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特集

2019年4月23日(火)掲載

アラブの春を経験したエジプトはどこへ?

アラブの春は何をもたらしたのだろうか。そう思わざるを得ない事態がエジプトで起こりつつある。2019年4月22日までの3日間、エジプトでは憲法改正の是非を問う国民投票が行われた。この改正案には、軍出身のシシ大統領の任期延長や権限強化が盛り込まれている。8年前、アラブの春と呼ばれる民主化運動で長期独裁政権が倒れた後、軍による事実上のクーデターで実権を握ったシシ大統領。去年の選挙で再選を果たすなど一定の根強い支持があり、憲法改正は賛成多数で承認される公算が大きくなっている。エジプトは再び長期政権に舞い戻ることになるのか?批判的な勢力を徹底して抑えこんできたシシ政権の長期化を懸念する声も出ている。

政権の長期化を可能にする憲法改正案

現行のエジプト憲法では、大統領の任期は4年、最大で2期までと制限されている。2014年に大統領に就任したシシ大統領の任期は、本来なら、2022年までだ。ところが今回の改正案では、①大統領の任期を、4年から6年に延長。②さらに、現職のシシ大統領に限って、3期目への立候補を可能にするとしている。つまり、改正案が承認されれば、シシ大統領の任期は、最大で2030年まで延長、16年あまりの長期にわたって権力を握ることが可能になるのだ。加えて改正案には、司法に対する大統領の権限拡大なども含まれている。



憲法改正に賛成 理由は「安定」

エジプトの首都、カイロの中心、タハリール広場には、憲法改正の国民投票に参加するよう呼びかける多くの垂れ幕が掲げられている。投票初日の、わずか3日前に日程が発表された国民投票。政権側は、投票の正当性をアピールしようと、投票率を上げるための集会などを開催していた。街で話を聞くと憲法改正に賛成する市民が目立った。

観光客を相手に、手織りの高級カーペットの販売を手がけてきたムハンマド・フェイドさん(67)は憲法改正に賛成票を投じるつもりだ。その理由は、アラブの春の後に経験した混乱だ。治安が極端に悪化し、観光客が激減。エジプトの主要産業である観光業は大きな打撃を受けた。フェイドさんの店も観光客が激減、ほとんど収入がなく、工場を稼働できない日々が続いた。「客足は以前の5%以下に落ち込んだ。自力で切り抜けるしかなかった」と語ったフェイドさん。従業員の雇用を守るため、持っていた土地などを切り売りし、しのぐ毎日だったと言う。その後、シシ大統領が実験を握ると、軍の力を背景に、政権への不満を抑えつけ、治安が次第に改善。客足は以前の半分程度まで回復した。憲法改正で大統領の権力基盤をいっそう強固にすることが、生活を安定させ、国の繁栄につながると考えている。「安定がなければ、観光業はもちろん、ほかの分野も影響を受ける。シシ大統領は(国の統治に)成功してきた。代わりは見つからないと思う」と、フェイドさんは改正案に賛成する理由を語った。



かき消される“反対の声”

一方、憲法改正に反対する活動は、厳しく制限されている。憲法改正に反対を表明した「憲法党」の代表を務めるアラー・ハイヤムさん。活動を共にする仲間は次々と拘束されている。ハイヤムさんは壁に掲げられた仲間の写真を見ながら拘束された仲間について語り始めた。「彼は改正案に反対表明する映像を撮影し拘束された。憲法党のメディア担当は会議を終え、建物を出たところで拘束された」。ハイヤムさんはインターネット上で、憲法改正に反対を呼びかけるページを立ち上げたものの、すぐに当局によって遮断。さらに憲法改正に反対を呼びかけるデモを計画しても、「治安を脅かす」として許可を得られなった。

2011年民主化運動時のハイヤムさん

ハイヤムさんは8年前のアラブの春では、デモを主導したグループのメンバーだった。スマートフォンに残る写真を見せてくれた。「これは“革命”が始まった頃の写真だ。大きな希望がよみがえる」。しかし、軍による事実上のクーデターの後、シシ大統領が実権を握ると、次々に法律を変え、デモの実施や、メディアやNGOへの規制を強化。以前の独裁政権の時よりも、むしろ表現の自由が制限されていると考えている。ハイヤムさんは、強権的なシシ政権が長期化に向かえば、さらに自由が失われると強い懸念を示している。「逮捕された仲間はSNSで、憲法改正に反対すると表明しただけ。残念ながら今のエジプトには、どんな自由もない」。



再び不満が爆発する懸念も

カイロ大学のムスタファ・サイード教授は、市民の権利が制限され続ければ、再び不満が爆発する可能性もあると指摘する。「これは時限爆弾だ。貧困や失業と同様、政治活動の制限は、政治の安定にはマイナス。将来的にエジプトで大規模な反発を回避するのは困難だろう」。国民投票の結果は4月27日までに発表される予定だ。再び政権の長期化に舞い戻ることになれば、最近、アルジェリアやスーダンで相次いで起きている「第2のアラブの春」とも呼ばれる民主化運動に対しても、その道のりが険しいことを浮き彫りにすることになりそうだ。果たしてエジプトは、どこへ向かうのか。

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