BS1 ワールドウオッチング - WORLD WATCHING -

特集

2019年3月14日(木)

フィリピンから介護人材確保を目指せ

 
放送した内容をご覧いただけます

酒井
「外国人材の受け入れを拡大するための改正出入国管理法が、いよいよ来月(4月)、施行されます。
政府は、人手不足に悩む14の分野で“5年間で最大34万人”の受け入れを想定しています。」


花澤
「この改正に特に期待を寄せているのが、深刻な人手不足に悩む介護業界。
これまでもさまざまな施策で外国人を招き入れようとしてきましたが、言葉の壁や労働条件の問題が立ちはだかり、思うような成果を上げられていませんでした。
今度こそ、人材の確保につなげられるのでしょうか。」

外国人材 受け入れ拡大 人材確保につなげられるか

松岡
「介護への外国人材の受け入れ、これまでの主な枠組みはこちら。
2008年から始まった『EPA=経済連携協定』によるものと、2017年、働きながら技術を学んでもらう『外国人技能実習制度』に『介護』が新たな職種として加わったもの。
まず、EPAでは3年の実務を経験したうえで、日本人と同等のレベルの国家試験の合格という高いハードルが設けられています。
このことから、この制度で日本に来た介護人材は、およそ4,300人にとどまっています。
そして、技能実習制度。
実習1年目から2年目に移る際に日本語能力と技能を測る試験があり、理解力が一定のレベルに達しないと帰国せざるを得なくなっています。
受け入れ人数は、およそ250人に過ぎません。
いずれも国家試験の合格や高いレベルの日本語能力という高い壁があり、途中で帰国するケースが相次いだためです。
深刻な人材不足を打破するために、外国人受け入れの大幅な拡大を目指すのが、今回の出入国管理法の改正です。
新たに作られる在留資格で注目されているのが『特定技能1号』。
こちらは、介護や建設など14業種を対象に、相当程度の知識・経験を持ち、日本語が日常会話程度、話せることが条件です。
これまでの高いハードルから転換して、外国人の受け入れを拡大するかたちです。
これが認められると、在留期間は最長5年に。

政府によると、『介護業』の受け入れ見込み数は、向こう5年間で最大6万人と、大幅に増える算段となっています。
これまでさまざまな制度を作っても、なかなか人材を呼び込めなかった介護の分野。
業界にとっては、今回こそ人材確保を成功させたいところですが、世界的に人材獲得競争は激しさを増しています。
そこで今、注目されているのが、フィリピン南部のミンダナオ島です。
40年以上にわたって続いた紛争が終わり、治安が安定してきた今、多くの若者が仕事を探している状況があるからです。
この島で、いち早く人材獲得に乗り出した日本の介護団体の模索を取材しました。」



外国人材 受け入れ拡大 確保できるか 介護人材

リポート:桑原義人カメラマン(映像取材部)

フィリピン南部のミンダナオ島。
40年以上にわたって、イスラム武装勢力と政府軍との紛争が続いた影響で、経済の発展からは取り残されています。
人口160万の島の中心都市ダバオ。
明治から昭和初期にかけては、多くの日本人が移民として渡ってきた歴史があり、日本への親近感が強い街です。

この街で今、日本で働くことを望む人が増えています。
ダバオ市内の人材派遣会社です。

受付
「介護士資格は持っていますか?
日本へ介護士として送り出すプログラムを用意しています。」

来月から日本が外国人労働者の受け入れを拡大するという情報が広まり、この会社には去年(2018年)の秋ごろから毎月100人ほどが日本での介護の仕事を求めて訪れています。
その1人、マリセル・ロモトスさんです。
マリセルさんは准看護師としてダバオ市内の病院で働いています。

准看護師 マリセル・ロモトスさん
「包帯や簡単な縫合など、医師のアシスタントとして何でもこなしています。」

月収は4万円ほど。
シングルマザーとして働きながら、家族4人を養っていますが、生活はギリギリです。
豊かな生活を目指し、このチャンスを何とか手に入れたいと考えています。

准看護師 マリセル・ロモトスさん
「1番は経済的な理由です。
日本に行けば、自分のキャリアを築く大きなチャンスになると思います。」

日本への就職熱が高まるミンダナオ島。
そこに注目している人たちがいます。
静岡県浜松市の介護組合です。

人手不足に悩む中、中国やインドネシア、フィリピンなどへの視察を重ねてきたこの団体。
しかし、アジアの大都市では、すでに激しい人材獲得競争が起きていました。
そうした中、ミンダナオ島は、長引いた紛争によって外国企業がほとんど進出しておらず、介護の仕事を望む人材もまだ多くが手つかずの状態だったのです。

グローバル介護福祉事業協同組合 岸本敏和理事長
「非常に若い方が仕事を求めてたくさんいらっしゃると。
先手を打とうとしました、他社に負けないように。」

介護組合からの依頼を受け、ミンダナオ島での人材探しに協力している三宅一道さんです。
10年以上にわたってダバオの大学で日本語教師を務め、教育関係のビジネスにも携わってきました。
三宅さんは頻繁に人材派遣会社などを訪れ、情報を集めています。

(株)ピスタシア 三宅一道さん
「どれくらいの介護人材が応募してきていますか?」

人材派遣会社社長 ジャマル氏
「介護士と看護師を合わせると500人はいます。
看護師資格を持っていても、介護士として日本へ行きたいという人もいます。」

この日、三宅さんが訪れたのは、介護士を養成する専門学校です。

(株)ピスタシア 三宅一道さん
「最も行きたい国は?」

生徒たち
「日本。」

この専門学校では、これまで就業先として希望が多かったカナダやアメリカを抜いて、日本を第1希望にする生徒が増えています。
その一方で、学生たちは言葉の壁に最も大きな不安を抱いていることが分かりました。

介護士専門学校 学長
「半数近くの学生が日本で働くことに興味を抱いています。
しかし、一番の問題点は、日本語の習得が難しいということです。
それが生徒にとって、一番の懸念になっています。」

三宅さんは、浜松市の介護組合と協力して、日本語学習の手厚い支援体制を作るつもりだと説明します。

(株)ピスタシア 三宅一道さん
「日本語の習得については心配しないでください。
日本へ行った後も、継続した日本語習得への支援体制を整えています。
日本での生活もスムーズに始められます。」

外国人材の確保に立ちはだかってきた「日本語の壁」。
三宅さんは、今度こそこの壁を乗り越えなくてはならないと感じています。

(株)ピスタシア 三宅一道さん
「高齢化社会が続く限り、介護人材は必要になってくるので。
日本の現場に出て、しっかりと長期間活躍していける人材を作る(日本語)教育というのを続けていきたいと思います。」



新たな枠組みで人材確保は?

酒井
「ここからは外国人の介護人材に詳しい、京都大学大学院准教授の安里和晃さんにお話を伺います。
介護人材について見てみましたが、これまでも外国人材の受け入れについてEPAや実習生など、いろいろな枠組みがありましたが、今回の新たな枠組み、これで本当に人材を確保できると思いますか?」

京都大学大学院 准教授 安里和晃さん
「先ほど5年間で6万人という数字がありましたが、基本的には厳しいと思います。
まず、準備期間が短いこと。
それから、成長するアジアには多くのチャンスが地元にあるわけです。
あえて日本に行く魅力は相対的に低下していること。
それから、職業としての介護は、まだ送り出し国では確立していないので認知度が低いこと。
さらに加えて要件が高い。
日本語も求められるし、技能も求められる。
そういった観点から、人材獲得はそんなに容易ではないと思います。」

花澤
「日本政府としては、ハードルはだいぶ下げたつもりなのでしょうけれども、それでもまだ難しいと受け取られるということですか?」

京都大学大学院 准教授 安里和晃さん
「特に非漢字圏の方々からすれば、『N4』、例えば日常生活を営むに必要なレベルもやっぱり時間がかかる。
日本語の重要性はかなり強調しておかなければなりません。
働く上でも必要ですけれども、生きていくための術ですから、それは非常に重要なのです。
ところが、それを強調すれば強調するほどハードルが高くなってしまうという難しい状況にあるのは間違いないなと思います。」

花澤
「ハードルを下げても、やっぱり厳しいところもあって、最大6万人はなかなか難しいと?」

京都大学大学院 准教授 安里和晃さん
「現状では難しいと思います。」

花澤
「この番組でも何度もこの問題をお伝えしてきたのですが、前回、ベトナムの現状のリポートで、“日本で働くのは非常に労働環境が悪い”という悪評がすでに広がっているという話がありました。
この点は、今回のケースではどうなのでしょうか?」

京都大学大学院 准教授 安里和晃さん
「これまでの技能実習とか従来の制度で、さまざまな問題があることが明らかになりました。
1つは高い斡旋料、もう1つは低賃金がありました。
例えば、そうした技能実習生の内訳を見ると、やはり高い斡旋料と低賃金の間で苦しめられてきたということがあります。
ですから、そういったことが続くことで、日本の魅力がかなり低くなっているのは間違いないと思います。」



なぜここまで複雑に

花澤
「今回を含めて、どんな制度でやってきたのか。
『留学生』も含めるとこういう感じで、今回のが『特定技能1号』と、非常に複雑ですよね。
どうして、こんなに複雑になるのでしょうか?」

京都大学大学院 准教授 安里和晃さん
「これは日本が労働者として外国人を受け入れてこなかった。
『EPA』というのは、経済連携の強化を目的としています。
『留学生』は教育目的、『技能実習』は途上国への技術移転ということなので、実はどれも労働者の受け入れを目的としていなかった。
でも、実際には労働者として扱ってきた。
そこに二重基準、2つの基準で、ダブルスタンダードでずっと運用してきたわけです。
ようやく素直な制度ができた、というのが『特定技能1号』。
つまり、人材が不足する領域に入れましょう、ということなのです。
そういった今までの制度が並列されているために、専門家でも分からなくなってきている。
そうすると、これから働きにいこうとする人々が、正しい判断で正しい選択ができるかというと、これはまた大きな課題だと思います。」

花澤
「現地の人たちからすると、一体どんな制度なのか、どこを目指していけばいいのかが非常に分かりにくくなっているということですね。」

京都大学大学院 准教授 安里和晃さん
「もしかすると暗躍するブローカーが誤った手引きをしてしまうかもしれない。
そういった危うさはあると思います。」

花澤
「そうするとまた悪評が広まって、人が来なくなると。」

京都大学大学院 准教授 安里和晃さん
「その懸念は十分あります。」



リスク回避 方法は

花澤
「そういうリスクを避けていくために、日本としてできることは何なのでしょうか?」

京都大学大学院 准教授 安里和晃さん
「相手国との関係で、複雑な制度は人々にとって理解しにくい。
まずは制度の簡素化、透明かつ簡素にしていく。
つまり、みんなが理解できる制度にしていくこと。
これまで高い斡旋料、それから低賃金が問題になってきましたので、それを対処できるかどうか。
対処というのも、起こってから対応するのではなく予防的な措置ができるかどうか。
例えば、大使館に人員をたくさん配置して、送り出し国との対策を深めていくことも重要なのかもしれません。」

花澤
「日本の国でも相手の国でも、搾取とか悪徳業者が入り込まないように、もっと積極的に関わっていかなければいけないと。」

京都大学大学院 准教授 安里和晃さん
「そこに国境の壁があるので、遠慮してお互いが介入できないと、やはりことは悪い人がもうけることになりかねない制度になってしまうかもしれません。」



日本政府の姿勢は

花澤
「その点で日本政府は、そこまで手を突っ込んでそういうリスクを排除しようとしていますか?」

京都大学大学院 准教授 安里和晃さん
「『MoC』と呼ばれる協力覚書を相手国と交わして、お互い協力することにはなっているのですけれども、法的拘束力がないとか、相手国のことは相手国で、となってきているので、そうすると国によって運用の格差が出てくる。
そうすると悪評が立ったり、制度全体として収拾がつかなくなってしまう。
やはり統一的な基準を作って、地域間の中で協力してやっていくことが求められるのではないかなと思います。」

花澤
「より積極的に関わっていくということですね。」


ページの先頭へ