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特集

2019年6月21日(金)掲載

中国で広がる“クローンペット”ビジネス

1996年7月、世界初のクローン羊「ドリー」がイギリスで誕生し、世界に衝撃が走った。このとき使われたクローン技術とは、まずドリーの元の羊の細胞を取り出し、別の羊の卵子に移植。その卵子を代理母となる羊の子宮に入れて、元の雌羊と同じ遺伝子を持ったクローン羊「ドリー」が作り出されたのだ。人間のクローンを作ることにつながりかねず倫理的に問題があるとして、世界中で強い拒絶反応が巻き起こった。しかし、あれから20年余りがたち、ほかの動物への応用が進むなどクローン技術がより身近な時代となり、中国ではいま、あるビジネスが広がろうとしている。

誕生 タレント犬「果汁」のクローン

中国で売れっ子のタレント犬、その名も「果汁(かじゅう)」。小さいころ、体の毛の一部が黄色っぽく、オレンジに似ていたことから名付けられた。これまでに8本の映画などに出演し、出演料は1日約30万円と中国ではトップクラス。ただ、気がかりなのが年齢だ。推定9歳と、人間で言えば50代。最近は体力的に撮影が厳しくなってきたという。トレーナーは「年をとった。撮影はできるが、体力がなくなってきたので、長い撮影は無理」と嘆く。そこで「果汁」を所有するプロダクションは、思い切った方法に乗り出した。クローンの技術を使って後継者を作り出すことにしたのだ。

そして生まれたのが、現在、生後8か月の果汁のクローン。果汁とともに演技の訓練を受けさせ、タレントデビューを目指している。トレーナーは「いずれは(クローン果汁を)果汁の代わりに出演させる。果汁の子犬の役で共演させるのもいい」とうれしそうに語った。



クローン犬を作ったベンチャー企業

果汁のクローンを作ったのは、2012年に設立された北京のベンチャー企業だ。去年、独自の技術を生かして中国でクローン犬を作るビジネスを始めた。飼育されている代理母となるビーグル犬のお腹には、あらゆる種類の犬のクローンが宿っている。費用は1頭あたり、日本円で約600万円かかるが、中国全土から問い合わせが相次いでいる。ベンチャー企業の副社長は「今年は100から200件の受注を目指し、3年後には300から500件まで増やしたい。中国のペット業界は、急成長している。クローンペットの市場も存在を知ってもらえれば需要はある」と自信をのぞかせた。



クローンペットビジネス拡大の背景

ビジネス拡大の背景にあるのが、中国で起こっている爆発的なペットブーム。市場規模は、2018年には、2兆7000億円を超えたと言われている。愛犬家にクローンペットビジネスについて聞くと「(クローンについて)機会があれば考えるし、支持する。お金の問題ではなく、愛情の問題だから」「(高い金額は)受け入れられる。犬を買ったときに多くのお金を払っているから、クローンのお金くらい大丈夫」という肯定的な意見が相次いだ。

クローン犬を作ってもらおうとしている家族を訪ねた。肖兵(しょうへい)さん親子は、家族同様に育ててきた愛犬「かん豆(かんとう)」が10歳を超え、衰えてきたことを心配している。そんな時に知ったのがクローン犬を作ってくれる北京の会社の存在だ。娘は「この犬がいなくなったと思ったら、とても悲しくなってしまう。クローン犬が来れば、姿が似ていれば心が癒やされると思った」と語った。

肖兵さん親子は、地元の動物病院を訪れ、クローンを作るのに必要な体の細胞を愛犬かん豆から取った。細胞はすぐに、病院から宅配便で北京のベンチャー企業に送られた。数か月後、愛犬のクローンが誕生する予定だ。娘は「10か月後には来るということなので、とても期待している」と喜びをあらわにしていた。



クローンペットの問題点

一方、クローンペットには懸念の声も。日本を含む各国はクローン人間を作ることは法令で禁止しているが、クローンペットについては明確な規制はないという。しかし、専門家はペットであっても倫理上の問題は多いと指摘する。

「一匹一匹の大切な命を大切に扱わないおそれがあると思う。仮に(クローンの犬が)病気になっても十分に看病せず、またクローンの動物を作ればいい、という話になってしまう」(生命倫理に詳しい 北海道大学 石井哲也教授)。今回取材した中国のベンチャー企業は、ペット大国の日本でも、クローンのニーズは高いとみていて、日本からも受注したいと話している。クローン技術が急速に発展する中、ペットとは、命とは何か、ということをいま一度考える必要が出てきている。

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