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特集

2019年6月7日(金)掲載

天安門事件から30年② なぜ、世界は“鎮圧”を黙認したのか

シリーズでお伝えしている「天安門事件」。事件から30年、イギリスが公開した機密文書から、当時の国際社会の対応が明らかになった。2回目は、世界各国が事件をどう受け止めたのか。そこには各国のどんな思惑があったのか。

中国を非難した国際社会だったが…

2017年から公開され始めた当時の機密文書。北京のイギリス大使館から、日々本国に送られてきた電報には、現地の混乱が克明に記されていた。そこには、政権内部からリークされた情報として、デモ鎮圧に向けた強い意志を示す最高実力者、鄧小平の言葉とされるものがあった。

鄧小平氏

「200人の死が中国は20年の安定をもたらすだろう」

こうした中国の強硬な姿勢を、各国の首脳は一斉に非難。当時のアメリカのブッシュ大統領は、会見で「わが国は武力行使を強く非難する」と発言した。しかし、事件直後、ブッシュ大統領とイギリスのサッチャー首相の間で交わされた電話記録には中国との関係悪化を望まない姿勢が透けて見える。

アメリカのブッシュ大統領「このままアメリカが中国政府との関係を維持できるよう望んでいる」

イギリスのサッチャー首相「大統領に同意する。中国当局との外交チャンネルは維持し続ける必要がある」



中国への対応に苦慮したイギリス

イギリスは、中国との関係悪化を望まない事情を抱えていたいう。それは8年後に控えた香港の返還だった。

ショーン・リオーダン氏

当時、北京の大使館で情報収集にあたっていたショーン・リオーダン氏。事件を振り返り「当時の私たちの関心は中国の安定した漸進的な進展であり、香港に不安定な状況をもたらすような劇的な変化は望んでいなかった」と語った。また、イギリスで対中政策を担っていたアンソニー・ウィルミントン氏は、中国政府を刺激しないようバランスを取っていたと証言する。「サッチャー首相とブッシュ大統領は、長期的に中国を懲らしめ続けたり、非難し続けたり、制裁措置を科したりすることは、生産的ではないと考えていた」。



経済利益を重視したアメリカ

一方、アメリカが重視したのは中国から得られる経済的利益だった。

ウィンストン・ロード氏

かつての中国大使で、その後、国務次官補として対中政策を担ったウィンストン・ロード氏は、中国がとる改革開放路線の維持を望んでいたという。「すでに各国は中国との経済的な結びつきが大きく、孤立させない方が良いと考えた」(ウィンストン・ロード氏)。各国の思惑が錯綜する中、迎えた事件翌月の、サミット・先進国首脳会議。中国に対し、武器の取り引きの禁止などの制裁を科し、各国が厳しい姿勢を示した。ところが、舞台裏では違う動きが起きていたことが明らかになった。サミットの5日後にブッシュ大統領が鄧小平に送っていた書簡に記されていた。

ブッシュ大統領が鄧小平氏に送った書簡

「親愛なる友、鄧小平殿。サミットの共同宣言の草案に中国を過度に非難する文言がありましたが、アメリカと日本が取り除きました。今は厳しい時期かもしれませんが、米中の明るい未来に向け、ともに前進しましょう」



経済発展するも民主化が進まない中国

当時の外交官たちは、中国の経済発展が、民主化をもたらすと考え、中国を追い詰めることはしなかったという。「通常、国がある程度経済的に発展すれば中産階級が生まれ、彼らが政治的自由を要求し、民主主義が導入される。中国がそうなることを期待した」(ウィンストン・ロード氏)。「中国が最終的にどこへ行くのか、これから新たなひずみが生まれ、政治改革につながるのか、判断が非常に難しい」(アンソニー・ウィルミントン氏)。

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