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特集

2018年11月26日(月)

介護現場に外国人材は来るのか?

 
放送した内容をご覧いただけます

花澤
「人手不足に悩まされている日本では、今、外国人材の受け入れ拡大に向けた法案審議が進められています。」

酒井
「特に人手不足が深刻なのが、介護の現場です。
団塊の世代が全員75歳以上になる2025年度には、34万人の介護職が不足するとも言われています。」

人手不足の介護現場 外国人材の受け入れは

松岡
「これまで日本は、10年前(2008年)に始まった、『EPA=経済連携協定』で、フィリピンとインドネシア、そして4年前(2014年)、ベトナムからも外国人材を介護現場に受け入れてきました。
その人数は10年間で、3,000人余りです。
また去年(2017年)11月、『外国人技能実習制度』に『介護』が新たな職種として加わりました。
スタートから1年で、これまでの受け入れ人数は数百人です。
さらに今、国会では、外国人材の受け入れを拡大するための法案が審議されています。
政府が示した『介護業』の受け入れ見込み数は、向こう5年間で5万人から6万人と大幅に増える算段となっています。
しかし、34万人が不足するとも言われる介護の人材を確保するのは容易なことではありません。
『技能実習制度』で実習生を送り出している国々の実態を取材しました。」

介護の技能実習関心低いフィリピン

リポート:山口雅史支局長(マニラ支局)

フィリピンのマニラ市内にある介護学校です。
この学校では、今年(2018年)7月、日本語のクラスを新たに設け、日本での介護人材の需要の高まりに応えようとしています。
しかし、日本語の難しさがネックとなり、応募したのはおよそ400人いる生徒のうち、10人程度。
介護の技能実習制度が始まってからの1年で、フィリピンから日本に行った介護実習生は1人もいません。

生徒
「日本語の言葉は難しい。」

長い時間をかけて勉強しても、日本で働くことができるのは最長で5年。
そのため、生徒たちの技能実習制度への関心は低いと言います。

介護学校の事務長
「必ず日本で働けるのであれば、投資と言えるが、約束はできないので、日本語を学ぶのはギャンブルと同じだ。」


一方、実習生の行き先として人気なのが、欧米諸国です。
こちらは、マニラ市で最も大きな介護専門学校のひとつ。
生徒たちに行きたい国を聞いてみると…。

生徒たち
「オーストラリア。」

「カナダ。」

「アメリカ。」

「カナダ。」

「カナダ。」

先生
「フィリピン人は英語になじみがあるから、英語圏の国に行きやすい。」


生徒の1人、クリスチャンジョン・ユーさんもカナダに行くことを希望しています。

クリスチャンジョン・ユーさん
「カナダに住みたいんです。」

カナダでは大卒の資格を持ち、一定期間介護の仕事をすれば、永住権を得ることができます。
去年、フィリピンの大学を卒業し、放射線技師の学位も取得しているユーさん。
カナダは将来の仕事も含め、人生設計ができることが魅力的だと考えています。

クリスチャンジョン・ユーさん
「カナダで数年働いて永住権を取得できたら、家族を呼び寄せて一緒に暮らしたいです。」


去年までの5年間に介護職でカナダに渡ったのは4,000人以上に上ります。
日本と介護の技能実習制度について交渉してきた政府の高官は、このままでは日本が人材を確保するのは難しいと言います。

フィリピン海外雇用庁 ベルナルド・オラリア長官
「カナダをはじめ、香港やシンガポールなど、多くの国がフィリピン人介護士を求めています。
日本だけがフィリピン人介護士を求めているわけではないことを日本政府はまず自覚する必要があります。」

  

人材集めに苦戦 ベトナム

リポート:横田晃洋支局長(ハノイ支局)

日本の技能実習生の最大の送り出し国となっているベトナム。
およそ13万人が日本の建設業や農業などで働いていますが、介護分野では、人材集めに苦戦しています。
この民間の業者は、首都ハノイ近郊に数億円をかけて、日本側のニーズの高まりに対応するため、全寮制の介護実習生専用の施設を整備。
日本側からの求人も1,000人に上ります。
しかし、応募は伸び悩み、求人の4分の1しか集められていません。

ベトナムの送り出し業者
「一般的な実習生より、介護の実習生の方が集めにくい。
あまり人気がないと思います。」


なぜ、人が集まらないのか。
理由の1つは乱立する送り出し業者にあります。

グエン・リンさんです。
3年前、介護の仕事で日本に行けると言われ、25万円を払い、送り出し業者で半年間、日本語を勉強しました。
しかし、いまだに日本に行くことができません。
リンさんの業者には許可が出ていなかったのです。
ベトナム政府は国内に280ある送り出し業者のうち、態勢が整っているとして13社のみに介護分野での許可を出しました。
しかし、多くの業者は許可制がとられる以前に見切り発車で人材を募集。
結果的に、応募者の多くがだまされた形になったのです。

グエン・リンさん(仮名)
「毎回毎回、行けると言われて行けない。
信じる気持ちがだんだん減っていった。
ずっと待って行けなかった友だちは、ほとんど行くのをやめました。」


介護が敬遠されるもう1つの理由が、SNSで共有される日本での体験談です。
介護の過酷な仕事の実態や、劣悪な扱いを受けているといった話が、日本の介護施設で働くベトナム人から発信されているのです。

「自分たちはさぼり、仕事を押しつけてくる日本人スタッフもいる。」

「いつも暴言を浴びせられながら介護をするのは幸せですか。」


こうした懸念を払拭することで、介護人材を確保しようとする人もいます。

「こんにちは、よろしくお願いします。」

兵庫県で3つの施設を運営する法人の人事部長、出口博久さん。
政府の許可を受けた送り出し業者から、去年12月、8人の若者を技能実習生として受け入れることを決めました。
出口さんはこの日、実習生の両親を呼んで、説明会を開きました。
技能実習生と向き合う姿勢を伝え、送り出す家族の不安を解消しようというのが狙いです。

日本の介護施設 人事部長 出口博久さん
「ただ働きに行くだけじゃなくて、人づくりをしたいと思っています。
皆さんと対話をしながら、必要なことをつくっていく、私を信じて任せてください。」


実習生の父親
「この施設なら信頼できるし、子どもを安心して預けられます。」


日本の介護施設 人事部長 出口博久さん
「人材育成というスタイルでいかないと、ただ使うという発想では、仲間として仕事ができない。
実習生の方には、できるだけのことをしようと思います。」

  

人手不足の介護現場 外国人材の受け入れは

花澤
「ここからは、ベトナムの取材に当たったハノイ支局の横田支局長に聞きます。
フィリピン、ベトナム、いずれも介護人材確保に向けて状況は厳しそうですね。」

横田晃洋支局長(ハノイ支局)
「フィリピンのケースは、もっと安くて良い商品を売っている店の隣で見劣りのする商品をさらに高い値段で売り始めた、というような状況です。
『日本に行く』ということはフィリピンの若者に魅力的に映る内容になっていないですし、それに見合う価格設定もなされていないというわけです。
また、ベトナムでは若者から不当に高い手数料を取る送り出し業者が、まだまだなくなっていないことに加えて、介護の仕事に対するネガティブな情報がSNSで共有されるようになってきています。
フィリピンとは異なり、ベトナムでは日本は介護人材が目指す有力な行き先の1つです。
にもかかわらず、介護施設との面接に合格した若者がそうした情報に触れ、日本に行く前に思いとどまってしまう、ということも起きているんです。」

酒井
「しかし、介護も含め、日本の人手不足はますます深刻になる、どう対応するべきなのでしょうか?」

横田支局長
「フィリピンとベトナムの事情から学ぶべきなのは、日本が門戸を開けば働きたい外国人が大勢やって来てくれる、という前提から離れる必要があるということです。
多くの人材を受け入れたいのであれば、受け入れ条件の抜本的な見直しは避けて通れません。
ただ、日本の技能実習制度は、低賃金での長時間労働など、アメリカや国連から、強制労働に悪用されるケースが後を絶たないと、再三批判されてきた経緯があります。
外国人であっても、日本人と変わらず労働者としての権利が守られるようにすること、そして、外国人が心からそこで働きたいと思えるような環境にできなければ、いくら制度を作っても、人材の確保にはつながらないのではないか。
取材を通して強く感じました。
以上、ハノイからお伝えしました。」

酒井
「日本の技能実習制度の待遇など知りますと、人気がない理由もわかる気がしますね。」

花澤
「そうですね。
技能実習制度全体でも、低賃金で過酷な長時間労働をさせていたケースが数多く報告されていますし、失踪した実習生への聞き取り調査では7割近い人が、『低賃金』を失踪の理由に挙げています。
『安い労働力』を確保する手段として安易に考えてきた実態が浮かび上がっていて、これでは日本に行きたい人が少ないのも当然のことと思えます。
『働きに来たいはずだ』という都合のいい認識のもとに議論をしていないか。
現地の状況は、まずは自らの姿を見つめ直すことから始めるべきではないのかと私たちに問いかけています。」

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