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特集

2019年4月11日(木)掲載

世界で導入が進む「走行税」

自動車の「走行税」をご存知だろうか。従来の自動車の保有や燃料に対する課税ではなく、車が走る距離に応じて課せられる税金のことで、いま、世界で導入が進んでいる。スイス、ニュージーランド、ドイツ、ベルギーなどでは、すでに「走行税」や距離に応じた料金制度を導入している。アメリカの一部の州でも検討が進められているが、この背景には電気自動車へのシフトの加速やカーシェアリング拡大でマイカーを持つ人が減少し、税収が急速に落ち込んでいくと予測されていることがある。日本でも政府・与党が自動車の税制の抜本的な見直しを検討することになり、一つの案として「走行税」が浮上している。「走行税」は具体的にどのようなシステムで、どのような課題があるのか。日本の調査機関がニュージーランドで視察を行った。

日本からも視察 ニュージーランドの現状

世界に先駆けて「走行税」を導入したニュージーランド。「走行税」は燃料への税金が課されていないディーゼル車などが対象だ。日本から現地視察に訪れたのは財団法人・道路新産業開発機構の調査員、中村徹さん。車に関わる世界の料金システムを調べるのが専門で、今回は走行税の実態を調べるのが目的だ。まず訪ねたのは、ニュージーランド最大の都市、オークランドにある観光ツアー会社。この会社では、所有するバス11台分の走行税を納めている。バスのドライバーが事前にどれだけ走行するかを申請し、その距離に応じた金額を納税する。納税の証明として受け取るのがステッカーだ。

赤線部分:これまで走った距離 青線部分:納税したことで走れる距離

ステッカーにはバスがこれまで走った距離と、今後走ることが可能な距離が書かれている。納める金額は車種などによって約90通りに分かれる。例えば3.5トンより軽い車で一般的な乗用車や小型のバスだと走行距離1000キロあたり日本円にして約5000円。走行距離が伸びれば、そのつど支払う必要がある。この観光ツアー会社が支払う「走行税」は、バス1台あたり、年間30万円程度。社長は「手間はかかるが、システムには不満はない」と語った。一般のドライバーからも「合理的な制度だ」という声は多く、概ね肯定的にとらえられているようだ。



走行税の違反は警察が検問で監視

「走行税」の課税システムでは、違反をどう監視しているのだろうか。検問所での取り締まりは、毎日、専門の警察官が担う。警察官はまず、トラックの窓に貼られたステッカーで納税した分の走行可能な距離を把握。そしてトラックのタイヤに取り付けられた「メーター」で実際に走った距離をチェックする。納税分を超えていた場合、高額の罰金を科す。取り締まりは主に大型車両と商用車が対象で、一部の車両に対して抜き打ちで行われている。課税対象の台数が多すぎて、取り締まりには限界があるからだ。課税逃れを防止するため、ニュージーランドでは、GPSの位置情報を使った最新の課税システムの導入も進めている。

車に専用の受信機を設置すると、その位置情報がシステムの運用会社に集められ、そこで走行距離を自動的に計算し、課税する仕組み。1500台のバスを所有するニュージーランド最大手のバス会社は、ステッカーを購入する手間を減らそうと、このGPSの仕組みを導入した。バス会社の社長は「費用はかかったものの、導入のメリットはあった」と満足気だ。



課税システム 課題はプライバシーの保護

しかし、この最新のシステムには懸念すべき点もある。いつどこを走行したのか、第3者が把握できてしまうことだ。視察に訪れた中村さんは、「どのように運転しているのか、すべてを見られるのを嫌がる人もいる」として、どこまでプライバシーを保護できるのか、情報流出の心配はないのかなど、検討課題も多いと見ている。

それでも、ニュージーランド運輸省の担当者は、今後、世界中で「走行税」の導入が検討されていくだろうと予測する。「世界中のほとんどの国でガソリン車両が減り、電気自動車に移行する可能性が高い。将来、ほとんどすべての車両が『走行税』」の対象になる可能性がある」と言うのだ。



日本で「走行税」導入の動きは・・・

日本でも「走行税」は導入されるのか。早ければことしの冬以降、議論が始まる可能性がある。しかし、公共交通機関が少なく日常生活に車が欠かせない地域の人や、運送会社やタクシー会社などの税負担が重くなりすぎるのではないかなど、すでに悲鳴に近い反対の声が上がっている。具体的な議論は数年かけて進めることになりそうだが、海外の事例も参考にしながら、本当に導入するのか検討を進める必要がある。

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