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特集

2018年12月10日(月)

ノーベル平和賞 「紛争下の性暴力」の実態

 
放送した内容をご覧いただけます

酒井
「ノルウェーの首都・オスロで、日本時間今夜(10日)9時から、今年(2018年)のノーベル平和賞の授賞式が始まりました。
今年のノーベル平和賞に選ばれたのは、『紛争下の性暴力』と闘う、コンゴ民主共和国のデニ・ムクウェゲ医師と、イラクの少数派、ヤジディ教徒のナディア・ムラドさんです。」


 

 

花澤
「ムクウェゲ医師は被害者の治療に当たる医師として、そしてナディアさんは、被害者の1人として、それぞれ『紛争下の性暴力』に立ち向かってきました。
今日の特集は、2人が根絶に向けて闘い続ける、性暴力の実態に向き合います。」

酒井
「ムクウェゲ医師が活動するのが、アフリカ中部のコンゴ民主共和国。
金やダイヤモンドなどの鉱物資源を巡って、20年以上紛争が続いています。
特に東部では中央政府の統治が及ばず、複数の武装グループが、今も戦闘を繰り広げています。
現地で横行する性暴力の実態について、多くの難民が逃れてきている、隣国のウガンダで取材しました。

 

ノーベル平和賞が照らす「紛争下の性暴力」

リポート:別所正一郎支局長(ヨハネスブルグ支局)

デニ・ムクウェゲ医師
「行動を迫られているのは、あなたであり、私であり、メディアです。
コンゴでの現実を伝えれば、人々を動かすことができます。」


コンゴ民主共和国の紛争地帯で、性暴力を受けた女性の治療や心のケアを続けてきた、デニ・ムクウェゲ医師。

ムクウェゲ医師が活動するコンゴの隣国、ウガンダに向かいました。

別所正一郎支局長(ヨハネスブルグ支局)
「ウガンダ西部の難民キャンプです。
隣国の、コンゴ民主共和国の紛争を逃れた人々が、次々に訪れています。」

5万人が身を寄せるこのキャンプ。
母国ではすさまじい暴力が横行しているといいます。

コンゴからの難民
「武装グループは住民を誘拐し、暴力を振るいます。」

コンゴからの難民
「大勢の人が殺されています。
集団で家を襲い、殺害するのです。」


国連などが開いた集会に集まる女性たち。

NGO職員
「無理はせず、できる範囲でお互いの経験を共有しましょう。」


コンゴで繰り返されている性暴力の被害者です。
武装グループは、女性たちを標的に、性暴力を繰り返し、敵対する地域の家族や社会の絆を破壊しようとしているのです。

難民キャンプ責任者 フレッド・キワヌカさん
「性暴力は地域社会を攻撃する “武器”のようになっています。
難民に話を聞くと、多くの家族が性暴力の被害を訴えます。」


クローディナ・ウイマナさん、28歳です。
コンゴの女性たちの現状を伝えるためならばと、取材に応じてくれました。
雑貨店を営んでいましたが、今年1月、自宅に押し入った4人組の武装グループによって夫は殺害され、自分は性暴力を受けました。

クローディナ・ウイマナさん
「レイプされているとき、このまま殺されると思いました。
なんと言ったらいいか…死ぬほど恐ろしかった。
今でも家の外を人が通るたびに、恐ろしくてたまらなくなります。」


襲撃の後、クローディナさんは夫を埋葬し、3人の子供たちを連れてキャンプに逃れてきました。
クローディナさんは、先月(11月)、女の子の赤ちゃんを生みました。
赤ちゃんの父親は誰なのか、はっきりと話そうとはしませんでした。

性暴力の犠牲になっているのは、大人の女性だけではありません。
まだ16歳のこの少女。
数か月間にわたり、繰り返し、性暴力を受けました。
今年2月、家族は武装グループに襲撃され、父親は足を怪我しました。
この時、少女は武装グループに拉致されたのです。
今年10月、ようやく解放された少女。
この時既に、お腹が大きくなっていました。

少女(16)
「男たちは 私が妊娠したことが分かると放置しました。」

大切に育ててきた娘に起きたことを思うと、両親は悲しみを隠すことができません。
キャンプに逃れて1か月。

この日、少女は、キャンプ内の医療施設で、体の状態を確認してもらいました。
少女は妊娠しておよそ6か月が経っていることが分かりました。
キャンプでは、性暴力を受けた被害者へのカウンセリングも行っています。
しかし、ようやく支援の手が届き始めても、苦しみは簡単には癒えません。

NGO カウンセラー ブリジット・ニャマテさん
「彼女たちは性暴力の場面を夢でみたり、突然思い出したりします。
苦しみは繰り返され、ずっと続いているのです。」


突然の襲撃、性暴力、そして妊娠。
16歳の少女は、自らに降りかかった過酷な経験を受け止めることができていません。

少女(16)
「住んでいた家を追われ、今は毎日妊娠のことばかりを考えています。」


次々に語られる壮絶な実態。
横行する性暴力に、女性と子供たちの苦しみが深まっています。


酒井
「自分と同年代の女性、そしてまだ16歳の少女がこんなに深い心の傷を負っているというのは、同じ女性として胸が痛みますね。」

花澤
「そしてまた、この心の痛みというのがずっと続いていくわけですよね。
非常に深刻だと思います。
被害者の治療だけでなく、心のケアなどで5万人以上の女性を救ったムクウェゲ医師について、ノーベル平和賞の選考委員会は、授賞理由について『戦時下の性的暴力の根絶に向けた闘争の国際的なシンボルだ』としています。
ムクウェゲ医師と共にノーベル平和賞を受賞するのが、イラクの少数派ヤジディ教徒のナディア・ムラドさんです。
ヤジディ教徒は、過激派組織IS=イスラミックステートに虐殺や性暴力を受け、ナディアさん自身もISに親や兄妹を殺害され、性暴力を受けた被害者です。」

酒井
「ヤジディ教徒の女性は今でも1,000人以上がISに誘拐されたままとみられ、さらに助け出された女性たちも性暴力の結果生まれてきた子どもたちについて深い悩みを抱えています。」

ノーベル平和賞が照らす 性暴力で生まれた命

リポート:柳澤あゆみ記者(カイロ支局)

ナディア・ムラドさん
「性暴力の被害者にとってはとても大きな日です。
世界が私たちヤジディー教徒の女性に共感してくれました。」


ナディアさんは、ISによる凄惨な性暴力を受けた被害者として、自らの体験を世界各地で訴えてきました。

ナディアさんの故郷に近い、イラク北部のモスルです。
激しい掃討作戦の末、去年(2017年)、この街はISの支配から解放されました。
街の孤児院には、ISの性暴力で生まれた子どもが残されていました。
1歳半の、この女の子。
母親はナディアさんと同じヤジディ教徒です。
生後わずか5か月でこの施設に預けられました。
ここには、同じようにISの性暴力で生まれたヤジディ教徒の子ども4人が暮らしています。

孤児院の院長
「子どもたちは“性奴隷の子”とも言われています。
“母親が奴隷にされる”という、悲惨な時代の犠牲者なのです。」


母親たちは、なぜ、子どもを手放したのか。
性暴力を受けた末、子どもを産んだ女性に話を聞くことができました。
マナル・キッチさんです。
ISの戦闘員によって、シリアに連れ去られ、2年にわたって拘束。
繰り返しレイプされました。
ひどい性暴力を受ける中、妊娠したことを知ったマナルさん。
自分をレイプした男の子どもなど、育てられないと途方に暮れました。
それでも、産まれた娘に母乳を与え、面倒を見るうちに、愛情を感じるようになり、この子を守りたいと思うようになったと言います。

マナル・キッチさん
「娘を愛しています。
血を分けたわが子ですから。」

その後、ISの支配が緩み、逃げる隙を見つけたマナルさん。
しかし、ISの戦闘員の子どもをふるさとに連れて帰ったら、殺されてしまうかもしれない。
悩みぬいた末、やむなく、1歳になる直前の娘をシリアに残し、逃げてきたということです。

マナル・キッチさん
「ヤジディの社会が許してくれれば絶対に娘を連れて帰ったのですが。」


ヤジディ教徒の社会では、異なる宗教の人との結婚や性交渉が厳しく禁止されています。

「強制的に産まされたからといってその子を連れ帰ることは宗教が許しません。」

「“ISの子ども”を育てるなんてあり得ません。」

  

こちらは、ヤジディの宗教指導者が示した見解です。

「地域社会に復帰できるように。」

性暴力の被害者については、社会で受け入れる判断を示しました。
しかし、ISの戦闘員との子どもについては一切触れていません。
宗教上の理由だけでなく、虐殺を行ったISへの人々の憎しみも深く、子どもをどうするかの判断には踏み込めないでいるのです。

ヤジディ教の宗教指導者
「ISはヤジディ教徒にひどい仕打ちをしました。
ISに家族を虐殺された人に “ISの子どもの面倒を見て”とは言えません。」


ヤジディ教徒の社会に受け入れられないわが子を、ISのもとに置き去りにせざるをえなかったマナルさん。
果たしてそれが正しかったのか。
今も、苦しみ続けています。

マナル・キッチさん
「いつも娘のことを考えています。
ドアが開くたびに娘がハイハイして入ってくるのではと思うんです。
ひと目だけでも会いたいと思います。
娘に服を買ってあげて、一緒に過ごせれば…。」

母親たちが抱える深い苦悩。
そして、生まれた子どもたちを待ち受ける、社会の拒絶。
「紛争下の性暴力」の被害は、次の世代にも、重くのしかかっています。

ノーベル平和賞が照らす「紛争下の性暴力」

花澤
「ここからは、授賞式の会場近くにいる柳澤記者に聞きます。
柳澤さん、授賞式で2人は何を訴えたんでしょうか?」

柳澤あゆみ記者(カイロ支局)
「はい。
こちらでは、つい先ほど、受賞者のナディアさんとムクウェゲ医師がそれぞれスピーチを行いました。」

ナディアさん
「栄誉ある賞を頂き、感謝しています。
しかし、私たちの尊厳を回復できる賞は世界にただ1つしかありません。
それは、犯罪者たちの責任を問い、正義を成し遂げることです。
もし、正義が成し遂げられなければ、弱者への集団虐殺が再び繰り返されるでしょう。
今日という日が、平和を優先し、女性、子ども、少数派、特に性暴力被害者を守るため、世界が道筋をつけることのできる、新たな時代の始まりの日になることを願います。」


ムクウェゲ医師
「責任を認めさせるために闘うことだけが暴力の連鎖を断ち切ることができ、正義のために闘う信念があれば、誰でも歴史の流れを変える力があるのです。」


ノーベル平和賞の授賞式という華やかな場ですが、2人共、笑顔はほとんどなく、今なお続く、被害の実情を世界に向けて切々と訴えました。
紛争下のさまざまな暴力の中でも、性暴力は、女性の体と心を深く傷つけるだけでなく、望まない相手の子どもを体に宿し、生まれてくる子どもにも苦痛を与えます。
こうした性暴力は、アフリカのルワンダや旧ユーゴスラビアの紛争など、過去の紛争でも繰り返されてきました。
しかし、被害を隠している人も多く、実態の把握すら進んでいないのが実情です。
次の世代にものしかかる、被害の連鎖をどうしたら食い止められるのか、難しさを感じました。」

酒井
「この問題、2人のノーベル平和賞をきかっけに変化の兆しはないのでしょうか?」

柳澤記者
「すぐに被害を根絶することは難しいとしても、2人の受賞でこの問題への関心が高まることは、大きな前進です。
ムクウェゲ医師は、今日のスピーチで『無関心こそが敵だ』と述べ、世界の人々がこの問題から目をそむけず、立ち向かうことが重要だと訴えました。
また、自らの体験を世界に訴えたナディアさんの存在は、同じような被害に苦しむ女性たちに勇気を与えています。
今回、私たちが取材で出会った女性たちも、日本の人に現実が伝わるならと、自分たちの体験をカメラの前で証言してくれました。
性暴力の被害者に対する支援は、徐々に広がってはいますが、まだまだ、全く足りていません。
2人共、世界の人たちに対して、ただ同情するのではなく、具体的な行動に出ることを強く求めています。
既に、何十年も前から国際社会の課題とされながら、解決の糸口が見えないこの問題。
この賞をきっかけに、性暴力を絶対に許さないという、断固たる意思と行動を広げていかなければならないと思います。」


酒井
「中継でも、ムクウェゲ医師『無関心こそが敵だ』とスピーチしたとありましたが、正直、私自身もここまで残酷な状況だとは知らなかったです。」

花澤
「性暴力が組織的に、支配、服従させるために武器として使われるという恐ろしい実態ですよね。
社会が偏見を抱えたり排除しようとすれば、その思惑どおりになってしまうと分かっていながらも克服が難しい、そこにこの問題の根深さがあるようです。
責任の追及、そして、正義のために闘うということを求めていました。
紛争をなくすこと、被害者の支援を行う体制を強化すること。
国際社会には、重い課題が突き付けられています。」

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