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特集

2018年9月14日(金)

シリア “内戦終結”見据えて動き出すアサド政権

 
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酒井
「特集はシリア。
アサド政権が内戦の終結を見据え、動き出しています。」

反政府勢力「最後のとりで」となったイドリブ県。
アサド政権は総攻撃の構えを見せ、市民を巻き込んで多くの死傷者が出ることが懸念されています。

一方、アサド政権の牙城・ダマスカスで、開かれているのが、50近い国が参加する国際見本市。
シリア製の家電製品や、お菓子なども展示されています。
政権には安定ぶりをアピールする狙いが。

シリア ハミス首相
「シリアは復興のための闘いにも必ず勝利する。」


大きな転換点を迎えようとしているシリア内戦。
アサド政権の思惑に迫ります。

花澤
「7年前、民主化運動をきっかけに始まったシリアの内戦。
アサド政権はロシアやイランの支援を得て、軍事的に圧倒的な優位を固め、反政府勢力への攻勢を強めています。」

酒井
「今や、反政府勢力の主要な拠点は、北西部のイドリブ県を残すのみに。
もし、アサド政権がイドリブへの総攻撃を行えば、大勢の市民が巻き添えになるとして、今、国際社会の懸念が高まっています。
こうした中、アサド政権は、すでに内戦の勝利を見据え、経済復興に向けた動きを活発化させています。
首都ダマスカスにNHKの取材班が入りました。」

内戦下のシリアで見本市 終結見据えるアサド政権

リポート:渡辺常唱支局長(カイロ支局)

戦闘の爪痕が残る、首都ダマスカスです。
しかし、中心部は1年前に訪れた時より、さらに落ち着いた印象を受けました。
首都近郊にいた反政府勢力や過激派勢力は今年(2018年)5月までに全て排除され、ダマスカス市民の間には安心感が広がっています。

市民
「ダマスカスの郊外が解放されて、危機は去り、治安は前よりよくなりました。」

市民
「治安が回復し、元どおり安全な国になれば、投資家や民間企業も帰ってくるでしょう。」


今、アサド政権は貿易の促進や海外からの投資を呼び込むことで、内戦で疲弊した経済を立て直そうとしています。
その象徴が先週始まった国際見本市です。
2012年以降、内戦で中断されていましたが、アサド政権の戦況が有利になった去年、再開されました。
開会式で挨拶したハミス首相は内戦を終わらせ、経済を復興させると訴えました。

シリア ハミス首相
「シリアはテロとの戦いに勝った。
次は復興のための闘いにも必ず勝利する。」

参加した国内企業は130社。
銀行や保険などに加え、テレビや洗濯機を国内で製造する家電メーカーのブースもありました。
海外からは、韓国や中東など50近い国の企業や大使館などが出展し、売り込みをかけています。

渡辺常唱支局長(カイロ支局)
「こちらの会場は、ロシアとイランが大きなスペースを占めています。
内戦でアサド政権を支援した両国は、見本市でも大きな存在感を示しています。」

イランは、特産品のじゅうたんをはじめ、自動車などを出展。
一方、ロシアは重機メーカーなどが参加。
復興需要を見込んで、売り込もうとしています。

さらに見本市にあわせてロシアとのビジネスフォーラムも開かれました。
ロシアとシリアの企業、あわせて100社余りが参加し農業や運輸、情報通信などの分野で、貿易の促進やロシアからの投資について意見を交わしました。

シリア ハリル経済貿易相
「我々はロシアの投資家が支援しやすい環境を整えていきます。」

  

ロシア 農業関連企業 経営者
「内戦がまもなく終結し、復興するというので来ました。
復興プロセスに参加し、援助をしたいです。
(経済の)可能性は高く、需要もあるはずです。」

見本市に出展したシリア企業の中に、一刻も早い国の復興を願うビジネスマンがいました。
ダマスカスで衣料品メーカーを経営するバッサム・スルタンさんです。

バッサム・スルタンさん
「危機をようやく脱し、私たちも商品を輸出できる準備ができました。
新しい契約を結び、これからどんどん売って輸出していきたいです。」

スルタンさんの縫製工場があったのは、反政府勢力の支配地域です。
戦闘が激しくなり、操業できなくなりました。

現在は、友人の工場の生産ラインを借りて、スーツやズボンなどを作っています。
しかし、この春、政権側が縫製工場があった地域を制圧したことで、近く工場を再稼働できる見通しとなりました。
内戦前には、積極的に海外に輸出していたスルタンさん。
かつてのビジネスを再び、取り戻したいと考えています。
国際見本市に訪れたバイヤーにみずからの製品の良さをアピールします。

バイヤー
「細かくていい仕事してますね。」

バッサム・スルタンさん
「価格競争には負けないですよ。」

バッサム・スルタンさん
「国民も政府も団結してきました。
私たちがふんばれば、これから国は良くなるはずです。」

  

一方、国外に逃れ、アサド政権の退陣を求めるシリア人の間では、失望感が広がっています。
隣国トルコに避難した、実業家のムハンマド・ビタールさんです。
アサド政権を批判していたビタールさんは、拘束を恐れ、7年前にシリアを脱出しました。
現在、イスタンブールなどでシリア料理の店やパン屋など、合わせて11店舗を経営しています。

ムハンマド・ビタールさん
「非民主的なアサド政権が嫌でした。
自由はありませんでした。」

シリアにいた時は、セラミックの製造工場などを経営し、ダマスカスの国際見本市にも参加していたビタールさん。
政権側が見本市を再開したことを苦々しい思いで見つめています。

ムハンマド・ビタールさん
「アサド大統領は、大量破壊兵器、化学兵器の見本市をすべきです。
あの支配者がいなくならないかぎり、商人も労働者もシリアには戻りません。」

内戦終結後に向けた動きを加速させるアサド政権。
しかし、深刻な分断は残されたままです。

酒井
「トルコのイスタンブールにいる渡辺記者に聞きます。
アサド政権の経済復興の動き、現地でどのように感じましたか?」

渡辺常唱支局長(カイロ支局)
「アサド政権が自信を深めていることを、ひしひしと感じました。
取材した国際見本市は去年(2017年)再開されたのですが、実は去年は期間中、首都近郊にいた反政府勢力の砲弾が入り口付近に直撃し、死傷者が出る事態が起きました。
しかし今年は上半期に政権側が首都の周りを全て制圧し、安全を確保した上での開催となりました。
政権側は、内戦での勝利が近く、国際社会にこの現実を受け入れるようアピールする絶好の場ととらえているようでした。
ダマスカスの市民も内戦にうんざりし、経済の立て直しが始まることに期待し、普通の暮らしを求めています。
そして政権側は、国外に逃れた難民に対し、国に戻って復興に参加するよう呼びかけ、実際一部で帰国する動きも出ています。
しかし、アサド政権を批判し民主化を求めた人たちは、帰るに帰れません。
帰れば何をされるか分からないからです。
国外に逃れた難民は、今も560万人もいます。
国民の融和ははるか遠く、さらに欧米諸国との対立も続いています。
アサド政権が復興を進めようとしても、ロシアやイランといった友好国の協力だけでは限定的なものにならざるを得ない状況です。」

花澤
「今後、イドリブ県の反政府勢力への総攻撃が懸念されていますが、今後の見通しはどうなんでしょうか。」

渡辺支局長
「アサド政権は、シリア全土の主権の回復を掲げているため、総攻撃の構えを崩していません。
しかし、イドリブ県はこれまでの反政府勢力の拠点とは異なります。
それは『最後の拠点』という点です。
反政府勢力やその支持者にはもはや逃げ場はなく、総攻撃が始まれば、市民が戦闘に巻き込まれ多数の犠牲者がでると国際社会は強く懸念しています。
特に、ここ、隣国トルコは、国境を接する地域が不安定化しかねないだけに、必死に止めています。
今日(14)も、ここイスタンブールでは、トルコ、ロシアそれにフランスとドイツの当局者が、イドリブ情勢を巡って会合を開いています。
アサド政権と反政府側との間で、総攻撃の回避に向けた、落としどころが見いだせるのか、それとも、徹底抗戦を主張する反政府の過激な勢力を制御できず、全面的な戦闘が始まるのか、予断を許さない状況です。
シリア内戦は最終盤の分岐点に差しかかっています。」


酒井
「アサド政権は内戦終結後を見据えて復興に力を入れ始めた、ということでしたね。」

花澤
「そうですね。
自らの支配が軌道に乗る、というアピールでもあるわけですね。
しかし、イドリブではまさに今、大規模な攻撃が懸念されている状況です。
そうなればさらに多くの市民が犠牲になり、住むところを失う人も多く出ます。
内戦終結後を見据えて再び、支配を強めていくアサド政権と、各国の利害の間で翻弄されるシリアの人々。
さらなる悲劇を止められるのか、世界は今、その瀬戸際にいます。」

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