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特集

2018年10月19日(金)

治安悪化の中で“見切り発車” アフガニスタン議会選挙

 
放送した内容をご覧いただけます

酒井
「投票日を明日(20日)に控えた、アフガニスタンの議会選挙についてです。」


治安情勢の悪化などから、3年も先送りになってきたアフガニスタンの議会下院選挙。
反政府武装勢力タリバンなどが選挙を妨害するため、各地でテロや襲撃を実行しています。

治安が改善しない中踏み切る、今回の選挙。
背景にあるのは、アメリカなどからの強い圧力です。
トランプ政権は、政治の安定を確保し、和平に向けた糸口を探ると共に、最終的にはアメリカ軍の早期撤退につなげたい思惑があるとみられます。
混乱が深まる中、民意が反映される選挙となるのか。
現地からの報告です。

酒井
「2015年に行われる予定だった、アフガニスタンの議会下院選挙が、ようやく明日、投票日を迎えます。
今回は、250議席に対して、2,500人以上が立候補しています。」

花澤
「しかし、タリバンが投票所の襲撃を示唆する声明を出しているほか、投票方法にも多くの課題が残ったままで、言わば『見切り発車』の選挙となっています。
正当性を確保し、円滑に実施することはできるのか。
投票日目前の現地を取材しました。」

アフガニスタン 議会選挙 治安悪化でも 明日投票

リポート:宮内篤志支局長(イスラマバード支局)

取材班が向かったのは、アフガニスタン南東部の都市ガズニ。
今年(2018年)8月、タリバンによる大規模な一斉攻撃が行われた場所です。
一時は陥落寸前となりましたが、アメリカ軍の空爆などの支援を受け、なんとかタリバンを退却させました。

あれから1か月半。
市内には炎上した車の残骸などが放置され、当時の戦闘のすさまじさを物語っています。
国連の調べによりますと、この戦闘で69人の住民が死亡しました。

市民
「戦闘で多くの無実の人々が命を落とした。」

市民
「町が破壊され、略奪されたのにどうやって選挙をするんだ。」

こちらの黒く焦げた建物は、地元の選挙管理委員会です。

タリバンが、「今回の選挙はアメリカ主導によるものだ」として強く反発。
選挙関連の施設を真っ先に標的にしたのです。
有権者の登録情報なども焼失したたため、今回の選挙では、ガズニ州全体で投票が見送られました。
この州の議席は、治安が改善し改めて投票ができるまで空席となります。
アフガニスタン全体で、タリバンの影響力の強い地域を取り除いた結果、投票所の数は、当初の計画の7,300か所余りから5,000か所余りに縮小せざるを得なくなりました。

ガズニ州 選挙管理委員会 責任者
「我々に事務所を貸してくれる人なんて、怖くて誰もいない。」

  

さらに、選挙の候補者の安全も脅かされています。
これまでに、10人の候補者がテロに巻き込まれて死亡しています。
北部の都市、クンドゥズ。
交通の要衝として知られるこの場所は3年前に一時、タリバンに市街地を制圧されました。
今も市街地を取り囲むようにタリバンの勢力範囲が広がり、脅威が差し迫った状況が続いています。

治安部隊
「あそこに見える学校はタリバンの支配地域にある。」


この地域で、立候補している医師のファテマ・アジズさん。
ファテマさんのような女性の候補者は、全体の1割余りに過ぎません。
旧タリバン政権下では、女性の社会進出が厳しく制限されていただけに、ファテマさんはいつタリバンから襲撃されるか不安を隠せません。

選挙に立候補した ファテマ・アジズさん
「私や他の候補者が最も懸念するのは治安の問題です。
今は有権者を訪ねようとしても治安が悪くて行くことができません。」


ファテマさんも度々タリバンとみられる人物などから脅しを受けています。
万が一を考えて、屋外での選挙活動は極力控えています。
それでも移動の際には、地元の警察から派遣された護衛が付きます。
この日は、およそ100人の女性たちが集まる集会。
国政に女性の声を届ける重要性を強調しました。

選挙に立候補した ファテマ・アジズさん
「女性のために奉仕し、政府や国際社会にあなたの声を届けられる候補に投票すべきです。
国政の重要な問題に沈黙すべきではない。」


集会に参加した女性
「しっかりと治安が守られることで私たちも意中の候補に投票できる。」


今回の選挙が不安視されている要因は、治安以外にもあります。
アフガニスタンの選挙では、「1人の有権者が何度も投票を行った」などとして、過去に度々不正が指摘されてきました。
不正防止対策を強く求められた選挙管理委員会は、直前の先月(9月)になって、急きょ、新たなシステムを導入しました。

アフガニスタン 選挙管理委員会 副報道官
「選挙の透明性を確保するために、生体認証システムを採用した。」

ドイツから導入した、生体認証による本人確認システム。
端末2万台余りを各地の投票所に発送する計画です。
投票に訪れた有権者の指紋を登録し、顔写真などを撮影。
一旦登録して投票を行えば履歴が残るため、2回目以降の不正な投票ができない仕組みです。
しかし、投票は順調に実施できるのか。
現場の担当者たちは不安を感じています。

クンドゥズ州 選挙管理委員会 担当者
「初めて使うのでとても混乱している。
これまでは紙とペンだったが、生体認証システムは難しそうだ。」

来年春の大統領選挙に向けた重要な試金石となる、今回の選挙。
混迷を深めるおそれをはらんだまま、投票日を迎えようとしています。


花澤
「ここからは、取材に当たったイスラマバード支局の宮内支局長に聞きます。
アフガニスタンでは治安の悪化に歯止めがかからないまま、選挙を目前に控えていますが、それでも選挙を実施するのはなぜでしょうか?」

宮内篤志支局長(イスラマバード支局)
「やはり、アメリカからの圧力が強かったのだと思います。
トランプ政権は、アフガニスタンの和平に向けた進展を目指し、タリバンとの直接対話に乗り出しています。
アメリカとしては今回の選挙を口実に、タリバンに停戦を促すと共に、選挙を着実に実施して、政治の安定を確保したい。
その上で、和平に向けた糸口を探りながら、最終的にはアメリカ軍の早期撤退につなげたい、そんな思惑が透けて見えます。」

酒井
「各地では、襲撃が相次いでいるようですね。」

宮内支局長
「はい。
南部カンダハル州で、昨日(18日)アフガニスタンに駐留するアメリカ軍の司令官も出席して選挙の安全対策を話し合う会合が開かれました。
ところが、この会合がタリバンのメンバーに襲撃され、司令官が危うく難を逃れる事態となりました。
選挙の実施に強硬に反対してきたタリバンの姿勢が実際の行動となってアメリカに向けられたもので、今回のテロによって、対話ムードは水を差された形となりました。
タリバンは、今日(19日)になって新たに投票所の襲撃を示唆する内容の声明も出しています。
こうした強硬な態度は、アメリカのタリバン対策に影響を与える可能性も指摘され始めています。」

花澤
「今後、さらに混乱が加速することにならないのでしょうか?」

宮内支局長
「今回は、事実上の『見切り発車』で行う選挙ですから、来月(11月)10日の暫定結果、そして、12月10日の最終結果に合わせて、候補者の間から異議が相次ぐ可能性も捨てきれません。
政治の安定を取り戻そうと続けてきたアフガニスタン政府の努力が、かえって混乱を引き起こしかねない要素を含んだままです。
今回の議会選挙の結果が、来年(2019年)4月に予定されている大統領選挙にどのような影響を与えるのか。
議会選挙後の動きにしばらく目を離せない状況が続きそうです。
以上、イスラマバードからお伝えしました。」


酒井
「アメリカ軍の司令官もいた会合でテロがあったというのは大変な状況ですね。」
それでも明日選挙が行われるというのは、アメリカの意向が大きいということでしたね。」

花澤
「そうですね。
トランプ大統領は一昨年(2016年)の自身の大統領選挙で、アフガニスタンからの撤退を掲げました。
国際的な批判を浴びても多くの公約を実行してきたトランプ大統領にとって、去年8月にアフガンへの増派を決めたのは苦渋の決断でした。
トランプ大統領はいらだっていて、2年後の選挙に向けてなんとか撤退を進めたいという思いが強いと言われています。」

酒井
「選挙をすると撤退につながるということになるのでしょうか。」

花澤
「トランプ政権が描いている青写真があります。
今回の議会選挙、そして来年4月に予定される大統領選挙。
さらに今年7月と今月(10月)、2回に渡ってアメリカとタリバン側が和平交渉に向けた水面下の接触を行いました。
トランプ政権は『議会選挙』『大統領選挙』、そして『和平交渉』、『アメリカ軍の撤退』、『自身の再選』と描いている。」

酒井
「明日の選挙が先延ばしになると、トランプ政権の今後の計画が狂ってしまうということなんですね。
でも逆に混乱しかねない、というお話もありました。」

花澤
「選挙を実施しても、混乱したり、正当性が疑われるようなことになればかえって、増派が必要になるとも言われています。
17年にわたる長い戦争が続くアフガニスタン。
今回の選挙はアフガニスタンの今後を左右する分岐点となっています。」

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