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特集

2019年5月23日(木)掲載

音楽がつなぐ日韓の交流

世界的なギタリストの村治佳織さんと、韓国を代表するピアニスト、イ・ギョンミさん(李京美)、日韓2人の演奏家が、5月16日、東京でコンサートを開いた。その名は「フレンドシップ・コンサート」。2人は20年以上の交流があり、これまで何度も共演してきた。プライベートでも日韓を行き来し、お互いを「カオリ」「お姉さん」と呼び合う仲だ。タイトルの「フレンドシップ」には2人の友情という意味に加えて、日本と韓国の友好も育まれてほしいという願いも込められていると言う。日韓でコンサートを重ねる2人の思いについて聞いた。

運命的な出会い

外交官だった父とともに幼いころ日本に住んだ経験があるイ・ギョンミさんは、アメリカ留学中に指揮者の小澤征爾氏と出会い、そうした縁もあって、まず日本でプロとしての第一歩を踏み出した。「今の自分があるのは日本のおかげ、第二の故郷」だと言う。村治さんとは20年余り前にイタリアの音楽祭で偶然出会った。イ・ギョンミさんは「運命的な出会い」だったと言う。「西洋人ばかりの中で、ポツンとギターを持った大きい瞳の女の子が印象的だった」。その数年後、イ・ギョンミさんに「神様の知らせ」があった。村治さんがソウルで公演した際、会見に来るはずの通訳が来られなくなり、急きょ代役としてイ・ギョンミさんに白羽の矢が立ったのだ。本来の仕事ではない通訳を引き受けてくれたイ・ギョンミさんに村治さんは深く感謝した。この出来事をきっかけに、2人の仲は急速に近くなった。今では、プライベートでも両国を行き来し、ともに大病を患い演奏活動を休止していた間も、支え合ったと言う。「欧米を舞台にアジアの人がクラシックで活動するのは文化の違いもあって、そう簡単ではない。韓国と日本の演奏家は同じような苦労をしているので、海外では仲良くなりやすい」(イ・ギョンミさん)。



相手の音に耳を澄ます

今回のコンサートで披露したギターとピアノのアンサンブルは3曲。その1つが、スペインの作曲家、ロドリーゴの名曲「アランフェス協奏曲」だ。本来、ギターとオーケストラの協奏曲を、今回はギターとピアノで演奏した。この曲を選んだことについて村治さんは「これまで何度も演奏してきた曲ですが、今、そして今後もずっと、イ・ギョンミさんと一緒に弾きたいと思い、今回挑戦しました」と語る。ピアノとギターのための曲は珍しく、演奏も難しさがあるという。2人は東京で2度、ソウルでも1度練習の機会を設け、息を合わせる努力を重ねてきた。繊細な音色のギターに比べ、ピアノは大きな音が出るため、イ・ギョンミさんには気をつけていることがある。「演奏のときは、必ず村治さんの音をよく聞きます。そして、村治さんの目の開け方とか、表情も横目で見ながら観察しています。ピアノが大きい音ばかり出して、一方的に自己主張だけすると、相手の音がかき消されてしまいます。つまり、相手の音楽が理解できないということなんですね。自分をちょっと押さえて、相手を思いやってよく聞くと、すてきな音が生まれる。これは、両国で行われている交流のどの分野にも言えるのではないでしょうか」(イ・ギョンミさん)。「違いは受け入れる。その上でお互いを尊重する。相手に届いているという安心感が大事」(村治さん)。



音楽は国境を越えて

日韓関係は今、政治的にはいろいろな問題があって、良好とは言えない。こういうタイミングで、コンサートを開くことには迷いはなかったか、尋ねてみた。村治さん「全然」。イ・ギョンミさん「こういう時こそ、むしろやりたかった。実現できて、本当にうれしかったです」。2人の思いは観客にも届いていたようだ。「今、日韓関係が良くないですが、このように両国で友情を育み、今日のようなコンサートが行われたことで、とても幸せな気持ちになりました」(韓国人の観客)。「至るところ、至る分野、至るジャンルの中でも、そういう友情あふれるフレンドシップというのはたくさんあると思うんです。ただ、報道されていないだけで。こういうことをきっかけにいい関係をどんどん広げていただきたい」(日本の観客)。最後に、村治さんはこう語った。「1つのコンサートが何か大きな流れを作るということができないかも知れないですけれども、自分たちの1本1本の糸がしっかり信頼を持って織り合っていけば、いいものができる。何よりいい音楽を2人でしたい、それに尽きます」。日韓のトップ演奏家が奏でるハーモニー。2人は今後も「フレンドシップ」を大切に、コンサートを続けていくつもりだ。

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