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特集

2019年3月26日(火)

花澤キャスター・フランス現地取材 (1)IS参加者の帰国問題

 
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市民
「とても不安です。」

市民
「リスクのある賭けでしょうね。」

今、フランス国民は、ある大きな「不安」を感じています。
先週、シリアにあった「最後の拠点」を失ったとされる、過激派組織IS=イスラミックステート。
そのISに参加した人の帰国の賛否をめぐり、今、フランス社会が大きく揺れています。

市民
「(IS参加者の)帰国は難しいでしょう。
フランス人が望まないからです。」

これに対し、IS参加者の家族からは、悲痛な訴えが。

IS参加者の家族
「参加した人すべてがテロリストではありません。
どうか帰国を認めてほしい。」

国内で深まる亀裂。
花澤キャスターの現地取材で、今後のフランス、そしてヨーロッパの行方に迫ります。

花澤
「ヨーロッパから、シリアやイラクに渡りISに参加した人の数は、およそ5,000人。
その中で1,900人と最も多いのが、フランスです。

組織が壊滅状態となった今、ISに参加していた外国人は現地でクルド人勢力に拘束されるなどしていて、帰国を希望する人もいます。
しかし、多くの人の帰国には備えられておらず、フランス政府は難しい対応を迫られています。
その現場を取材しました。」

花澤キャスター現地報告 揺れるフランス“IS帰国”

パリから車で3時間、フランス北部の港町、ブローニュ・シュル・メールです。
この街で暮らす、パスカル・デカンさん。
シリアのISに参加した娘の帰りを待っています。
娘のアナイスさんは4年前、イスラム教徒のフランス人男性とSNSで知り合い、結婚しました。
2人は、子どもたちを連れてフランス南部へ移住。
しかし、数か月後にパスカルさんが訪ねると、娘はベールをかぶり、過激思想に染まっているように感じたといいます。

パスカル・デカンさん
「(娘の夫は)穏健なイスラム教徒だと思いました。
でも、全てウソだったのです。
シリアに行くか、子どもと離れるかの選択でした。
でも、まさかISに加わるなんて…。」

パスカルさんは、数か月に1度、娘から送られてくるメッセージで、夫が戦闘で死亡したことや、そのあと結婚した別の男も死亡したことなどを知りました。
そして今年(2019年)2月、娘と孫は現地でクルド人勢力に拘束されて収容所にいるという情報がNPOから寄せられたのです。
パスカルさんは、娘たちをなんとか帰国させてあげたいと政府や議会に訴えています。

パスカル・デカンさん
「娘と孫を帰国させてと訴えました。
フランス国民なのだから。」

しかし、この訴えに対して、フランス政府からの回答は今のところありません。

パスカル・デカンさん
「テロが怖いという気持ちは分かります。
娘も完全に過激思想から抜け出すのは難しいと思います。
でも、武器を手にしたわけでもなく、罪も犯していないのです。
どうか娘と孫を帰国させて、過激思想から抜け出すチャンスを与えてほしい。」

ISの参加者がフランスに帰国することに対して、国民の間では不安が広がっています。
最近の世論調査では、IS戦闘員の帰国に反対する人は82%、子どもであっても反対だとする人も67%に上っています。

市民
「不安だし、危険だと思うわ。」

市民
「テロの悲劇が、また起きるのではないかと…。」

国内で強い反発の声が上がる中、フランス政府は、IS参加者が現地で裁かれることに期待を示し、具体的な対応への言及は避けています。

フランス マクロン大統領
「ISに参加したフランス人は、拘束された国で裁判を受けることになるだろう。」

さらに、直接戦闘に加わっていない女性や子どもをどう扱うのかについても、打開策は見えていません。

下院議員
「フランスを捨ててシリアに行った人たちは、もはやフランス国民とは言えない。
放っておけばよい。」

フランスの有力紙「ル・モンド」は、IS参加者らを受け入れる準備は整っていないと指摘しています。

『ル・モンド』編集長 ジェローム・フェノグリオ氏
「市民がIS参加者に不安や恐怖を感じるのは当然です。
帰国するなら、彼らがテロの思想から抜け出せる環境を整えるべきです。
しかし、簡単なことではないでしょう。」

こうした状況を、フランスのイスラム社会はどう受け止めているのでしょうか。

花澤
「こちらはパリ郊外の、北アフリカ出身のイスラム教徒が多く暮らしていることで知られる地区です。
新聞社の襲撃テロ事件の実行犯が暮らしていたり、あるいは、ここの住民の中からISに加わる者も出ているということで、警察が警戒、監視を強めています。」

花澤
「ここで何をしているんですか?」

「人生をどう切り抜けるか話していたのさ。」

「学校を卒業して資格も取ったのに、仕事がないんだ。」

「監視カメラだらけ、まるで檻(おり)の中だよ。」

「友達はISに参加して、シリアで死んだ。
ここには過激思想の人間もいる。」

若者たちは仕事が見つからず、フランス社会から疎外されていると反発を強めていました。
チョルギ・ビラルさん。
何年も仕事が見つからないまま、親元での生活が続いています。
過激思想が広がるのは、フランス社会がイスラム教徒を疎外するせいだといいます。
このため、IS参加者も受け入れる責任があるはずだと、今の議論を冷ややかに見つめています。

チョルギ・ビラルさん
「フランスは悪くなる一方だ。
良いことなんて何もない。
今の政権は、イスラム教徒の成功を望んでいないんだ。
(IS参加者を)政府は受け入れる義務があるんだ。
受け入れたら教育した上で、新たな人生をスタートさせるよう助けるべきだ。」

IS参加者の帰還をめぐって揺れるフランス社会。
過激思想の拡散への懸念の一方で、排除しようとすれば逆にイスラム教徒との溝を深めかねないという難しい状況に直面しています。

各国の対応は

酒井
「受け入れたらテロが怖いという気持ちも、受け入れないとイスラム教徒との溝が広がるというのも分かりますし、本当に難しいですね。」

花澤
「非常に難しい問題だと感じました。
こちらは、ヨーロッパからシリアやイラクのISに加わった人の数です。」

酒井
「各国と比べて見ても、フランスが最も多いですね。」

花澤
「フランス政府は『その国で裁かれるべきだ』というのが基本姿勢です。
ただし、現地で拘束されていない人も多いですし、帰国した場合にはフランスでの裁判となります。」

酒井
「ただ、シリアやイラクで具体的に何をしていたのかを証明するのも難しいですよね。」

花澤
「検察側が、テロ攻撃を行ったのか、それを支援したのかといったことを立証することになりますが、非常に難しく、そもそも可能なのかという疑問の声もあります。」

酒井
「そうした状況で、各国はどう対応しようとしているんですか?」

花澤
「今、数千人のIS戦闘員を拘束しているシリアのクルド人勢力は、こんなに大勢裁いたり拘束を続けるのは無理だと、各国に対応を求めています。
しかしほとんどの国が、『その国で裁かれるべきだ』というのが基本方針です。」

酒井
「イギリスやドイツなどは、2重国籍の人については国籍を剥奪して帰国させない方針です。
一方、スウェーデンは、受け入れた上で精神面のサポートをする専門家組織を立ち上げる方針なんですね。」

花澤
「ただ、スウェーデンのようなケースは、非常にまれです。」

酒井
「しかし、受け入れを拒否するとなると、イスラム教徒との溝が広がるというのも分かりますよね。」

花澤
「イスラム教徒が反発を強めれば、また過激思想が広がる土壌が作られるということになります。
過激思想を根絶するには、社会への不満を鎮めていくべきですが、現実には簡単ではありません。
世界はどのように過激思想を抑えていくのか。
テロを懸念する国内世論と法律上の問題、さらにはイスラム社会との融和というさまざまな要求の間で、各国は大きな岐路に立たされています。」

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