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特集

2019年8月1日(木)掲載

「利下げ」判断に揺れてきたアメリカ

ここ数か月、FRB=連邦準備制度理事会による「利下げ」判断に揺れ続けてきたアメリカ。世界はその動向を注視し続けてきた。「利下げ」は、景気の悪化に直面した際に、景気回復策の1つとして打ち出されるのが一般的。しかし現在アメリカは、株価が最高値を記録するなど、景気の拡大が続いている。したがって、そうした中で「利下げ」を行うことは、異例中の異例となるからだ。米中貿易摩擦の解消に時間がかかり、景気減速への懸念が存在する中で、先手を打って「利下げ」の判断を下すことは、そうした事態に陥る予防になりうる。しかし一方で、景気拡大が続く中での「利下げ」はリスクが伴うのも事実だ。消費者が借金をしやすい状況になるため、土地の価格などが上昇し、“バブル景気”を生み出す可能性がある。仮にバブルがはじけたら、その後の影響は計り知れない。そうまでして、なぜアメリカは「利下げ」を推し進めようとするのか。その背景と「利下げ」を巡る判断に揺れるアメリカの現場を取材した。

トランプ大統領の思惑

2019年7月5日 ホワイトハウス

アメリカでFRBによる「利下げ」の必要性について繰り返し発言してきた人物、それはトランプ大統領だ。今年(2019年)4月、ホワイトハウスで、記者団の質問に対し「FRBは金利を引き下げるべきだ」と発言。また今年7月にも「利下げすればアメリカ経済は、ロケット並みの好景気となる」と発言している。その思惑にあるのが、来年、2020年に迫った大統領選挙での再選だ。有権者に対し強い経済をアピールしたい大統領。景気拡大が続いているとはいえ、米中貿易摩擦の解消に時間がかかる中で、何としても避けたいのが景気の減速。そのためトランプ大統領はFRBに対して、「利下げ」を強く迫ってきた。「利下げ」を行った場合、銀行は企業や個人にお金を貸す際の金利を引き下げることになる。そのため、設備投資を検討する企業や、住宅や自動車の購入を考えている個人がお金を借りやすくなり、景気がさらに上向く可能性があるのだ。



「利下げ」を歓迎する自動車業界

このトランプ大統領の動きを歓迎しているのが自動車業界だ。自動車販売は、アメリカの業種の中で特に「利下げ」の恩恵を受けるとされている。アメリカでは、ローンを組んで車を購入する人が多く、FRBが利下げすれば、ローンの金利も下がり、車の購入が増えると期待されているからだ。全米の新車販売は、いわゆる市場の頭打ちもあり、今年に入り6か月連続で前年割れが続いているため、業界は「利下げ」の効果に期待している。

バージニア州にある自動車販店で客に話を聞くと「利下げ、最高だ。支払いが安くなるのでうれしい」と答え、喜んでいた。販売店の店長も「金利が引き下がれば金を借りやすくなり、お客さんは『今すぐ車を買う方が良い』となる。利下げは小売業にとって必ず助けとなるだろう」と上機嫌だった。



「利下げ」よりも貿易摩擦の解消を

これに対し、リスクの伴う「利下げ」の実施よりも、米中貿易摩擦の解消のほうが先だと主張する業界もある。ウイスキー業界だ。オハイオ州にあるウイスキーの製造会社は、これまで中国やヨーロッパ各国に製品を輸出し事業を拡大してきた。しかし2018年以降、トランプ大統領が各国に仕掛ける貿易摩擦の影響が直撃した。中国とヨーロッパは、対抗措置として、アメリカ産ウイスキーに25%もの関税をかけた。会社は大幅なコスト負担を強いられ、販売全体の15%を占めていた海外輸出がすべて中止に追い込まれた。

「アメリカが関税の話をし始めたとたんに、注文が止まってしまった。ほかの中小企業も同じような運命にある。みな傷ついている」(ウイスキー製造会社 トム・リックス社長)。この会社では、今年予定していた製造拠点の拡張を見送り、人員を3割増やす計画も断念した。社長は「まずは、ほかの国と貿易を前のようにできるよう関税を撤廃してほしい」と嘆いた。先日発表されたGDPの速報値では、全体でプラス成長ではあったものの、設備投資と輸出がマイナスに転じるなど、貿易摩擦の影響が見え始めているアメリカ。来年の大統領選挙を見据えたトランプ大統領の「利下げ」を巡った動きが、吉と出るのか凶と出るのか。世界が注視している。

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