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特集

2019年7月2日(火)掲載

内戦のイエメンをコーヒーで救いたい

政府と反政府勢力の間で内戦が続く中東のイエメン。“最悪の人道危機”と呼ばれ、内戦が本格化してから4年以上がたち、1000万人近くが飢餓の危機に直面している。また、UNHCR・国連難民高等弁務官事務所によると、390万人以上が避難を強いられ、国内で人道支援を待ち続けている人は2400万人に及ぶ。経済も壊滅的な状態だ。そんな中、イエメンで石油に次いで重要な輸出品目のコーヒーを日本に輸入し、母国のために経済で貢献しようとする兄弟がいる。兄弟がこだわるのは「スペシャルティコーヒー」。オークションで10倍の値段がつくこともある“特別”なコーヒーだ。兄弟の思いに迫った。

イエメンのコーヒーを日本へ 輸入を始めた兄弟

イエメン人のアルモガヘッド・タレックさん、25歳。5年前の2014年に、留学生として来日した。母国は、そのころから内戦が激化していた。そんなタレックさんが今、母国から日本に輸入しようと力を入れているのがイエメンのコーヒーだ。2018年12月には、別府市でコーヒーの輸入会社を設立した。そしてこの日、取材陣を前に入れてくれたコーヒーの香りは、香ばしさの中にフルーティーな匂いを感じる、なんとも言えない深みのあるものだった。タレックさんは「ばい煎したあと、いろんな風味が出るんですよ」と、イエメン産のコーヒーの魅力を語る。

コーヒーの買い付けは今もイエメンの首都サヌアに暮らす、タレックさんの兄コサイさんが担当している。コーヒーはイエメンで、石油に次ぐ重要な輸出品目の1つで、国を代表する産業だ。例えば、日本人にもなじみが深いモカコーヒー。実は、イエメン南西部の港町モカから出荷された豆が名前の由来だ。また、コーヒーを飲む習慣そのものがイエメンから世界に広まったとも言われている。コーヒーは、イエメン人にとって“誇り”そのものだ。母国のコーヒーを救いたい。兄弟は、そう考えている。



内戦で壊滅的被害 目をつけたスペシャルティコーヒー

イエメンのコーヒー農家にとって、今一番の課題は「どうやって利益を上げるか」ということだ。内戦前、サヌア周辺でとれたコーヒー豆は、南部のアデン港に運ばれ輸出されていた。しかし、空爆により各地で道路が寸断。今では、大きく迂回する必要があるうえ、途中には武装勢力の検問所が100か所近くあり、港に運ぶには、危険だけでなく、高いコストを伴うと言う。検問所を通過する度に、武装勢力から高いお金を支払うよう要求されるからだ。そのため、これまでどおりのやり方でコーヒー豆を作っても利益は得られず、農家は苦しむ一方だと言う。タレックさんは「農家を放っておいたらやばいんですよ。だから市民が自分たちで何かやらないと」と語る。そこでタレックさん兄弟が目を付けたのが、近年、世界で新たなトレンドとなっている「スペシャルティコーヒー」だ。スペシャルティコーヒーは、品質の高さから、100グラムで5000円以上の値段がつく豆もある。高値で売ることができれば、農家に多くの利益を還元できると考えたのだ。



簡単ではなかったスペシャルティコーヒー

しかし、スペシャルティコーヒーを作るのは簡単なことでなかった。兄のコサイさんは、品質を高めるために、何が必要なのか一軒一軒農家に説明して回った。まず重要だったのが、収穫のタイミング。

コーヒー豆の成長は同じ枝でもまちまち。そこで、赤く熟すのを待って、その順に摘み取ることにした。収穫する豆は、甘みを最大限に引き出したものだけにするためだ。

さらに、風味を引き立てるため、約2週間天日で干し、1粒1粒チェックして、ムラをなくす。どれも手間のかかる作業だが、コサイさんは、その狙いを丁寧に農家に伝えた。コサイさんはコーヒー農家に「商品価値が上がれば、コーヒー農家の皆さんに利益が届けられる。世界で胸を張れるコーヒー豆を作ろう」と根気強く言い続けた。

その結果、以前はムラのあった品質が、大きく向上。コサイさんが、スペシャルティコーヒーとして高値で買い取ることができるレベルにまでなった。コーヒー農家も「支援してくれるかぎり、コーヒー作りを続けていきたい」とスペシャルティコーヒー作りへの意欲を見せた。



思いの詰まったコーヒー その味は?

そして2019年6月、ついに、イエメンから9000キロ離れた日本で暮らすタレックさんのもとに、スペシャルティコーヒーの豆750キロが届いた。豆を受け取り、「イエメンの匂いがする」と喜びを表したタレックさん。早速、このコーヒー豆を世界各地のスペシャルティコーヒーだけを扱う大分市内のカフェに届けた。

コーヒーを試飲するカフェのオーナー。その感想は・・・・・・・。「すごく果実味あふれるコーヒーでおいしい。手間がかかっているコーヒーは液体が透明で雑味がない」とのこと。タレックさん兄弟のスペシャルティコーヒーを高く評価してくれた。これに対しタレックさんは「いいものであれば買ってくれる。助けてという感じじゃなく、コーヒーのお金がイエメン経済に回ることをやってきたい」とうれしそうに語った。内戦が続くイエメンから届いたコーヒー。戦禍を懸命に生きる人々の思いが詰まっている。

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