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特集

2019年2月28日(木)

徹底分析・米朝首脳会談

 
放送した内容をご覧いただけます

花澤
「世界が注目した米朝首脳会談は、思わぬ結果を迎えました。」

酒井
「スタジオには、昨日(27日)に引き続き、外交評論家の岡本行夫さんと早稲田大学大学院教授の李鍾元さんです。」

花澤
「お2人には今回の結果について、ひと言で表していただきました。
まずは岡本さん。」

外交評論家 岡本行夫さん
「今回の会談は、行うべきではなかったと思います。
準備不足で、両者の差は非常にあった。
だから、トランプ大統領の周囲は“大統領、まだ時期尚早です”と止めたと思うんです。
それをトランプ大統領は政治的な賭けに出て負けたということではないでしょうか。」

花澤
「李さんは?」

早稲田大学大学院教授 李鍾元さん
「キム委員長の誤算、このことに尽きると思います。
国内にも大々的に宣伝をしながら、アメリカの首脳との差しの勝負という触れ込みでハノイ入りしたんですけれども、こういうかたちで決裂するのは到底、想定していなかったと思いますし、最高指導者としての威信にも大きく傷がつきました。
大きな誤算だったと思います。」

酒井
「お2人には後ほど、じっくりと分析していただきます。
ベトナムで開かれていた2回目の米朝首脳会談では、非核化の進め方を巡って合意に至りませんでした。」

2回目の米朝首脳会談 合意至らず

日本時間の夕方、トランプ大統領が記者会見を行い、非核化の進め方を巡り合意に至らなかったと明らかにしました。

アメリカ トランプ大統領
「今日、合意もできたが、そうすれば“ひどい合意”と言われただろう。
急ぐのではなく、きちんとしたかった。」

一体何があったのでしょうか。

今朝、始まった2日目の首脳会談は、通訳だけを交え、友好的な雰囲気でスタート。

アメリカ トランプ大統領
「この先、すばらしい成功がある。
北朝鮮は経済的に成功する。
北朝鮮を支援することができると期待している。」

北朝鮮 キム・ジョンウン委員長
「私たちが隣あって座っているのは、さながらファンタジー映画の1シーンかと思われるだろう。
よい結果になるように最善をつくす。」

その後、2人が会話を交わす様子も。
そして、それぞれの側近を加えて拡大会合が行われました。
アメリカ側は、ポンペイオ国務長官、ボルトン大統領補佐官とマルバニー首席補佐官代行も同席しました。
一方の北朝鮮側は、キム・ヨンチョル副委員長やリ・ヨンホ外相が参加。

冒頭、極めて異例なことが…。
外国の記者からの質問に、キム委員長が直接答えたのです。

記者
「キム委員長、非核化に向けて準備は整っていますか?」

北朝鮮 キム・ジョンウン委員長
「その意志がなければ、ここに来なかっただろう。」

記者
「具体的な措置を準備しているのか?」

北朝鮮 キム・ジョンウン委員長
「その話をしている。」

アメリカ トランプ大統領
「すばらしい。
これまでで一番いい答えじゃないか。」

さらに、キム委員長はメディアに対し…。

北朝鮮 キム・ジョンウン委員長
「話が十分にできる時間をもらいたい。
1分でも時間を無駄にできない。」

交渉の時間を確保させてほしいと頼む場面もありました。
ところが…。

記者
「昼食会は取りやめ?」

「予定に変更がありました。」

予定されていた昼食会が取りやめに。

さらに、合意文書の署名式も見送られました。

「キム委員長を乗せた車が、予定よりも早くホテルを出発しました。」

そして、アメリカ側の会見が、当初の予定から2時間前倒しで行われました。

アメリカ トランプ大統領
「北朝鮮は制裁の完全な解除を求めたが、それは受け入れられなかった。
北朝鮮は大部分の非核化をする用意があったが、やはり完全な制裁解除には応じられなかった。」

また、北朝鮮のニョンビョンにある核施設については。

アメリカ トランプ大統領
「(北朝鮮側は)廃棄はするが、それには制裁解除が条件だ。」

キム委員長が、廃棄する意思を示したものの、アメリカとしては他の核施設の廃棄も要求し、折り合えなかったと明らかにしました。
連日、キム委員長のベトナム訪問を取り上げていた北朝鮮の国営メディアは、これまでのところ、今日(28日)の結果について、伝えていません。



アメリカ側の分析は?

酒井
「ハノイで取材に当たっている石部記者、高田記者と中継がつながっています。
まずは、アメリカ側の受け止めについて、ワシントン支局の石部さん、今回、なぜ合意に到らなかったのでしょうか?」

石部俊記者(ワシントン支局)
「アメリカは、北朝鮮が認めてこなかった核施設やミサイル施設についても行程表で時期を示して、廃棄に応じるよう求めた模様です。
対して北朝鮮が廃棄に応じるとしたのは、ニョンビョンなど一部の施設にとどまり、同時に制裁の解除も求めたようです。
トランプ大統領は米朝関係の改善など、非核化の『見返り』の部分を強調してきました。
しかし、結局は非核化をどう進めるか、双方の基本的な立場の隔たりが大きかったということです。」



トランプ政権 今後の出方は

花澤
「トランプ大統領にとって、これは大きな打撃ということになりますか?」

石部記者
「確かに北朝鮮との合意を外交的な成果としたい思惑はありました。
ただ、北朝鮮が核やミサイルの施設を温存しながら取り引きをしようとしていることには、トランプ政権内でも反発の声が公然と上がっていました。
ですので、トランプ大統領は中途半端な合意を交わすよりは、批判が抑え込めると判断したのだと思います。
ただ、交渉はさらに難しくなります。
今回の会談に向けて、ビーガン特別代表らは、かつて『米朝枠組み合意』を結んだクリントン政権の元高官らに接触し、当時の経験を参考にしながら交渉に当たってきました。
しかし当時と違って、核を保有した北朝鮮は、非核化には簡単に応じませんでした。
戦略の練り直しは避けられないと思います。」



北朝鮮への影響は

酒井
「続いて、北朝鮮側の受け止めについて高田記者に聞きます。
合意に到らなかったことは、北朝鮮にとって打撃となるのでしょうか?」

高田和加子記者
「打撃になると思います。
北朝鮮が外貨獲得の柱としていた中国への輸出は、すでに9割近く減っています。
今回、制裁の緩和を引き出せなかったことで、今後も経済発展に必要な外貨の獲得は難しくなります。
また、ケソン工業団地の操業や、クムガン山観光事業といった南北の経済協力事業の再開などは、北朝鮮側には、国連制裁の例外として認めてくれるのではないかという期待があったと思います。
これについては、韓国側も再開に向けて前のめりな姿勢を示していましたが、結局、アメリカの後押しは得られず、キム委員長は何も手にすることなく、会談を終えたかたちとなりました。」



米朝関係 見通しは?

花澤
「今回、合意できなかったことで、米朝関係に変化はあるでしょうか?」

高田記者
「これまで北朝鮮側から会談に関する反応は一切ありません。
北朝鮮が態度を変化させたかどうかは、このあとの国営メディアの報道ぶりを見る必要がありますが、北朝鮮にとって、アメリカの大統領と直接交渉ができるという好機を失うことは得策とは言えないでしょう。
ただ、キム委員長は新年の演説で、アメリカが約束を守らず、制裁と圧迫を続けるなら、自国を守るために新たな道を模索せざるを得なくなると発言していました。
この新たな道というのが何を指すのか、具体的には分かっていませんが、今後は制裁緩和に積極的な中国やロシアとの関係を強化しながら、アメリカとの駆け引きを続けると見られます。」



何が起きたのか?

酒井
「改めましてスタジオには、外交評論家の岡本行夫さんと早稲田大学大学院教授の李鍾元さんです。」

花澤
「まず、この2日間にわたった会談で、一体何が起きたのかというところから始めたいと思うのですが、それをうかがい知るには、トランプ大統領の発言が一番情報がありますので、そこから見ていこうと思います。
まず、最初の発言はこちら。」

酒井
「『彼らはニョンビョンの施設を解体する用意があると表明したが、彼らは制裁を完全に解除することを求めた』。」

花澤
「この発言、昨日、ニョンビョンについては廃棄・査察ぐらいは北朝鮮は約束できるのではないか。
それに対して、経済制裁の緩和、特にケソン工業団地の再開、あるいはクムガン山観光といったところが、交渉のつばぜり合いになるだろうという話だったのですが、緩和どころか完全に解除と、かなり要求が高かった。
とても釣り合うとは思えないのですが、まず岡本さん。
このトランプ大統領の発言、率直に驚きはありませんでしたか?」

外交評論家 岡本行夫さん
「いや、これはこういうことだったのではないでしょうか。
つまり、ニョンビョンの廃棄は、すでにキム委員長は世界に対して言っていることです。
だから、これだけを成果として持ち帰るわけにはいかないから、他の核施設も廃棄しろと。
大事なのは、(核・ミサイルの)完全申告です。
どこにどういう施設があるのか。
それに対して、それならば全部を緩和しろと言ったのでしょうが、それはとてもだめだということだった。
だけど、それは普通は事務的に詰めておく話です。
いきなり首脳同士でやってもうまくいくわけがない。
だから、これは失敗すべくして失敗した会談だと思います。」

花澤
「完全な解除の要求でしたが、李さんはいかがでしょうか?」

早稲田大学大学院教授 李鍾元さん
「それは少し驚きでした。
アメリカのいろんな経過の報道なので、真相かどうか分かりませんが、ニョンビョンの廃棄は去年(2018年)9月から言っている。
その代償として、制裁の緩和を求めているだろうと。
ただ、それに対してアメリカは消極的だった。
どちらかというと政治的な見返りは用意がある。
連絡事務所の話が出ましたし、終戦宣言も言葉だけなら何とか。
だけれども、制裁は実態に影響するので、これらはニョンビョンだけではだめだと報道されたりした。
その代わりに南北の経済協力の中でもハードルの低いクムガン山とかをどうか、というレベルだと思ったのだけれども、ニョンビョンの廃棄で経済制裁の全部の撤廃というのは釣り合いがとれない要求なので、なぜ北朝鮮がそうしたのか分析が必要だと思います。」



北朝鮮が要求した“完全な”制裁解除

花澤
「それについて、アメリカ側の受け止めと言いますか、驚きとも受け取れる発言もトランプ大統領からありました。」

酒井
「『とても重要な部分を占める施設だが、それ以外にも非核化を進める必要がある』と、ニョンビョンの核施設について述べました。」

花澤
「ニョンビョンだけではとてもだめで、残りもいろいろあるでしょ、という発言ですよね。
これはある意味、当然の発言ですかね?」

早稲田大学大学院教授 李鍾元さん
「メディアとかではプラスアルファで言われたんです。
ニョンビョン以外にも施設があるのではないかと。
ビーガン代表も『beyond Yongbyon』という表現をしたりした。
当然、アメリカの主張は経済制裁の緩和がほしければ、他のプラスアルファを持ってきなさいというふうに言われていたんですけれども、プラスアルファは全く出さずに、逆に制裁も全面撤廃ということを言い出したので、本当に何が起きたのか、どういう計算なのかが注目点です。」



会談結果 どう評価?

花澤
「ポンペイオ長官から、こんな発言もありました。」

酒井
「『我々はキム委員長に対して、もっと踏み込む準備があるかと質問したが、キム委員長はその準備ができていかなった』。」

花澤
「ということは、制裁の完全な解除まで求めるという非常に無理難題を北朝鮮側は出してきて、それじゃ無理ですと言ったときにプランBもなかったということになりますよね。
岡本さん、これはどうなのでしょうか?」

外交評論家 岡本行夫さん
「今度の会談は、トランプ大統領にとってみれば国内向けの政治ショーです。
まともに合意をまとめるための案は持っていっていない。
それから、キム委員長にしてみれば、核を廃絶する気は毛頭ありませんから、いかにして時間を稼ぐか。
これでまた半年先の会談まで、半年間は時間稼ぎになったわけです。
キム委員長は大きな成果を得たと思います。
これで決裂しないで協議継続と。
国内では“アメリカ大統領相手によくやった”と歓呼の声で迎えられるのではないですか。
トランプ大統領のほうは、もともとこの会談日程の設定が同日に行われたコーエン証言にぶつけて潰すため。
つまり、紙面を会談で独占するための政治的な賭けですから、中身を詰めずにいったという感じがしてなりません。
それもうまくいかなかった。
それならば、決裂させたほうが国内の彼の政治基盤との間では有利になるということで、割合早くこれじゃだめだということでやめてしまったんじゃないですか。」

花澤
「今回、なぜ決裂の判断が起きたのかという部分に移っていきたいと思います。
アメリカ、北朝鮮それぞれ今回の会談に向けた思惑として、アメリカ側は、北朝鮮も決裂になるとアメリカ側の圧力が高まりかねないという懸念は持っているだろうという見立てもありました。
一方、アメリカ側の事情としては、何らかの成果を出したい、政治的なアピールをしたいという思惑があったはずです。
北朝鮮側は、なぜここまで高い要求をしてきたのか?」

早稲田大学大学院教授 李鍾元さん
「そこらへんが、先ほどのポンペイオ長官の話、つまり、キム委員長に踏み込む用意があるかと聞いたら、用意ができていなかった。
非常に重要な発言で、アメリカのある種の見方を示していると思うんです。
キム委員長が指導者となり、特に2017、18年ごろから経済重視を打ち出したり、従来の指導者とは違うアプローチを自ら示してきた。
去年のシンガポールでの会談でも、従来の発想にとらわれない形でアプローチしたり、何か戦略的な決断をにおわすようなことを言ったので、ちょっと踏み込んでくれるのではないかと、ある種の期待感があったのは事実です。
だから、トランプ大統領もポンペイオ長官も近寄ってみた。
アメリカが去年から言っているのは、これから増やす核ではなく、現在持っている核。
今日の会見でも核弾頭とICBMということを言及しました。
そこに踏み込む余地があるのかどうかに興味関心があって、それを突きつけたけれども、キム委員長は意外とそれは用意ができていなかった。
私が気になるのは、キム委員長が戦略的な決断と言いながらも、持ってきたのは古いカード、古い手法。
そうすると、キム委員長は古い手法から脱していない人なのか、本人は何か考えたけれども、核に頼ろうとする軍部もありますし、保守派もいます。
キム委員長個人の限界なのか、あるいは構造的な制約なのか。
これが今後を見極めるポイントだと思います。」



なぜ北朝鮮は受け入れ難い要求?

花澤
「北朝鮮側が、なぜこんな高い要求をしてきたのかというところで言えば、トランプ大統領はキム委員長の発言に対して、“今までで一番いい発言じゃないか”という発言がありました。
あれは昨日の会談に、かなり不満を持っている感じが表れていたと思います。
それで昼食会が中止になって、このあと30分から45分だけ会談をやって終わりということになりました。
その時点で、“このままだと決裂する”というのがアメリカのメッセージですよね。
ですから、北朝鮮としては“さすがに要求が高すぎました。このへん(経済制裁の緩和、南北の経済協力の再開)で手を打ちます”という余地は30分間最後に残されたわけです。
それでもプランBを出さなかった。
決裂してもいいと思ったということなのでしょうか?」

早稲田大学大学院教授 李鍾元さん
「それが、おそらくキム委員長の考えがまだできていなかったのか、限界なのか。
あるいは、構造的な何らかの理由で、多くの専門家が、北朝鮮は最低限プラスアルファか何かあるだろうと期待をしたけれども、開けてみると何もなかった。
今回に限って言えば、交渉のスタイルや内容が古さから脱却していなかったということだと思います。」

花澤
「岡本さん、アメリカからすると、とてもこの要求は無理だなということにはなりますよね?」

外交評論家 岡本行夫さん
「そもそも今回まとめるつもりは双方ともなかったのではないですかね。
キム委員長が非常に高い要求をぶつけたのも、ある意味では、アメリカ側の瀬踏みをしたのかもしれません。
今までポンペイオ長官も事務的にいろいろやってみたけれど、全然動かないけれども、“トランプ大統領なら俺の言うことを聞くんじゃないか”、“トランプ大統領は俺のことを必要としているはずだ”ということでぶつけてみた。
しかし、トランプ大統領のほうも準備もないし、プランBもないし、“なら、だめだ”と言ってはねつける。
トランプ大統領側としては、むしろ決裂させた姿を明白にアメリカ国内に見せたほうが、特に彼の支持基盤である保守層にとってはいいという判断になって、昼食会ぐらいやればいいとみんな思うでしょうけど、それもやらずに蹴ってしまったということではないですかね。」



“成果なし”決断の思惑は

花澤
「しかし、ある意味では、2回も首脳会談をしておいて非核化に向けた本質的な前進が全くなかったということになるわけです。
トランプ大統領にとっても、かなりリスクがある、批判を浴びるおそれはあると思うのですけれども、事前にやめる判断にはならなかったのでしょうか?」

外交評論家 岡本行夫さん
「うまくいくと思ったのではないですかね。
国内では、アメリカ議会の中でトランプ批判の大嵐が吹いているから、それを潰すために、わざわざぶつけたわけです。
今日の記者会見を見ていておもしろいと思ったのは、今までになくアジア系の記者ばかり当てていました。
この人たちは真面目な質問しかしませんから。
アメリカの記者、特にホワイトハウス関係の記者は1人も当てられていないです。
国内への跳ね返りを最大限に防ぐ。
それが最初からトランプ大統領の最大の動機だったのではないですか。」

花澤
「アメリカの記者に聞くと、ロシア疑惑、コーエン証言についての質問ばかりになるだろうから、それを避けたかったということなのですね。」



今後の交渉は?

花澤
「李さん、今後ということになりますが、これで一応決裂というかたちになって、ポンペイオ長官が今後についての発言をしています。」

酒井
「『数週間後に話し合いが再開できるといいと思う』という発言です。
そして、トランプ大統領は『次回の首脳会談について約束はしていない』と。」

花澤
「つまり、首脳会談の見通しは全然立っていない。
ある意味、白紙の状態で、今後、事務レベルなのか高官レベルなのかで話し合いをしましょうと。
こういう発言が出てきているのですが、これは北朝鮮にとってはどうなのでしょうか?」

早稲田大学大学院教授 李鍾元さん
「北朝鮮にとっては非常に困っていると思います。
アメリカが示しているのは、精一杯たたいて、アメリカが優位に立ったかたちで“交渉に戻っていい。首脳会談は約束せずに高官レベルの協議をしよう”というメッセージ。
しかも、アメリカの要求条件が明確に出たところで、北朝鮮が、言ってみれば弱いポジションで、頭を下げて戻ってこざるを得ないという構図に戻ってくるのか。
しかも、戻ってくるだけではなく、アメリカが要求したICBM、あるいは核弾頭、他の核施設、こういうものに踏み込んだ提案を持ってこられるかどうかというのは、非常に難しい。
指導者の威信が傷ついたので、一定の期間を置かないと、“はい、分かりました。もう一度まとめてきます”とはなかなかいかないので、このへんどうかなと思います。
ただ、北朝鮮は帰りに中国に寄る可能性もあるので、中国も決裂しないように調整しようとする動きがあるでしょうから、その力を借りながら打開の道を探る。
おそらく、北朝鮮はそういうことしかできないのだろうと思います。」

花澤
「ここでお2人の見方が全く分かれるわけですよね。
李さんは、これは北朝鮮にとってかなりのプレッシャーで、何かしないといけないということなのでしょう。
岡本さんは、狙い通りで、これでまた時間を稼げる。
そして、それが事実上の核保有国につながっていくんだということですか?」

外交評論家 岡本行夫さん
「経済規模からいって、北朝鮮はアメリカの実に1100分の1、小さな国です。
このねずみが象にかみついて、振り回しているわけですから、それは痛快じゃないですかね。
だから、これでキム委員長が国内で傷つくということはないのではないでしょうか。
ただ、トランプ大統領も忍耐がどこまで続くか試しながら、少しずつ時間を引っ張っていくということではないでしょうか。
トランプ大統領のほうが政治的には時間もないし、焦ってくると思います。」

花澤
「忍耐力を試すということは、やはり圧力政策、あるいは軍事的圧力の政策に戻られては困るという思いがあると。
だけど、当面はそうならないだろうと見ている?」

外交評論家 岡本行夫さん
「もうならないだろうと。
今だって信頼する男だと言われているわけですから。
とてもいいやつだと。
客観的に言って、いきなりアメリカが北朝鮮を空爆することはないでしょう。
トランプ大統領のほうは、一番の目的は2020年の大統領選挙、いかに交渉からいいニュースを選挙区に届けられるかということですから、それまでに朝鮮戦争の終戦宣言とか在韓米軍の撤退とか、そういうふうに方針を切り替えていくのではないでしょうか。」

花澤
「つまり、アメリカ側の足元を見て、どうせ厳しい政策には転換できないと思ったのだろうと。
李さんは、むしろその点は怖がっていると?」

早稲田大学大学院教授 李鍾元さん
「北朝鮮の中にもいろんなグループがあったり、あるいはキム委員長の中で考え方が統合されているかどうか分かりませんが、例えば軍部とか核に依存しようとすることを、北朝鮮では『宝剣』と言っていますので、そういう人からすると非核化が進むと困る。
逆に、場合によっては今、核実験とかミサイル実験がモラトリアムでできなくなっていますけど、これもきついわけです。
本当はもっと改良したいわけで、そういう不満がある。
非核化は進んでほしくないけれども、もう一方では経済状況が非常に厳しい。
さらに、キム委員長は経済にも軸足を置く。
その観点からすると、今回の結末、あるいは今の状況が続くことだけでも北朝鮮はつらいので、この2つの矛盾を抱えているんです。」

花澤
「制裁については、トランプ大統領からこんな発言がありました。」

酒井
「『北朝鮮には、すでに強い制裁が科せられていて、今後強化するかどうかについては発言を控えたい』。」

花澤
「制裁強化について聞かれて、今後強化するかどうか発言を控えたいと、一応、含みを持たせている。
これが北朝鮮にとっては、かなりプレッシャーになると李さんはお考えですか?」

早稲田大学大学院教授 李鍾元さん
「そういう意図です。
今もすでに制裁は科されていますし、それを維持するとトランプ大統領は繰り返し言っています。
そのプレッシャーを加えた上で、北朝鮮の今後の対応次第では、さらに強化するという含みも残しながら、逆に今すぐに制裁を強化するとか、いい回答を持ってこないといった刺激はしない。
今回の記者会見でも、条件は非常に厳しいものの言葉はフレンドリーで、これまでは生産的だったとか。
どちらかというと、北朝鮮を今の枠組みの中に閉じ込めた上で、引き出したいのだろうと思います。
そこから出た発言です。」

花澤
「今後、トランプ政権が圧力政策に戻るのかどうか、そこが最大のポイントになるのでしょうか?」

外交評論家 岡本行夫さん
「明らかに北朝鮮は制裁に対して、今までほどの危機感は感じていないのではないですかね。
中国からほぼ自由に物品が入り始めたし、ロシアも制裁に協力していない。
だから若干、経済的にはまだ余裕がある。
その中でも、できるだけトランプ大統領との友好関係は維持しながら、時間稼ぎをして、完全な核武装国家になるために全力を尽くしていくと。
ちょっと悲観的ですけど、私はそう思います。」

花澤
「つまり今後、数週間という期間の中で、北朝鮮が何らかの歩み寄りを見せるのか。
あるいは、待ち切れずにトランプ政権が圧力政策に戻るのか、というところが焦点になるということですね。」

酒井
「ここまで外交評論家の岡本行夫さん、そして早稲田大学大学院教授の李鍾元さんとともにお伝えしました。」


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