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特集

2019年3月8日(金)

中国・待ったなしの少子化対策 ~一人っ子政策廃止も出生数減少続く~

 
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14億人近い人口を抱える中国。
36年間続いた「一人っ子政策」を廃止し子どもを増やそうと、かじを切りました。

中国 李克強首相
「二人っ子政策導入後の新たな状況に対して、さまざまなサポートが必要だ。」


少子化が進めば、高齢化が深刻化し、経済に深刻な影響を与えかねません。
ところが…。

「子どもは1人で十分。」

「もう1人産んだら、必ず(家計の)バランスが崩れます。」

政府の思惑とはかけ離れる国民の思い。
歯止めがかからない中国の少子化問題を考えます。

中国 出生数の推移

酒井
「中国の人口はおよそ13億9,000万人。
中国政府は、長年続いてきた『一人っ子政策』を3年前に廃止し、現在では2人に緩和しています。」

花澤
「しかし、生まれる子どもの数は減少傾向にあり、将来の経済への影響も懸念されています。」

松岡
「中国では1979年から、人口抑制策、いわゆる『一人っ子政策』を本格的に実施してきました。
この政策が廃止された3年前には、出生数が2000年以降でもっとも高くなりましたが、おととし(2017年)からは、予想に反して減少に転じます。
特に去年(2018年)は、前の年と比べて200万人も減りました。

政府系のシンクタンク中国社会科学院は、15歳から64歳までの生産年齢人口が2050年までに2億人減り、8億人になると予測。
さらに、少子化問題の専門家はこのまま対策を講じなければ、将来、中国のGDPが2040年からの20年間で20%以上減少すると、警鐘を鳴らしています。

こうした事態に、李克強首相は、保育の充実など子育て支援策を強化する方針を示しました。
ところが、政府の意向にもかかわらず、若い世代には子どもを増やす意識が薄いことが分かってきました。」

少子化対策も歯止めかからず

リポート:為井貴規記者(中国総局)

北京市内に住む張竜さんと王茜さんの一家です。
夫婦共働きで、6歳の息子がいます。
一人っ子政策の廃止後も、2人目は考えていません。

子ども
「TOILET!」

毎週、子どもを英語や絵画などの習い事に通わせ、年間の教育費はおよそ100万円かかります。

夫婦は、子どもが増えれば、仕事や趣味に影響が出ると考えています。
一人っ子として育てられた夫はそもそも2人目を考えたことはないといいます。

張竜さん
「私は一人っ子の第一世代で、1人に慣れています。
周囲もみな一人っ子で、子どもは1人で十分と考えてきました。」

王茜さん
「2人目ができれば気力・体力がより奪われ、自分たちの時間がなくなってしまいます。」

人々の間では、経済的な理由から、子どもは1人でいいという考えが浸透しています。

母親
「もう1人産んだら必ず(家計の)バランスが崩れます。」

少子化への懸念が強まる中、今年(2019年)1月、専門家たちが北京で討論会を開きました。

人口問題の専門家
「出生数の崩壊を阻止できなければ、20年後に経済は停滞する。」

専門家たちは、政府批判が難しい中国にもかかわらず、公然と政策の変更を求めました。
出産を促す政策の実施などの対策が遅れれば、経済や年金などの社会保障に深刻な影響が出かねない危機感からです。

討論会の主催者 梁建章氏
「すぐにでも出産奨励の政策を掲げなければ、少子化傾向は変えられません。」

さらに、そもそも子どもをもうけない選択をする若い夫婦も、出始めています。
広告業を営む李濛さんと、会社員の夫、李晶さん夫婦です。
夫婦の月収は合わせて60万円余りと、平均的な家庭より豊かな生活を送っています。

李濛さん
「イタリア製の有名ブランドです。」

おしゃれな家具や、スニーカー収集などの趣味にお金をかけ、生活を楽しんでいます。

李晶さん
「私のだけで70足ほどあります。」

妻の李濛さんは、こうした生活を中国版ツイッターのウェイボーで紹介し、フォロワーが100万人を超えて、表彰を受けるほどの人気です。
夫婦ともに仕事を続ける前提で、それぞれの両親には子育てで手を借りたくないとの理由から、子どもを作るつもりはありません。
去年、ウェイボーでその考えを投稿したところ…。
多くの人から賛同する意見が寄せられました。

李晶さん
「産む産まない、何人産むかは個人の意思だと思います。」

李濛さん
「若い世代にとっては産む産まないだけでなく、結婚するかどうかも問題になると思います。」


原因と背景

酒井
「ここからは中国の政治や社会の現状に詳しい、神田外語大学教授の興梠一郎(こうろぎ・いちろう)さんに伺います。」

酒井
「中国での少子化、なぜ歯止めがかからないのでしょうか?」

神田外語大学 興梠一郎教授
「もともとは人口が増えすぎたところに、強制的に『一人っ子政策』というのがありまして、それにみんなが慣れてしまっているというのがあります。
あとは経済が発展するにつれて、特に都市部は高学歴、共働きというのが増えていますので、親の介護の問題もあります。
なんといっても住宅費、ローンと教育費。
いろんな塾に通わせたり受験戦争も激烈ですので、そういったことも含めて生活コストもいろんな意味で高い。
自分の自由時間を享受したいと。
日本にもそういった人たちが、スキーツアーなどで遊びに来るわけです。
そういうパターンだと思います。」

花澤
「子どもをたくさん持って生活が苦しくなるくらいなら、良い所に住んで、良い物を買って生活水準は高くいたいという文化というか、風潮になっていると?」

興梠一郎教授
「やはり高学歴になればなるほど、そういう傾向はあります。
子どももいらない、結婚もしないという人も結構います。」

花澤
「そうすると、かなり構造的な問題ということになりますよね?」

興梠一郎教授
「中国は2つの世界があるので、農村はもともと3分の2くらいの地方は、最初が女の子だったら4,5年経ってもう1人産んで良いというのがあります。
ですので2人子どもがいたり、罰金を払って3人目がいたり、が普通なのです。
今の都市の例ですが、常に両方頭に入れておかないといけない。
恐らく政府は、両方見ていると思います。」

花澤
「そうすると、少なくとも都市部でいいますと、そういう構造が変わらない、この流れは止まらないということになっていくのですか?」

興梠一郎教授
「ですから制限を外して『2人産んでも良い』と言うと、元から欲しかった人にとっては罰金も払わなくて良いし、場合によっては仕事の面で不利になっていたりもしていたので、2人目が欲しい人は良いですよね。
農村は別ですよね、もともとはそういう状況でしたので。
しかし、増えないというのはやはりコストが高い。
産むコスト、育てるコストが非常に高いといって、やはりちょっと控えるということになります。」

花澤
「そうしますと、この傾向は長期的には続いていくということになる?」

興梠一郎教授
「今回の全人代でも、そういう奨励をしなければいけないとありましたが、税控除や、保育園・幼稚園の施設などのインフラの充実、あとは当然、少子化・高齢化問題なのです。
親が安心して老後を送れるように、自分たちは働いて、親も誰かに面倒を見てもらうという、いわゆる介護の社会化・社会サービスが充実していない。
特に農村などはそうですから、そうしたインフラはしっかり整えないと、産めと言われてもという感じですよね。」

中国社会の課題

花澤
「少子高齢化というと、私たちの日本も本当に深刻な問題ですけれども、中国の場合で言えば、高齢者はどんどん増えていく、労働人口が相対的に小さくなっていくわけですね。
そうすると社会保障はどうするのでしょうか?」

興梠一郎教授
「中国では、必ずこの問題はキーワードで出てきます。
まだ豊かになっていないのに、高齢化が始まった。
決まった言い方があるのです。
あとは、人口が異常に多い。
そこへきて、高齢化が始まると少ない若い人で支えなければいけないというシステムが出来上がっている。
若い余剰労働力というのが農村から出てきて工場で働いて、メイド・イン・チャイナを作って外国にどんどん輸出する。
外貨を稼いで経済を回し、農村へ送金が行われる。
こういう経済になっているのです。
しかし、最近の米中の経済の貿易摩擦もそうですけれども、ずっとこの輸出依存型の経済でやっていくわけにはいかないという問題は、もともとありました。
そこへきて、若い労働力が減っていくということになると、今のモデルが成立しないのです。
ですので、全く違った経済の形態に変えていかないといけない。」

政府の対策は

花澤
「習近平主席体制としては、先端技術産業、高度な技術のある産業にシフトしていくというふうに、国を導いて行こうとしているわけですね。
そういう中で、この少子化の問題というのはどういう影響を与えるのでしょうか?」

興梠一郎教授
「現存の体制を維持して変えながら、新しいものを作っていかなければならないので、いきなりやるわけにはいきません。
目の前に一番問題としてイメージしているのは、高齢化が進んで少子化が進むと、誰が面倒を見るのかということが大きな問題としてあると思うのです。
先端技術を担うような人材も同時に育てていかなければならないけども、今の人口構成を見た時に、そもそも高齢化をどうするのかという問題。
すべて財政で賄うことができない。
介護保険ですらなかなか難しいと考えているので、人間を増やして多くの人間で支えていこうという、昔ながらの考え方です。
毛沢東もそうでした。」

花澤
「そうしますと、中国政府や地方政府が、借金をしてでも年金を上げますというふうにはならない?」

興梠一郎教授
「年金基金自体が赤字になっている地方が、かなり多いのです。
積立などをしてもなかなか賄えないというのがあり、そこも財政面で相当補填していかないといけないので、できれば在宅介護や子どもに面倒を見てほしいというのが本音でしょうね。」

中国経済へのインパクト

花澤
「しかし、一人っ子どうしの夫婦が一人っ子を持つということになりますと、その孫世代1人に対して、高齢者が4人いるという構図になりますよね。」

興梠一郎教授
「一人っ子どうしの場合は、2人産んで良いという話もあるのですけれども、一人っ子どうしが1人と決めた場合、この構図が出来上がってくると非常に負担が重いです。
あと、一番先に解決しなければならないのが、生活のコスト。
教育費とか、特に都市部は住宅ローンです。
家庭内債務もかなり増えているので、国がエコノミー住宅というか、日本で言えば公団住宅の賃貸住宅のようなものをどんどん増やしていくとか、生活のコストを下げていかないと相当な負担になってくる、そこができていないのです。」

花澤
「2人産んでも良いですよと言うだけではなくて、子どもにお金を回せるように住宅費を下げる。」

興梠一郎教授
「補助金を出すとか、税控除をするとか。
特に住宅と教育費が上がり方が普通ではないので…。
ただ、不動産が上がることによって経済がもっていたわけです。
不動産に、かなり依存した経済なのです。
そこは政府としては下げたくないのです。
金融がおかしくなってしまう。」

花澤
「そうしますと、出口はありますか?」

興梠一郎教授
「過去を見ますと、毛沢東は『人が多いと力になる』と言ってどんどん増やして、野放しの状況で避妊措置も取らせないくらいの状態だったわけです。
それが急激に一人っ子政策で締め上げて、また減り過ぎたから増やそうという、人を増やしたり減らすことによって、システムを維持しようとしています。
それは無理でしょうね。
やはり、社会全体でどうやって少子高齢化に順応していくか、システム全体を変えていかないと国民に負担を押し付けているわけですから、それを突き付けられた場合に国家としてどう対応するか。
社会システム、経済システムを先進国型に転換しないといけない。」

花澤
「やはり少子高齢化の対策というのは、どこの国にとっても難しいということでしょうか。」

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