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特集

2019年2月18日(月)

アルゼンチン 通貨安の光と影

 
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「我々を餓死させるな!」


経済危機に直面している、南米アルゼンチン。
その大きな原因の1つが、アルゼンチンの通貨「ペソ」の下落です。


米FRB パウエル議長
「さらなる利上げが最善だ。」


アメリカの政策金利の引き上げで、投資マネーがアメリカへ集中。
ペソの通貨安は止まらず、物価は上昇。
多くの企業が経営悪化に苦しんでいます。

印刷会社 社長
「(経済が)よくなるとは思えません。」


通貨安に苦しむアルゼンチン。
しかし今、街ではこんな光景が。

店長
「大繁盛です。」


外国人観光客
「すごくおいしいし、とっても安いわ。」


南米第二の経済大国、アルゼンチン。
通貨安がもたらす光と影とは…。

アルゼンチン 通貨安の光と影

酒井
「通貨安による急激なインフレが市民生活を直撃し、危機的な経済状況に陥っているアルゼンチン。」

花澤
「アルゼンチンは、この逆境から立ち直れるのか。
まずはその現状について、松岡さんからです。」

松岡
「人口4,400万のアルゼンチン。
国土は日本のおよそ7.5倍の面積で、農業や畜産業を主要産業とする南米第2位の経済大国です。
こちら、ここ10年ほどのGDP=国内総生産の実質成長率です。
2010年には経済が好調だった隣国ブラジルの恩恵を受け、高い伸びを記録していました。
しかし、その後、ブラジル経済の成長が鈍ると、アルゼンチンもともに低迷していきます。

さらに、経済低迷の要因となっているのが、為替レートです。
アルゼンチンの通貨ペソ。
10年前は1ドルに対して3ペソ台でしたが、2016年頃から政府の財政緊縮にアメリカの利上げも重なり、一気に通貨安が進行。
昨年(2018年)には、一時、1ドル=40ペソ台にまで。
現在も1ドル=30ペソ後半と、10年前のおよそ10分の1という低い水準での取り引きとなっています。
その影響で物価指数も上昇。
前年同月比で、およそ50%も高くなっています。
八方ふさがりにも思えるアルゼンチン経済。
しかし今、ある変化が見え始めています。



リポート:小宮智可支局長 (サンパウロ支局)

首都ブエノスアイレスにある印刷会社です。
企業向けに、カレンダーや会計用の書類などを印刷していますが、2010年に1,400社あった取引先が、今では400社にまで減るなど、業績が落ち込んでいます。

印刷会社 経営者 セバスチャン・ネグリさん
「注文の量が激減しました。」

去年から今年(2019年)にかけて、人件費を減らすため、12人いた従業員のうち4人を解雇しました。
それでも通貨安により、輸入する紙やインクの価格が2倍以上に跳ね上がり、厳しい経営を強いられています。

印刷会社 経営者 セバスチャン・ネグリさん
「今後よくなる見通しはありません。
今はじっと耐える時期なのかもしれない。」

通貨安に苦しむアルゼンチンの人々。
ところが今、その通貨安をチャンスに変える動きが出始めています。

ブエノスアイレスの中心部にある、ステーキ店です。
最高級の肉やワインを楽しもうと、連日のように多くの人が訪れ、長蛇の列となっています。

人気の秘密は、安さです。
最高級の牛肉のステーキは、500グラムでたった20ドル。
日本で注文すれば、1万円以上するワインを一緒に頼んでも、合わせて50ドル程度。
1年前の半分くらいの価格で楽しめます。
客の多くは、外国からの観光客です。

オーストラリアからの観光客
「おいしい!
大きくて、誰かと分けてもいいくらいだわ。」

アメリカからの観光客
「すばらしい!
柔らかくて最高だよ、完璧だ。」

店長
「いろいろな国から客が来ています。
観光が好調で(飲食業も)繁盛しています。」

急激な通貨安は、多くの外国人観光客を呼び込み、ここ3年、その数は右肩上がりに伸びています。

観光客増加の流れを軌道に乗せようと、行政も動き出しています。
これはブエノスアイレス市が企画したツアーです。
元大統領夫人で国民に親しまれたエビータなど、著名人のお墓を巡るものです。
このツアー以外にもアルゼンチン料理の体験教室など、50以上ものツアーを企画し、できるだけ長く観光客に滞在してもらい、外貨獲得につなげていこうとしています。

ブエノスアイレス観光担当者
「ドル相場の変動は大歓迎です。
観光客も増え、我々には好都合です。」

観光に加えて外貨獲得のため、今、アルゼンチン政府が力を入れようとしているのが、輸出の拡大です。

アルゼンチン マクリ大統領
「輸出の機会を増やしたい。
輸出はこの国の鍵だ。」

政府の政策を受け、主要産品である牛肉など肉類の輸出は去年、前の年と比べて39.8%も増えました。

さらに、新たな輸出の動きも。
ブエノスアイレス郊外にある豚肉の加工工場です。
アルゼンチンでは、これまで豚肉の加工品は主に国内だけで消費されていました。
この会社には、通貨安で競争力のある今こそ、海外へ売り出すチャンスだと目をつけた日本企業が、海外事業への参入を持ちかけています。

三井物産アルゼンチン 山口尚社長
「ここから輸出をして外貨を獲得することはアルゼンチン政府の政策でもあるので、政府とも利害が一致していることをやっていきたい。」

生ハム工場 責任者
「今は輸出にとても有利な為替相場なので、もっと商品の輸出に力を入れなくてはならない。」



経済復活への見通しは

酒井
「ここからは、サンパウロ支局長の小宮さんに聞きます。
アルゼンチン経済の復活、見通しは立つのでしょうか?」

小宮智可支局長(サンパウロ支局)
「そう簡単ではありません。
海外からの負債も多く、経済基盤はぜい弱なまま。
IMFの支援を受けていることもあり、公共事業への支出なども制限され、厳しい財政状況に変わりありません。
ただ、リポートでも紹介したように、現地を取材してみて、長引く通貨安を逆手にとってなんとか国の経済の復活に生かそうという雰囲気が出ているのは感じました。
アルゼンチンに拠点を置く海外の自動車メーカーや製造機器メーカーなど、一部の輸出企業が通貨安の追い風を受け、売り上げを伸ばし始めていることも、アルゼンチン国民の意識を変えつつあると思います。
こうした雰囲気が、これまで外資の導入や輸出に消極的だったとされるアルゼンチンの政府や企業に対して、外国企業とも積極的に協力しようという姿勢を後押しすることにつながっていると思います。」



鍵を握るのは大統領選挙

花澤
「通貨安を逆手に取るという動きですが、厳しい財政状況の中で、明るい要素のようにも見えますが、全体として今後のアルゼンチン経済、どう見ていますか?」

小宮支局長
「鍵を握るのは、今年10月に行われる大統領選挙だと思います。
現職のマクリ大統領は、IMFからの支援を受ける見返りに、公共料金の大幅な引き上げや公務員給与の制限といった緊縮財政を敷き、経済の立て直しを図っていますが、国民の間では政府に対する不満がたまり、各地でデモが相次いでいます。
選挙を控え、すでに野党側は『マクリ大統領はIMFの操り人形だ』と攻撃を強め、引き締め政策を緩めるよう求めています。
明るい兆しの見えてきたアルゼンチン経済ですが、マクリ大統領が選挙を見据え、人気取りのために緊縮財政を緩めてばらまきに転じたり、ばらまきを主張する対立候補が当選を果たしたりすれば、再び経済は混乱し、せっかく光の見えてきた経済に影を落としかねません。
国民の間で高まる不満の声を抑えつつ、いかに緊縮財政を続けていくのか。
まずは、10月の選挙に向けて、マクリ大統領の経済手腕が問われています。」


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