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特集

2019年4月10日(水)掲載

世界が注目したイスラエル総選挙

2019年4月9日に投票が行われたイスラエル総選挙。アメリカのトランプ政権は、この選挙後にイスラエルとパレスチナの新たな和平案を出すとしていて、世界は選挙の行方に注目した。最大の焦点となったのは、10年ぶりの政権交代なるかどうかだ。パレスチナへの強硬な姿勢を貫いてきたネタニヤフ首相率いる右派政党「リクード」が政権を維持するのか。それとも、パレスチナとの対話路線を掲げるガンツ氏の中道会派「青と白」が政権交代を果たすのか。「青と白」は、2月にネタニヤフ首相の汚職疑惑が持ち上がったことで批判票を一気に取り込み、急速に支持を伸ばした。中東和平の今後を左右するイスラエルの選挙戦を追った。

劣勢のネタニヤフ首相 右派支持層固めを徹底

投票日を翌日に控えた4月8日、ネタニヤフ首相はエルサレムの市場に姿を現し、劣勢に立たされていた「リクード」への支持を必死に訴えた。「『リクード』の右派政権がいいか?だったら『リクード』に投票を!」。イスラエルは神がユダヤ民族に与えた国だと信じる右派の岩盤支持層を抱えている。集まった支持者も「唯一で強いユダヤ人だけの国家が必要だ」などと口にし、右派政権の必要性を主張した。ネタニヤフ首相の選挙戦略は、こうしたユダヤ人支持層を徹底的に固めることだ。2018年7月にネタニヤフ政権は、国民の約20%を占めるアラブ系住民を無視する形で、イスラエルはユダヤ人だけの国だと規定する「ユダヤ人国家法」を制定した。公用語はアラビア語を外し、ヘブライ語のみに限定。国の重要な決定も、ユダヤ人のみに優先的な権利を保障した。



支持伸ばす「青と白」 共存訴えるガンツ氏

これに対し、中道会派「青と白」を率いるガンツ氏は、共存を訴えた。4月6日の集会で「我々は誰とも敵対していない。ユダヤ人以外の国民とも共存できるし、しなければならない」と力強く訴えたガンツ氏。会場にいた男性からの「ユダヤ人国家法」についての質問に対しては「アラブ系の基本的平等を脅かすものであってはいけない」と答え、社会の分断を広げないようにするためには、法改正も必要だとの考えを示した。集まった支持者も「ガンツ氏なら誰もが不可能と思うユダヤ人とアラブ人の平等な社会を作ってくれる」などと、期待感を次々に口にした。「青と白」の候補者は少数派やエチオピア系のユダヤ人、障害者も名前を連ねていて、幅広い層の票の受け皿となっているのだ。



「リクード」支持から「青と白」支持に

ガンツ氏の姿勢にひかれ、支持に回る人も増加している。イスラエル北部の町に住む、サイード・アザムさん。イスラム教の少数派ドルーズのアラブ人だ。アザムさんは20年間「リクード」を支持してきたが、「ユダヤ人国家法」の制定に幻滅して考えを変えたという。人口2%以下の少数派のドルーズは、たとえユダヤ人でなくても、ユダヤ人と同じように徴兵義務を負い、国民としての誇りを持ってきた。それだけに、国民の多数派を占めるユダヤ人だけを優遇する「ユダヤ人国家法」の制定は、“裏切り”ともいえる行為だった。「あの法律が制定されたことで、兵役に就いて貢献してきたドルーズは2級市民扱いされたのだ。我々の国への失望は計り知れない」(アザムさん)。



世界が注視する中東の行方

一方、苦戦する与党リクードは、さらなる右派の支持を取り付けるため、パレスチナ人を敵視する極右政党「ユダヤの力」との連立を発表した。この政党が選挙CMで訴えているのは、発砲の自由。占領地では、イスラエル兵がパレスチナの過激派に遭遇しても、相手との距離や持っている武器のサイズなどの規制で、発砲できない場合がある。こうした場面で、選挙CMは、党首自ら「撃ってしまえよ、自衛なんだから」と主張し、過激な姿勢が支持されている。続投のためには、こうした過激な勢力との連携すら辞さないネタニヤフ首相か。それとも、ユダヤ人とアラブ人との融和を訴えるガンツ氏か。そして、選挙の結果を受けてトランプ政権はどう出るのか。中東の今後を世界は注視している。

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