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特集

2019年2月6日(水)

AI人材獲得競争

 
放送した内容をご覧いただけます

酒井
「AIを扱う高度な人材、獲得をめぐる競争です。」

自動運転やロボットなどに使われる人工知能、AI。
その人材をめぐって世界で争奪戦が起きています。



自動車部品メーカー 人事担当者
「人材獲得競争は非常に激しく、新卒も中途も苦しい状況が続いていたので、海外に活路を求めた。」


優秀なAI人材を確保するため、国外に活路を求める日本企業の動きを追いました。

AI人材不足 国境を越える獲得競争

酒井
「今、人工知能、AIはあらゆる産業への導入が進み、すそ野が広がり続けています。」

花澤
「一方で、AIを担う技術者は世界で争奪戦となっていて、とりわけ日本は人材不足が深刻になっています。」

松岡
「『AI人材』とひと言で言っても、実際、どういう人材のことを指すのか。
IT人材の中でも、AIの技術に対応できる高度な技術者たちのことなんです。
こちら、専門知識を持つAIのプログラムの開発者、つまりAIを作る人たちがまず不足しています。
さらに今、大きく不足しているのが、企業でAIを導入したり、活用したりすることができる人材なんです。

例えば、ものづくりの現場では、生産体制の効率化のためAIの導入が進んでいます。
少し形が違う不良品は画像認識技術を使うことで、AIが自動的に判断できる時代になりました。
こうしたAI、基礎となるプログラムはAIの開発者が作りますが、企業によって製品の種類や形が異なるので、それぞれの現場にもAIを活用できる人材が必要になるんです。

こうしたAI人材。
ある調査によると、世界全体では100万人の需要があるのに対し、実際の人材は20万人。
つまり、80万人が不足しているということなんです。
特に日本では人材不足が深刻です。
こちらは海外のコンサルティング会社がまとめた調査結果です。
人材が最も足りない状態が10で、0に近づくほど足りている状態を指します。
G7の主要7か国に中国を加えた8か国での比較を見てみますと、日本の数字は10。
最も不足しているんです。
こうした実態を背景に、日本企業は今、人材獲得のため海外に打って出ています。」




ロンドンで行われた就職面接会。
人材を求める日本の大企業、およそ20社がイギリスに集いました。
一方の学生側は、ヨーロッパ各国から書類で選考された、およそ150人。
航空券など、学生の交通費は日本側が負担する熱の入れようです。

名古屋市から参加した大手の自動車部品メーカー。
AIについて知識がある即戦力を探しにきました。
こちらは、大学でAIを研究していたという学生。
すかさずラブコールを送ります。

ジェイテクト 人事部 水畑恭平さん
「いくらでもニコラさんが活躍する場所は、どっさりあるんですよ。」

ニコラさん
「ありそうですね、それうれしいですね。」

このメーカーがAI人材を積極的に獲得しようとする背景には、自動運転技術の開発競争があります。
主力製品は、車輪を動かす「ステアリング」と呼ばれる部品。

自動運転になれば、指示を出すのは、ドライバーからAIに代わります。
これに対応した部品の開発は、AI人材がいなければ進めることができません。
出遅れれば、競合他社に大きくシェアを奪われるおそれがあるのです。

ジェイテクト 人事部 水畑恭平さん
「人材獲得は非常に激しくて、新卒も中途も非常に苦しい状況が続いていたので、海外へ活路を求めた。」

企業が見極めたいのは、学生の持つ知識とスキルです。
この学生は、世界トップレベルの理系の大学でロボットなどを研究。
データ分析やプログラミングの高い技術も持っていることが分かりました。

ジェイテクト 人事部 水畑恭平さん
「今言えるのは、ほぼ確実に、複数の部署があなたを欲しがると思います。
我が社への入社を、強く勧めたいと思います。」

帰国後、この企業は、この学生を含む2人に内定を出しました。

ジェイテクト 人事部 水畑恭平さん
「国際性とかグローバリズムを持って、なおかつ才能のある人を採れるかどうかが、あす、あるいは未来への投資の一つだと考えています。」




リポート:木村駿介ディレクター(NHK名古屋)

AI人材をめぐる獲得競争が激しさを増す中、採用した人材をどのように定着させるかも大きな課題となっています。
半導体の設計などを行う企業です。
自動運転技術の鍵となる画像認識のAIを、3年前から開発しています。

会社ではかつて、海外で採用した優秀なエンジニアが半分以上辞めるという事態が起きました。
そこで、採用の方針を大きく転換。
日本のアニメや文化などに強い興味がある、いわば「日本マニア」を積極的に採用することにしたのです。

三栄ハイテックス 社長 間淵義宏さん
「日本に興味がないと、来てからもなかなか続かないし、日本の文化について理解しているし、勉強するし、日本語を分かることでより深くなる。
我々としては、非常に貴重な人材なんで。」

入社1年目の王一羽さん。
会社が採用した「日本マニア」の1人です。

三栄ハイテックス 社員 王一羽さん
「この本はゲーム向けのAIです。」

学生時代からAIを学び、中国企業からも内定をもらっていましたが、日本企業を選びました。
その理由は、なんと「ポケモン」。

三栄ハイテックス 社員 王一羽さん
「中学校からずっとポケモン好きです。
元気がないときとか、やはりポケモンを見ると、自分の心の中で『できる』と感じます。
癒やしになります。」

「日本マニア」は他にも。
台湾出身の李ギさんは、日本の「城マニア」です。
これまで40以上の都道府県を回った筋金入りです。

三栄ハイテックス 社員 李ギさん
「100名城としては今、67個、まだあと33個残っています。
まだまだ道は長い。」

会社では「日本マニア」を選んで採用するようになってから、長くとどまる人が増えたと言います。

三栄ハイテックス 社長 間淵義宏さん
「AIのエンジニアをどれだけ確保できるかは、会社の根幹に関わる問題なんで、僕の時間の半分をリクルートにつぎこむんです、海外含めて。
それくらい重要です。」


なぜ 日本で不足?

酒井
「取材したNHK名古屋の山田記者です。」

山田沙耶花記者(NHK名古屋)
「よろしくお願いします。」

花澤
「先ほどのAI人材不足の各国の票、かなりショッキングなんですけれど、日本が一番足りないということですが、なぜ日本はこんなに足りないのでしょう?」

山田記者
「そもそもAIを学ぶ学生が少ないのです。
理由について内閣府は、日本では理系の大学に進学する学生が少ないうえ、AIの分野に進む学生となると、その中でもさらに少ないのが現状だと説明しています。
また教育の面でも、エリートを選抜して育てる仕組みでないため、突出した人材が育ちにくいとも指摘しているんです。」



なぜドイツは確保できる?

花澤
「一方で、ドイツや中国は足りているということですけれども、これはなぜなのでしょうか?」

山田記者
「ドイツでは、1988年に官民共同でAIの研究所が立ち上げられて、マイクロソフトやアマゾンの研究開発拠点を誘致するなど、早くから人材確保に力を入れてきた経緯があります。
さらに、ドイツは2025年までにAI分野に30億ユーロを投資して、専門家の育成につなげるため100人の教授ポストを新設する計画を去年(2018年)11月に明らかにしているんです。
一方、日本はというと、研究開発費の規模や大学の専門学部など、人材を育成するための基盤がドイツや中国などと比べると出来ていないのが現状です。
さらに、せっかく育った研究者が、高い給料を支払う海外の研究機関や民間企業に引き抜かれるケースも後を絶ちません。」

花澤
「お金のかけ方が足りないということなんですかね。」



今後の対応は?

酒井
「今後、こうした人材の争奪戦は加速していくと思いますが、日本はどうしていくべきなのでしょうか?」

山田記者
「まず、待遇面で人事や給与などの環境整備が必要だと思います。
世界的な獲得競争が起きているAI人材は給与水準が高く、高度な人材の引き抜きは年俸億単位になることも珍しくないんです。
こうした傾向に対応するために、日本の情報通信企業の中には、AIなどの分野ですぐれた技術者を獲得するために、新たな人事制度を設けたところもあります。
これによって最高で1,000万円ほどだった年収を、能力に応じて2,000万円以上に引き上げて、AI人材の市場価格に対応しようという試みです。
激しい競争について行くためには、日本企業にも従来の考え方にとらわれない取り組みが求められているということだと思います。」


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