのである。一般に、ドローンはレーダーで捕えにくいとされている。アバビールの改良型は、さらに爆弾の搭載が可能で、航続距離は1,200キロあるとされている。イランは、この軍事用ドローンを、影響下にあるパレスチナの武装組織など、中東各地の武装勢力に提供。アメリカの支援を受ける国々への攻撃に相次いで使用され、中東各地の勢力図を揺るがす状況になっている。

ドローン攻撃活発化に

2019年1月。イエメンの政権側の軍事基地で行われていた演説中、突然、空からドローンが爆撃を行い、6人が死亡した。反政府勢力による攻撃だ。8月17日には、10機のドローンが、イエメンの支配地域から1,000キロ以上の距離を航行し、政権側を後押しするサウジアラビアの油田を攻撃するなど、ドローンを使った攻勢を強めている。

イラン製ドローン「アバビール」改造型

使用されたのは、イランが開発したドローン「アバビール」の改良型とみられている。これに対して、サウジアラビアはアメリカ製の防空網を敷いているが、低空飛行するドローンの攻撃を完全に防げずにいる。「この無人機は、確実にイラン製の改良型ドローン『アバビールT』だ。油田などを狙うことは、サウジアラビアだけではなく世界のエネルギー安全保障や経済への攻撃だ」(サウジアラビア主導の有志連合 トゥルキ・マリキ大佐)。



脅威の“イラン製ドローン” 全貌が明らかに

かつて、アメリカなどが独占していた高度な軍事ドローンの技術をイランはどのようにして入手したのか。NHKが入手した独自映像から、その秘密が分かってきた。そこには、イランの隣国、アフガニスタンで墜落したアメリカ軍のドローンの残骸をイランへの協力者たちが回収している様子が映っていたのである。当時、イランの精悦部隊は血眼でドローンの技術を手に入れようとしていたという。

イラン革命防衛隊 元司令官 キャナニモガダム氏

「アフガニスタンに墜落するなどした米軍のドローンを回収し、分解して、設計技術を獲得してきた。そして自分たちで完璧に組み立てられるようになった」

アバビールの攻撃能力を向上させたのが、7年以上続く、シリア内戦だといわれる。イランが支配下に置く武装組織が、過激派組織ISを攻撃するためにアバビールの専属部隊を結成。この部隊が積み重ねた実戦データがイラン側に提供されたのだ。さらに、イランが、アバビールの量産と拡散に成功した要因も分かってきた。イラン製のドローンを分解して調べたイギリスの調査機関によると、部品自体は、いずれも一般に出回っているものを組み立てただけの簡単な造りだったという。アマチュアでも造れるため、規制が難しいのである。低コストで製造できるアバビールは、戦闘機や防空システムなど多額の資金がかかる空中戦の常識を覆そうとしている。「イラン系勢力がわずか200ドルでイスラエル上空にドローンを飛ばすのに対し、イスラエルは1発5万ドルのミサイルで迎撃しなければならない。全く新しいアプローチだ」(軍事専門家 エリアス・ハンナ氏)。

イラン革命防衛隊 元司令官 キャナニモガダム氏「イランが支援する勢力はドローンの性能を実戦で高め、イランに技術的なフィードバックもしてくれる。トランプ大統領が制裁を強化しようとも、イラン側の技術向上を止めることはできない」

核合意を巡ってアメリカとの緊張が高まる中、対抗するイランは、ドローンによる攻撃の精度を向上させ、戦力への自信を強めている。



危機感を強めるイスラエル

こうした脅威に対して危機感を高めているのがイスラエルだ。今回、NHKの取材陣は、イスラエルの軍需企業の開発現場の取材が特別に認められた。この企業が開発した新兵器はAI=人工知能を搭載し、半径5キロ以内に敵のドローンが接近すると妨害電波を出し、新たに強力なレーザー光線を照射して迎撃する。開発を率いるのは、イスラエル空軍を退役した元司令官だ。イスラエルは、国をあげてドローンの対策を進め、アメリカなどと連携し各地の実戦に配備しているとみられている。

イスラエル軍需企業 責任者「我々はとても手強い状況に置かれている。ドローンは、戦場のゲームチェンジャーだ。革命的な重大な脅威となっている」

台頭著しいイラン製の軍事ドローン。アメリカとイラン、それぞれの陣営が、ドローンを巡って激しい火花を散らしている。

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